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「こら、サリー! そんなへっぴり腰じゃ、この先やっていけないゼ?」
「そうですわよ! これからは甘やかさず、ビシバシ特訓していくべきかもしれませんわね!」
「ふ、ふえぇ~……。お手やわらかにお願いね~……」
あたしはそれからも、リンちゃんとミズっちといつでも三人一緒に、ドリーミン世界での生活を楽しんでいた。
なんだかあの一件以来、あたしの立場はさらに弱くなってしまったような気がしなくもない。
だけど……楽しいし、ま、いいか。
あたしはそう考えて納得していた。
だってふたりとも、ドジでトロいあたしを、放り出したりせずにしっかりと支えてくれてるんだもんね。
エンゼさんはあれから、一度もあたしたちの前に姿を現していない。
ただ、あたしはエンゼさんとのフレンド登録を解除してはいなかった。
拒否すればいつでもフレンド登録を解除することできると知ったのは、あの一件が終わったあとだったのだけど。
それでもあたしは、解除せず残すことに決めた。
もっとオンラインでのコミュニケーションに慣れたら、もう一度お話してもいいかな、とも思っている。
あたしに謝って、近づかないと言ったのを、しっかりと守ってくれているわけだし。
また、エンゼさんのほうからフレンド登録を解除することもなかった。
あんなことがあって、GMさんからも厳重注意を受けた原因であるあたしとフレンド登録をしたままの状態というのは、エンゼさんにとってもつらいのではないかと思う。
解除しちゃえば、忘れることだってできるかもしれないけど、そうはしなかった。
それは、自分のした罪を認め、悔い改めた証だと言える。あたしはそう考えていた。
ミズっちが言っていたように小学生くらいの子だったとしたら、初めてオンラインの壮大な世界に触れて、よくわからないうちにあんな行動を取ってしまった、ということもあるかもしれないのだから。
☆☆☆☆☆
そういえば、セルシオさんこと紫苑さんと、クズキリさんこと和風ちゃんのお兄さん――葵さんは、同じ学校の同じ学年というだけでなく、クラスメイトだったとのこと。
本来なら現実世界のことはあまり持ち込まないほうがいいはずだけど、さすがに同じクラスだと知ってしまえば意識してしまうものなのだろう。
ドリーミン世界にいるとき、最近ではいつもふたり一緒にいるようだった。
もっとも、同じクラスだと知ったのはつい最近というわけでもないらしい。
あたしがお昼休みに教室を飛び出したとき、紫苑さんに誘われて一緒にお弁当を食べたことがあった。
あのとき紫苑さんは、ある人から頼まれてあたしの様子を見に来たと言っていた。そのある人というのは、和風ちゃんではなく、実は葵さんだったんだって。
その前日にあたしは和風ちゃんの家に連れていかれたけど、泣きながら帰っていったのを見て心配していたみたい。
セルシオさんとクズキリさんは、なんだかとってもいい雰囲気で、見ているこっちのほうが恥ずかしくなるくらいだった。
ドリーミン世界ですらそんな様子だから、きっと現実世界でも同じようにいい雰囲気なんだろうな。
とはいえ、ドリーミン世界だと性別があべこべなふたりだから、現実世界ではどんな感じになるのか、あたしにはまったく想像できなかった。
あとは、ふたりの仲むつまじい様子を見て、音美ちゃんがなんだか一時期いじけたようになっていたのが気になるところ。
いったい音美ちゃん、どうしちゃったのかな?
和風ちゃんは、「そうだったのですか……。ですが、あんなバカ兄様なんか、やめておいて正解だったと思いますわよ? ふう……。紫苑さんも、あんなお兄様のどこがいいのでしょうか……」なんて言っていたけど。
やめておいて正解って、どういうこと?
あたしが訊いても、ふたりは苦笑いを浮かべるばかりだった。
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ともかくあたしは、いろいろとあったものの、これからもこのドリーミンオンラインを楽しんでいきたいと考えている。
あたしのそばにはいつも、ふたりがいる。
現実世界では音美ちゃんと和風ちゃんが、ドリーミンオンラインの世界ではリンちゃんとミズっちが。
どっちの世界にいても、ふたりがあたしの親友だってことに、変わりはないのだ。
「ふたりとも、これからもよろしくね!」
クエスト中、突然放たれたあたしの言葉に、さすがのふたりも驚いているようだった。
「今はそんなことより、魔物を倒すことに集中しろ、このバカ!」
「は、はう……」
そんな頭ごなしに怒鳴らなくても、と思わなくもなかったけど、とにかくリンちゃんに言われたとおり、戦闘に集中する。
もちろんあたしは相変わらず、わーきゃー騒ぎながら逃げ惑いつつ、ちまちまとふたりに回復魔法をかけたりするだけなのだけど。
☆☆☆☆☆
クエストを終えたあと、あたしたちは公園のベンチに座って無駄話に夢中になっていた。
いつもながらの光景。
「それにしても、サリーのさっきのセリフは唐突だったよな~!」
「う……」
「まぁ、サリーの頭の中では、つながっていたのでしょうけれど。うふふ、さすがは異次元の思考ワープ娘ですわ!」
「ちょ……、変なあだ名つけないでよぉ~!」
ポカポカポカ!
あたしはいつも通りのじゃれ合いで、ミズっちを両手で交互に叩く。
と、その両手をミズっちがガシッとつかんだ。
「ふえっ?」
「さっきの返事、しっかりとしておきますわ。こちらこそ、よろしくお願いしますわね、サリー」
じっとあたしの目を見つめ、彼女はハッキリとそう口にする。
「……うん! 親友だもんね!」
笑顔でそう答えるあたしに、ミズっちは、
「うふふ、親友以上、ですわよ……」
と言ったかと思うと、どんどんと顔が大きくなってくる。
あれ? 違うわ。
ミズっちの顔が、近づいてきて……。
え……?
なにが起こっているのか判断できずに呆然とするあたしの唇に、やわらかな感触が重なった。
「うふふふ」
気づくとミズっちは目の前で笑っていた。
あれれ? えっと、今のは……?
「あ~……なるほど、お前がそっち系だったのか……」
リンちゃんのつぶやきが聞こえる。
え? え? そっち系って? いったい、なに……?
呆然として声も出せないあたしを、ふたりはそれぞれ笑顔と苦笑を浮かべながら見つめていた。
……え~っと……。
そう、親友以上ってことは、イコールも入ってるのよ!
だからあたしとミズっちは親友ってことなの!
さっきのは、親友同士のちょっとした挨拶なのよ!
だいたい、ゲームの世界でのことなんだし!
あたしはそう自分に言い聞かせるのだった。
☆☆☆☆☆
……その翌日、現実世界でも和風ちゃんから同じ挨拶をされてしまったわけだけど。
うん、単なる挨拶よ、挨拶――!
以上で終了です。お疲れ様でした。
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