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「やっ!」
ザシュッ!
カッコいい動作で魔物をばったばったとなぎ倒すリンちゃん。
「そこですわ!」
シャキーン!
杖を振り上げてその先端から氷の塊を飛ばし、魔物を次々と氷漬けにしていくミズっち。
そして、
「うきゃあ、こっち来たよぉ~!」
きゃあきゃあ騒ぎながら逃げ回るあたし……。
うん、自分でもわかってるよ。とっても情けないってのは……。
だけど、怖いものは怖いんだもん!
いくら可愛い外見の魔物が多いといっても、襲いかかってくるんだよ?
ギロリと鋭くそのつぶらな瞳の奥が光って、近づいたら殺してやるゼ、と言わんばかりに笑ってるように見えちゃうんだもん。
「ちょっとサリー、ヒーラーだって一応戦えるんだゼ? 攻撃力は高くないけどさ」
「うふふふ、リン。サリーには酷ってものですわよ。ここは頑張ってくださいませ」
リンちゃんがたまらず文句をぶつけてくるのを、ミズっちがなだめてくれる。
ただ、そんなミズっちも、息が上がってとっても苦しそうだった。
あたしたちは三人で一緒に行動している。
それをパーティというらしいけど、パーティに入っている人数が多いほど、出てくる魔物の数も増えるように調整されているのだとか。
つまり、三人パーティの場合、三人という人数に見合った数の魔物が出てくる。
それなのにあたしが逃げ回ってばかりだとどうなるか。もちろん言われなくたってわかる。
でも……仕方ないじゃん、怖いんだもん……。
「ねぇ、サリー。ヒーラーには補助魔法もありますわ。ですから、そういった魔法でわたくしたちを支援してくださいな」
あたしが泣き出しそうな顔をしていることに気づいたのだろう、ミズっちが優しげな声で提案してくれた。
「補助魔法……?」
「ええ……。サリーのイメージで、呪文も頭に浮かんでくるはずなのですが……」
「あ……。うん、なんかわかる気がする!」
そこで思い浮かんだ言葉を口にするあたし。
「フレー、フレー、リンちゃん! 頑張れ頑張れ、ミ~ズっち! ファ~イト~、お~っ!」
え~っと……。
これ、呪文なのかな?
よくわからないけど、あたしの両手にはいつの間にやら、チアガールの持っているポンポンみたいなのまで現れていた。
「うふふふ、応援といったら、そう連想したわけですわね。さすがサリーですわ」
「あはははは、サリーらしいな! なんか、元気が湧いてきた! もっとこう、飛び跳ねたり足を上げたりして楽しい応援、頼むゼ!」
「い……いやよぉ、パンツ見えちゃう~!」
リンちゃんの言葉で、あたしはとっさに両手で短いスカートを押さえる。
「そんな短いスカートタイプの服にするからだっての! ま、そうじゃなかったら、チアガールを連想したりもしなかったか!」
「うふふふ、そうですわね。さあ、もうちょっと頑張りましょう!」
「おう!」「うん!」
あたしたちはこんなふうに騒いだりしながらも、ドリーを含めた複数の魔物を蹴散らすことに、どうにかこうにか成功した。
☆☆☆☆☆
「ふ~、疲れたよぉ~」
戦闘を何度か繰り返したあたしたちは、疲れた体を引きずって、シルフィーユの町まで戻ってきていた。
この世界に入ってきて最初に出現する、大きな公園のある町は、各国の首都となっている。
で、国と同じ名前のついたそういった首都が、ドリーミンオンラインでの拠点となる。
ちなみにこの世界には、他にもたくさんの町がある。町だけじゃなくて、違う国なんかもあるのだとか。
そういえば、最初に自分が所属する国を選んだっけ。あたしはシルフィーユを選んだけど、あのとき選択肢に出ていた他の国もこの世界のどこかにあるってことだよね。
なんだか冒険心をそそられる気もするけど、レベルが低いうちは拠点の町付近で冒険するのが普通らしい。
どちらにしても、この世界ってとっても広そうだから、方向音痴のあたしなんかじゃあっという間に迷ってしまうだろう。
……ひとり歩きはすごく危険かも。絶対にリンちゃんとミズっちから離れないようにしなきゃ。
そんなことを考えながら、あたしは友人ふたりについていく。
やがて、人がたくさん集まっている場所が見えてきた。
「ここは中央広場ですわ」
ミズっちがすかさず解説してくれる。
広場という名前が示すとおり、確かに広い敷地となっているようだった。
人でごった返す中央広場の中を、あたしたちは三人並んで歩いていく。
広場の端っこに目を向けると、なにやら黙って座っている人の姿が数多く見受けられた。
そういった人たちの前にはシートのようなものが敷かれ、その上になにやら様々な品物が並べられている。
「なにこれ? 露天商さん?」
「ええ、そんな感じですわね。普通はバザーと呼びますけれど。こうやって自分の所持している商品に値段をつけて、欲しい人が買ってくれるのを待っているのですわ」
「値段?」
ぱっと見、どこにも値札なんて見当たらなかったから、あたしは反射的に訊き返していた。
「人の名前と同じだよ。じーっとどれかの商品を見つめてみ? 数字が見えてくるはずだから」
リンちゃんに言われたとおり、並べられていたピンク色の可愛いリボンをじっと見つめてみると、確かに数字が見えてきた。
これがこのリボンの値段になってるのね。
「ほんとだぁ~! なんだか超能力者になったみたい!」
「うふふふ、いつもながらサリーの感想は、ちょこっとずれておりますわね~。ほんと、楽しいですわ」
「あはははは。まったくだ!」
「え? え? なに?」
あたしには、ふたりがどうして楽しそうにしているのか、サッパリわからなかった。
と、そんなあたしに、
「そこの可愛いお嬢ちゃん、なにか買っていかない?」
バザーをやっている人がそう言って声をかけてきた。
「あはっ! え~っと、でもお金がないので、ごめんなさい!」
ペコリと頭を下げて、あたしはその場をあとにする。
リンちゃんとミズっちもそれに続く。
ニコニコニコ。あたしは思わず笑顔になっていた。
「えへへ、可愛いお嬢ちゃん、だって!」
買ってあげることはできなかったけど、そう言われたら嬉しくなるよね、やっぱり。
「……どう考えても、女性に対してなら誰にでも言ってると思うゼ?」
「そうですわね。それに、本当に可愛いと思われていたとしましても、それはキャラクターの外見ですわよ?」
あたしの嬉しい気分に容赦なく水を差してくるふたり。
「うう~……。でもでもぉ……内面も見てくれてるかもしれないじゃん!」
「初めて会った人なのに?」
「う……」
必死に抗おうとするも、それは結局、無駄な抵抗にしかならなかった。