迷探偵 嬉野由莉香の推理Ⅲ
昼休み。一学期初めての試験の結果が、廊下に張り出された。
いつも通り一位に記されている自分の名前を確かめた嬉野由莉香は、何の感慨もなさそうに直ぐ踵を返す。彼女は頭脳明晰であり、試験では一年の頃から常に一位をキープしている。だから今回もそこに名前があるのは当たり前で、彼女の感情を掻き立てる要素は微塵もないのであった。
そもそも彼女の感情に波紋が広がることは滅多にない。昼休みでさえも読書で過ごし、放課後になるとすぐさま多目的教室へ向かう彼女に話しかけることのできるクラスメートはいない。それは畏怖であり、敬意であり、そしてほんの少しの侮蔑だった。
他人とあまり係わらない彼女の心が動かされるのは、素晴らしい小説と出会った時とそして、
「由莉香先輩!」
憎たらしいほどに溌剌とした一つ年下の後輩、古峯昇と昨年卒業した彼の姉、古峯繋に読書の邪魔をされる時だけだった。
昇の大声に、嬉野由莉香を知る生徒はぎょっとした。あの嬉野由莉香を、先輩付けとはいえ下の名前で呼ぶ人間が存在するとは露とも思わなかったのだ。
そしてそれは本人も同じだった。まさか廊下一杯に響き渡って有り余る声量で、自分の名前が呼ばれるとは思っていなかった。
駄目だこいつ・・・早く何とかしないと・・・などと由莉香は本気で考える。
「何の用なの」
冷淡にそう言った由莉香だったが、そんな声色を気にする相手ではない。昇は手に持っている弁当箱を由莉香に見せつけ、提案する。
「昼ごはん、一緒に食べましょうよ」
「どうして私が君と昼食を共にしないといけないの?」
「いいじゃないですか。どうせ一人なんでしょ?」
どうしてだろう、と由莉香はこめかみを痙攣させながら思う。 一人であることを望む由莉香は、他者からそのことを揶揄されようがなにも感じないはずだった。だがしかし、この眼前の陽気極まりない少年に言われると、怒りが込み上げてくるのだ。
「私は一人で食べたいの」
昇にそう言って教室に戻り、小さな弁当箱と一冊の小説を取り出す。それから彼女はそれらを持って教室から出た。
不思議なことに、昇の姿はどこにもなかった。そこはかとない嫌な予感が由莉香を襲う。まさか、とも思う。しかし彼女は喧噪に満ちる昼休みの教室が好きではなく、いつも通り茶髪を揺らしながら階段をつかつかと上がり始めた。
彼女は雨の日以外、屋上で昼食を取っている。そこは放課後の多目的教室と同じく、侵入されることのない不可侵の領域であるはずなのだ。
古峯繋がいなくなった今となっては。
「いやー、良い天気ですね。心が洗われる様です!」
「・・・私は君のことを、心から洗い流したいよ」
やはり、と言うべきなのだろう。シャイニンと降り注ぐ陽光を受けて大はしゃぎする昇の姿がそこにはあった。
「繋さんから聞いたの?」
「はい。ここが、由莉香先輩と初めて会った場所だと言っていました」
「ああ・・・」
それにこの場所で由莉香は、迷探偵だと繋に言われた。それからストーカーのように付け回され、遂には多目的教室にまで侵入されてしまったのだ。
否が応にも思い出してしまう。100gあたり198円の大特価スマイルを振りまく昇の姉と初めて出会った、昼休みのことを。
三、四時間目に渡って行われたスポーツテストを終え迎えた昼休み。由莉香が屋上でぐったりしている理由は言わずもがな、そのスポーツテストにあった。彼女の身体能力は一般生徒に苔が生えたようなもので、運動場一週を全力で走ることが出来ないくらいに低い。当然、用紙に記入されていくスポーツテストの結果は凄惨極まりない。武より文と考える由莉香も、その用紙を担任に渡す際には僅かながら顔を赤らめずにはいられなかった。
運動部に所属しているわけでもないし、気にすることはない。頭の中でそう言い訳しながらコップにお茶を注ぎ、飲み乾す。冷たさが喉を通る瞬間の心地よさがたまらない。珍しく由莉香は口元を緩め、柄のないお弁当の蓋を引っ張った。
その時、屋上と階段を繋ぐ扉が勢いよく開かれた。晴朗な笑顔で出てきたのは長身で体付きの良い女子生徒。彼女は屋上に居る先客に気付くと、手に持っていた弁当箱と本をぶんぶんと振るのだった。
「お天道様は今日もご機嫌だね。隣、良いかな?」
親し気に話しかけてきた女子生徒。しかし、由莉香に見覚えはなかった。辛うじて分かることは、女子生徒が手に持っている本が推理小説であることだけだ。
「あの・・・どこかでお会いしましたっけ?」
由莉香の問いに、女子生徒はやはり陽気に答える。
「いや、初めて会うよ。そういえば自己紹介をしてなかったね。私は三年B組の古峯繋。よろしく、ああ、よろしく」
古峯繋。どこで聞いたのか思い出せないが、その名前には聞き覚えがあった。
「はぁ。私は、一年C組の嬉野由莉香です。えっと、古峯先輩?」
「繋さんと呼んでくれ。先輩という響きはちょっと、面映ゆい」
「・・・では、繋さん。どうして私に声を掛けたんですか?」
意味が分からない、とでも言うように繋は首を傾げた。
「だって、初対面じゃないですか」
「うん、そうだね」
アスパラガスのベーコン巻きを口に運びながら繋は同意した。そう、同意しただけだった。
繋にとっては、初対面でもそこに人がいるならば声を掛けるのは当然なのだ。
「お、由莉香も推理小説が好きなのかい?」
いろいろ諦めて弁当に箸をつけ始めた由莉香に繋が問う。弁当箱の隣に推理小説を置いていた由莉香は軽く頷いて、魅力的な小説ならなんでもと付け加える。
「そうか。私は推理小説だけだなぁ。他のジャンルは小難しくて良く分からない。まぁ、推理小説もちゃんと理解しているとは言い難いけどな!」
そう言い豪快に笑う。出来るだけ他人との接触を避けて生きてきた由莉香はどう反応すればいいか分からず、そもそも反応する気もなかったので黙々とおかずを口に入れるのだった。
「特に今読んでいるこの小説は面白い。五つのリドルストーリーそれぞれに魅力があり、それが繋がった先で明らかになる真実には度肝を抜かされたよ」
「そうですね。私もその作家さんは好きですよ」
「そうか。それは嬉しいな」
繋は本当に嬉しそうに由莉香の肩を叩いて、それから携帯電話を取り出した。校則では所持禁止であるはずの携帯電話だが、緊急時用という名目があり授業中に使わない限り没収されることはない。
由莉香も親から持たせられた携帯電話が学生鞄の中に入っている。もっともそのアドレス帳には親のアドレスしか登録されてないのだが。
「ちょっと友達に電話してくるよ」
携帯電話を弄りながらそう言い、繋は廊下へ通ずる扉を開いた。
昼休みが始まって数分。スポーツテストによって奪われた体力を回復するはずの時間をあっけなく失った由莉香は溜息を吐きだす。
「電話する友達がいるなら、その人と一緒に食べればいいのに」
可愛らしいタコウインナーを箸で掴みながらそう呟く。
繋はすぐに戻って来た。そして、由莉香に唐突な質問する。
「由莉香は、水泳部なのかい?」
何度も言われてきた言葉に首を振る。
「この茶髪は地毛です」
「へぇ。染めないのかい?」
「両親からもらったものですし」
黒に染めるにはお金がかかるとか、面倒くさいとか、そんな理由もありはするのだが。
繋は、うんうんと感心したように首を縦に振った。
「じゃあ何か部活に入っているかい?」
「いえ、入っていません。運動部は身体能力から考えて無理ですし、魅力を感じる部活が文化部にはありません。そもそも私は、他人と係わることがあまり好きではないですから」
「確かに、この高校の運動部は厳しいし、文化部もそれほど数はないからな」
他人と係わることがあまり好きではない、という言葉を華麗に無視する。この古峯繋という人間の人物像が大体見えてきた由莉香が弾きだした結論はつまり、さっさとお弁当を空にしてしまうことだった。
「んー?」
滔々と喋り続ける繋が疑問符を放ったのは、由莉香の弁当が空になる直前だった。
何事かと繋を見る。その視線は運動場に注がれていた。
「どうしたんですか?」
「ああ、いや、何でもない」
それから何度も、繋は運動場の方を気にするようにちらちらと視線を向けた。由莉香も一瞥したのだが、理由は分からない。
弁当を食べ終え、立ち上がる。それから由莉香は軽く礼をしながら言う。
「それでは、これで」
「何だ、もう教室に戻るのか」
昼休み終了まではまだそれなりに時間がある。いつもならその時間を利用して安寧たる屋上で読書に耽るのだが、本日天気晴朗ナレドモ波高シ。嵐のような人物が居る屋上よりかはまだ、騒がしい教室の方が幾分かマシに思えるのだ。
「なら最後に、私の疑問に付き合ってくれないか?」
繋の指が運動場を指す。いや正確には、運動場に居る女子生徒を。
屋上からその女子生徒を見て分かることは、背がそれなりに高く肌が健康的に焼けていることと、体操服を着ていること。そして、顔を下に向けて運動場のあちこちを気だるげに彷徨っていることだった。
「あの人が、どうかしたんですか?」
「うん。実は、私が屋上に来た時からあの生徒は何か諦めたように地面を見つめながら運動場を歩いているんだ」
「そうなんですか。全然気が付かなかったです」
運動場に背を向けて座っていた由莉香は肩を竦めた。
昼休みのチャイムが鳴ってすぐに彼女は屋上へ上がった。その時すでに繋が指差した女子生徒が運動場にいたのなら、流石に目に留まったはずだ。
ならば、それから繋が来るまでの数分の間にあの女子生徒は運動場に来たことになる。
「一体、何をしているんだろうな?コンタクトとか落したんだろうか?」
「それはないと思いますよ」
ほう、と興味深そうな声を繋が発した。
「どうしてだ?」
「コンタクトって落したらすぐに気が付きますよね?」
「そうだな。外れたら感覚で分かるし、視界がおかしくなるし」
「でもあの生徒は運動場のいろんな場所を行ったり来たりしています。踏んでしまう可能性を考えていませんし、どこで落したのかも分かっていないようです。それに小さく見つけにくい物を落したなら、もっと屈んで探すんじゃないですかね?」
「ほうほう」
二人は女子生徒に目を向ける。確かに下を向いてはいるものの、ただそれだけである。また、彼女が運動場で描く軌道に法則性はない。運動場に居る他の生徒たちを避けて、ひたすらやる気なさげに歩いているのだ。
「焦っているような様子もないですし・・・ただ物思いにふけっているだけなんじゃないですか?」
運動場を低回しながら物思いにふける人間がいるとは思えない由莉香がそう言った理由は、さっさと繋から逃れたいためだ。
「う~ん・・・物思いにふけるならもっとこう、適した場所があると思うんだ。ああ、気になる!」
「なら直接、聞けばいいじゃないですか」
「つまんないじゃないか!」
力強く拳を握り、太陽へ向かって高々と突き上げる。土日の朝方のテレビで繁盛してそうなそのポーズにどんな意味があるかは理解できない。しかしそこに籠められた意味は確かに熱く、由莉香の心を冷ややかにさせるのだった。
「間違っていても良いんだ!ただ私をちょっとだけでいいから、納得させてくれないだろうか」
「めんどくさ」
ぼそりと悪態ついた由莉香だが、渋々運動場に目を向ける。それからしばらくその女子生徒を観察していた。
「繋さんが屋上に来た時、あの生徒がいたことは間違いないんですか?」
「ああ、間違いない。それからしばらくは由莉香との会話に夢中になって気にならなかったんだが・・・由莉香の弁当が空になる寸前に」
「変な声を出しましたね。その時、まだあの生徒が運動場にいることに気が付いて不思議に思ったわけですね」
首を縦に振る。その動作を受けて由莉香は、屋上の落下防止柵を背にした。
「当たっている気がしませんし、あくまで推測ですけど、それでもいいですか?」
「勿論だ!」
喉の調子を整える。
そして由莉香の唇から放たれるのは、変わらない淡白な口調。
「まず、彼女の目的を考えてみましょう。もう一度確認します。彼女は昼休みが始まって間もないころから運動場を気だるげに歩きまわっていたんですよね?」
「ああ、そうだ。地面を見つめながら、ずっと歩いていたよ」
「地面を見つめ歩き回る。コンタクトではないでしょうが、彼女はきっと何かを探しているんでしょうね」
地面を見ながら歩き回る。そこから考えられる目的は何かを探すことだけではない。だが由莉香はそれを分かっていながらそう言った。
これは完全を要する名探偵の推理ではない。繋を満足させられるかどうかの、いわばゲームである。
コンタクトとか落したんだろうか、と繋は言っていた。つまりあの女子生徒が何かを探しているように見えたのだ。
ならばそれを利用しない手はない。
「そうだな。私もそう思うよ。でも、何を探しているんだろうな?」
顎に手を当てて首を捻る繋の顔は険しい。そんな難しい顔も出来るんだな、と由莉香は少なからず驚く。
「ところで、三、四時限目は一年生が運動場、体育館でスポーツテストを行っていました。この時間、他の学年に体育の授業が割り当てられることはありません」
「言いたいことは分かる。あの女子生徒は三、四時限目にスポーツテストを行った一年生で、その時に何か落したんじゃないかってことだろう。でも、一、二時限目に何かを落した生徒かもしれないよ?」
「彼女は体操服を着ています。一、二時限目に体育の授業を終えた生徒が昼休みに体操服を着る理由があるでしょうか?」
「制服を濡らした、とか」
「それはもう偶然の域です。考慮に値しません」
「むー・・・あらゆる可能性を推測し、打破する。そうして残った、たったひとつの真実を見抜くのが探偵じゃない?」
「私は探偵じゃありません。そんなことを言うのなら、彼女はいるかもしれない地底人を探している、と完結させますよ?」
「成程!」
繋は正鵠を射たとばかりに掌に拳を打ちつけた。
唖然とする由莉香。しかし繋は上機嫌で口を開くのだ。
「いるかどうかわからない。だから希望なさげに地面を見ているのだな。体操服に着替えているのも、その方が地底人に気に入ってもらえるかもしれないと思ってのことか!あの女子生徒・・・できるっ!」
地底人は果たしてそんなにマニアックなのだろうか。知る由もないが、由莉香は頭を振った。地底人の前に眼前の地球人をどうにかしなければいけないことは明白だ。
いや、と頬を掻く。このままでいいのではないだろうか。少なくとも、繋は納得しているのだから。そう思う由莉香だがしかし、ふつふつと心に燻ぶる何かがそうはさせなかった。
「あり得ません。メルヘンの国から戻ってきてください」
「そうだな。一瞬、納得しかけてしまったよ、危ないところだった。宇宙人派であることに感謝しよう」
手と手を合わせる。昼食を食べる前ですらしなかったその行為は何とも繋に似合わない。
「だがしかし、五時限目に体育の授業がある生徒とは考えられないかな。運動場に何か用事があって、その時落してしまった物を探しているとか」
「成程そう考えますか。ところで繋さん、体育の授業に何を持っていきますか?」
目線を上にあげて繋が呻る。数秒後、出てきた答えは、
「何も持っていかないな。アクセサリとか携帯とか財布とか、ポケットに入れたら邪魔になるし・・・うん、少なくとも私は何も持っていかない」
そう言って繋は目を見開いた。
「じゃあ、あの女子生徒はなにを落したんだ?落すものがないじゃないか」
実際には、携帯や財布を持っていく人間もいるだろう。だがそう繋がそう答えた時の反論は用意していた。
由莉香が屋上に上がった時には女子生徒の姿は見えなかった。それから繋がやる気なさげに運動場を彷徨う女子生徒を見るまでに経過した時間を正確に覚えているわけではないがしかし、僅かであることは確かだ。
何かを落したにしては諦めるのが早すぎる、と。
だがこれも結局、落し物の存在を否定することに他ならない。
「何も落していないんだろうか?ならどうして地面を見ているんだろう?」
「いいえ、落したんです。正確には落したことになっている、でしょうか。そしてそれは、今日の一年生でなければ落せない物なのです」
ぐらんぐらんと揺れる繋。由莉香の放った言葉の意味が分からず彼女の頭は今にも爆発しそうだった。
「彼女は知っているんです。運動場に落したものなんてないことを。見つかりもしない物を探すのに、やる気なんて出るわけありません」
「う、うん?ならどうして彼女は運動場を歩いているんだ?」
「探しているフリですよ」
「フリ?」
「ええ。もしかすると、本当だろうかと疑う先生が見ているかもしれませんからね。結果の悪かったスポーツテストの記録用紙を探す自分の姿を」
沈黙が流れる。
破ったのはやはり、繋の大きな声。あー、とかうー、とか青空一杯に投げかけてやっと、言葉らしい言葉を発する。
「つまり、スポーツテストの記録用紙が無くなったと先生に嘘をつき、ばれないように探しているフリをしているってこと?」
「はい。焼けた肌から考えて、彼女は恐らく運動部です。この高校の運動部は厳しいと繋さんは言いましたね。もしかすると、スポーツテストの結果が部活に影響するのかもしれません。あるいは同じ部の人間に馬鹿にされるのが嫌なのかもしれません。まぁ、再テスト出来るのかどうか、私は知りませんが」
由莉香は自分のスポーツテスト用紙に刻まれた最低の記録を思い出して、少しだけ顔を歪めた。
「昼休みが始まってすぐ、あるいは始まる前に彼女は用紙を無くしたと嘘をついた。それから運動場へ探しに行ったため、体操服を着替える時間がなかったのでしょう。きっと、用紙はどこかに捨てられています。他の生徒に見つかっては不味いですからね・・・勿論これは、屋上からあの生徒を見て即席で考えたことで、合っている自信はありません。もっと良い答えがあるでしょう。というか、答えなんてないんですよね、繋さん?」
「ナ、ナンノコトカナ」
軽くカマをかけたのだが、分かりやすい過剰な反応だった。もしかしてという疑いが確信に変わった由莉香は額に手を当てて息を吐く。
繋が昼食の途中で電話をした相手は運動場で彷徨う女子生徒だった。同じミステリー作家が好きと聞いて彼女は試してみたくなったのだ。
ただ、やる気なさげに地面を見つめたり、運動場をあちこち歩き回ったりしたのはその女子生徒のアドリブで、繋が仕組んだことではなかった。
繋は、体操服で運動場に来てくれと言っただけだった。その体操服も、スポーツテストを一年生がやっていたなと何となく思っただけで、大した理由はなかったのだが。
「可愛そうじゃないですか・・・彼女、昼ごはんも食べてないんじゃないですか?」
「大丈夫だ。あいつ、早弁してるから!」
腰に手を当てて自分の手柄のように言う。
駄目だこいつ・・・早く何とかしないと・・・などと由莉香は本気で考える。
「気付いていたのか。それでも付き合ってくれるなんて良い奴だな、由莉香は」
「確証があったわけではないですけどね」
しかし繋はパチパチと音をたてて手を叩いた。
「いやいや、答えがない謎でもなんとかそれらしい理由を考える。素晴らしい”迷”探偵っぷりだ。きっと名探偵なら、答えがない謎は解かないよ」
「・・・・馬鹿にしているんですか?」
返って来たのは満面の笑み。その時だけ由莉香は、この上級生らしくない先輩に惹かれたのだった。
「絶対にそんなことはしない。だから由莉香、これからよろしく!」
伸ばされた右手。
由莉香は薄く笑いながら言うのだった。
「お断りします」
思い返してみると、なんとそっくりな兄妹だろうか。
弟は火災報知機。姉は運動場の女子生徒。どちらもはた迷惑な存在である。
「どうしたんですか由莉香先輩?」
「え?」
甘い卵焼きを噛みしめていた昇が怪訝そうに問う。
「何か楽しいことでも思い出したんですか?笑っているように見えましたよ?」
目を伏せる。それから由莉香は、運動場を見ながら首を振った。
「ただの、苦笑いだよ」
なんとなくこめかみを調べたら、越後七米神こめかみっ!とかいう変なサイトが見つかりました。
笑いました。
そして今回もあまりの整合性のなさ。一番ひどいんじゃないかと思いつつも投稿。「ウミガメのスープ」的な物を書きたかのですが、当然そんな高度な物になるはずもなく。。。