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ドリーミンオンライン  作者: 沙φ亜竜
ステップ2 情報漏えいには気をつけましょう!
9/31

-3-

 あたしたちがドリーミンオンラインを始めてから、一週間ほどが過ぎた。


 現実世界のあたしたちは三人で一緒に登校し、お昼休みには音美ちゃんと和風ちゃんと三人で机をくっつけ合わせ、お喋りしながらお弁当を食べる。

 それ自体は、以前となにも変わっていない。

 ただ、あたしが話す内容は、確実に変わっていたわけで。


「う~……、昨日ね、サファイアドラゴンのクエスト、失敗しちゃったぁ~」

「アホか! まだ全然レベル足りてないじゃん! それにあれって三人まで参加できたと思うけど、あたいら、声かけてもらってないゼ?」

「うん、だって、ふたりとも忙しそうだったから、ひとりで挑戦してみたの」

「どアホ! とりあえず声だけでもかけてくれればいいだろ! 死んだら経験値が減ってレベルアップも遠のくんだし! だいたいあたいは、ちまちまとアイテム合成してただけで、全然暇だったんだよ!」

「ふえぇ~、怒鳴らないでよぉ~。音美ちゃんの鬼~! 悪魔~! なまはげ~!」

「そんなこと言うのはこの口かっ!?」

「ふががががが! ふぉふぉひひゃん、ひゃふぇふぇひょぉ~(音美ちゃん、やめてよぉ~)」


 あたしと音美ちゃんが、そんな言い争い……というか小競り合いを始める。

 こんなところもやっぱり、以前と大して変わっていないのだけど。

 会話の内容は完璧に様変わりして、ドリーミンオンライン関連の話ばかりになっていた。


 ちなみにクエストっていうのは、主にギルドとかいう場所で受けることができる仕事みたいなもので、成功するとお金やアイテムがもらえたりする。

 たくさんのクエストをこなすと、クエストランクっていうのが上がっていって、受けられるクエストが増えていくらしい。

 例によって、あたしにはよくわかっていないのだけど。


「うふふふ、食事中だというのに、相変わらず騒がしいですわね~。ふたりのじゃれ合いを見ていると、ほんとに食が進みますわ」


 そんなあたしと音美ちゃんの様子を、やんわりとした笑顔で眺めている和風ちゃん。


「……和風ちゃん、その感覚ってちょっと変だと思う……」

「ま、こいつもこいつで、かなりの変わり者だからな」

「うふふふ、もしかしたら今度、偶然……ほんっとに偶然、おふたりの後頭部に氷の魔法をぶつけてしまうことがあるかもしれませんわね。お気をつけなさいませ」

「はう、ごめんなさい、和風ちゃん! ……うう、目が本気だよぉ~……」

「うふふふ、そ~んなことはございませんわよ~? ですが、偶然はいつ起こるかわからないから偶然なのですわ」


 ちょっと和風ちゃんが怖い人になっている気はするけど、あたしたち三人はいつものように仲よくお喋りを続けながら、お弁当を食べていた。


「そういえば、理紗のキャラクターの外見って、実際の理紗とはかなり違いますわよね~?」

「あはははは! そうだな~。まず、背が高いもんな。二十センチくらいの厚底ブーツでも履いてるのか? それにプロポーションも結構すごいよな。胸のサイズ、いったいどれくらいあるんだ?」


 話題はそのままドリーミンオンライン関連で続いていく。


 あまり現実の世界とゲームの世界をごっちゃにしないほうがいい、ということで、あたしたちはキャラクターの名前を口に出さないようにしていた。

 もっとも、人気のあるゲームだからサーバーの数もかなり多くて、たとえ同じゲームをやっている人が近くにいたとしても、ゲームの中で会えることは稀らしい。

 それでも、慎重になっておいて間違いはない、というのが和風ちゃんの主張だった。

 あたしとしては、そんなに気にしなくても大丈夫そうなのに、と思っているのだけど……。


 と、それはともかく。

 お喋りの内容は、ゲームの中であたしが使っているキャラクターについての話題となっていた。


「う~、だってさ、モデルさんみたいな体型って憧れるでしょ~? あたしは背も低いし胸もこんなだし、せめてゲームの中だけでも、って思ったから~」

「あはははは! 無駄なあがき?」

「あっ、音美ちゃん、ひどぉ~い!」


 ポカポカポカ。あたしは音美ちゃん両手で叩く。


「うふふふ、そういう音美だって、キャラクターは髪の毛が長いですわよねぇ? ポニーテールにしてまとめてはいますけれど、戦闘のとき、邪魔になっているのではないかしら?」

「うっ! いや、だってさ、ポニーテールって可愛いじゃん! あたいみたいなクセっ毛だと、伸ばしてもなかなかまっすぐにならないから、綺麗なポニーにできなくてさ……」

「それ以前に、伸ばすの面倒って言ってたでしょ、音美ちゃん……」

「あはははは……。理紗、くすぐりの刑!」

「わっ! きゃははは、ちょ、やめ、あはっ、もう、やだってばぁ~!」


 こうして昼休みの教室には、今日も今日とて、あたしたち三人の明るい声がこだまするのだった。


 なお、和風ちゃんのキャラクターは、驚くほど和風ちゃん本人に近かったりする。

 長いロングストレートの綺麗な黒髪だし、切れ長の目は大人っぽさをかもし出しているし、細くて白い手足はしなやかな線を描いているし……。

 キャラクターの容姿は用意されているパーツだけで作るしかないから、ぱっと見はかなり違うけど、全身から漂う雰囲気はまさに和風ちゃんそのものだった。


 和風ちゃんいわく、「だってわたくし、自分が大好きですもの」とのこと。

 あはっ、自分に自信があるってうらやましいな。

 そう言ったら、音美ちゃんから笑われた。……どうして笑われたのか、あたしにはサッパリわからなかったのだけど。



 ☆☆☆☆☆



 その日の放課後もいつもどおり、下校するやいなやパソコンの電源を入れ、ヘッドセットをかぶってドリーミンオンラインの世界へと踏み込んだ。

 あたしたちにとって、それはすでに日課のようになっていた。

 三人が合流したところで、なにやら人だかりを発見する。


「あら、あれはGM(ジーエム)さんですわね」


 あたしたち専用の解説者みたいになっているミズっちが、そう言って教えてくれた。

 人だかりの中には、なんだかやけに目立つ真っ赤な衣装を身にまとった女性が立っている。あれがGMと呼ばれる人なのだろう。

 ただ、当然ながらGMってのがなんなのか、まったくわからなかったあたし。

 いつものごとく疑問を口にすると、ミズっちは嫌な顔ひとつせず、丁寧に解説してくれた。


 GMっていうのはゲームマスターの略で、オンラインゲームにおいては、運営会社の人や、大きな規模のゲームだとバイトとして雇われている人なんかが操作する、いわば警察官みたいな人のことらしい。

 なにかトラブルとか不具合とかがあったら、いつでも呼び出すことができて話を聞いてくれる、とっても頼れる存在。

 とはいえ、人と人との小競り合いやケンカなんかはゲームの中でも結構あるみたいだけど、そういうことにまで対応してくれるわけではないようだ。


「GMがいるってことは、なんかトラブルでもあったのかな?」

「いえ、そうではないみたいです。定例講演だと思いますわ」


 リンちゃんの疑問に、ミズっちはそう答えた。


 オンラインゲームの場合、所詮ゲームの世界だからと無茶な行動をする人なんかは、絶えずいたりするものらしい。

 それが、高い建物の屋根の上に登って景色を楽しむとか、自分ひとりで強敵に突っ込んでいくとか、そういった他人に迷惑がかからないものなら問題はないのかもしれないけど。

 中には、いちゃもんをつけてケンカを始めたり、騙してお金やアイテムを奪ったり、セクハラ行為をしたりといったことまであるのだという。


 いくらゲームとはいえ、ひとつの世界として人と人とのつながりで構成されている以上、マナーを守って秩序ある行動を取ってもらうようにしないと、収拾がつかなくなってしまう。

 というわけで、こうして不定期にオンラインでのマナーなどについての講演を開いたり、主に町の中をパトロールしたり、といった活動をしているのだそうな。


「へぇ~。なんだか大変そうだねぇ~」


 あたしは、その講演をしている女性をじーっと見つめながら、感嘆まじりの声を漏らす。


「そうですわね。ちなみにGMさんは女性のキャラクターに統一されておりますけれど、中身がどうなのかはわかりませんわ。おそらく、ほとんどが男性だとは思いますが」

「ふぇ~……」


 ミズっちの言葉にも、まともな答えを返すことすら忘れ、呆然とGMさんの姿を眺めていた。

 だって、すごく綺麗で優雅なデザインの服だったんだもん。


「いいなぁ~、あれ」


 そうつぶやいたら、あれはGMさん専用の制服だから絶対手に入らないって、ミズっちに言われてしまった。


 GMさんは、なにやらブラックリストとかいう機能について話をしていた。

 迷惑行為を繰り返す人をそのブラックリストに入れれば、自分はその人から見えない状態になって、危険から身を守ることができるらしい。


 例えばAさんがBさんをブラックリストに入れたとすると、BさんからはAさんの姿が見えなくなるのだ。

 実際には、存在しないのと同じ扱いになって、姿を見られなくなるだけでなく、会話もできないし触れることもできなくなる。


 逆にAさんからBさんの姿は見ることができる。

 そのとき、ちょっと黒っぽくくすんだ色に見えるので、その人がブラックリストに入れた人だというのもすぐにわかる。

 見られることも話しかけられることも触れられることもないから、危険はないはずだけど、その人を視界に入れるのすら嫌だ、という場合にはその場から速やかに立ち去ればいい。


 何人からブラックリストに入れられているか、というのは運営会社側にもわかるから、あまりにもひどい人は永久追放になってしまうとか。

 ただ、運営会社としてはなるべくそこまでしたくはない。

 そんなわけで、マナーを守って秩序のある生活をしてもらえるように、講演をしているのだという。


「念のため説明してはいますが、ブラックリストの機能がなるべく使われずに済むことを願っています」


 そう言って、GMさんは定例講演を締めくくった。


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