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ドリーミンオンライン  作者: 沙φ亜竜
ステップ4 よりよいコミュニケーションを心がけましょう!
21/31

-3-

 二戦目もあたしたちの国シルフィーユは、接戦の末ではあったけど勝つことができた。

 対戦相手は優勝候補の一角、シェイディアだったのだから、大健闘と言えるだろう。


 基本的に八国の強さは均衡が保たれ、毎回勝ち続けているような国にはハンデが与えられる、と言われている。

 実際にどうなっているのか、詳細は明かされていないとのことだけど。

 でも、優勝したチームは次の戦争イベントでは勝てない場合が多いという。


 偶然なのかもしれないけど、ゲームの運営側としては調整を入れるだろうというのが、オンラインゲーム慣れしている人たちの意見だった。

 だからといって、それを確認するすべもないし、あたしたちの国が最弱と呼ばれていることの説明もつかないわけだけど。


 ……そう、最弱。


 まだ新しいサーバーだから、戦争イベントも今回で四回目という話だけど、毎回必ず一回戦負けしてきた国らしい。

 だからこそ、こうして決勝戦まで勝ち残った今、みんな異常なまでに盛り上がっているのだろう。

 高レベルの人たちのテンションは最高潮、「明日も絶対勝つぞ~!」と叫んで、若干冷めた目で見ているあたしたちみたいな低レベル陣の士気も高めようと必死だった。


「うふふふ、すごい熱気ですわね」

「あはははは! ちょっと暑苦しいくらいだけどな!」

「……ええ、リンさんみたいです」

「な……っ!?」

「うふふふ、クズキリさんもなかなか、言うようになりましたわね」

「……べつに、素直にそう思っただけです」

「くっ! ここは怒るべきところかもしれないが……! でもま、クズキリだと許せるから不思議だゼ!」

「……ふふふ」


 クズキリさんも、すっかりリンちゃんやミズっちと打ち解けているみたいだった。


「アハハハ! さすがだね、クズキリちゃん! そのはにかんだ微笑みもクールな感じで可愛いし!」

「…………(ぷい)」


 ……ただひとり、エンゼリッヒさんだけはなんだか浮いているというか、若干壁を作られている気がするけど。


 それでも、気分が高揚しているからか、なんとなく毛嫌いしている様子だったミズっちも、それなりにエンゼリッヒさんと言葉を交わしたりはしていた。

 一緒のパーティになって三日も経つと、自然と慣れてくるものなのかな。

 あたしでさえ、やっぱりまだベタベタくっついてくるのには慣れないものの、こういう感じの人なんだと悟ってからは、適当に受け流したりもできるようになっているのだから。


「と……とにかく、明日の決勝戦も頑張りましょ~!」

『お~~~っ!』


 控えめに発したあたしのかけ声に、同じパーティの仲間四人は声を揃えて応え、こぶしを高々と掲げてくれた。



 ☆☆☆☆☆



 翌日。

 意気揚々と決勝戦に臨んだあたしたちではあったのだけど。


 戦況は芳しくなく、序盤から完全に圧され気味。


 もちろん、ある程度予想はしていた。

 なんといっても、決勝戦の相手は毎回必ず最終戦まで勝ち上がってくる優勝候補の筆頭国、サラマンドだったからだ。

 過去の戦績を見る限り、本当にハンデなんかがあるのか怪しく感じるところだけど。


 それはともかく、あたしたちの補給部隊は今回、お城から最も近い砦に配置されていた。

 休む暇もなく、次々とアイテムを求める味方が駆け込み、さらには頻繁に敵国からの襲撃を受ける。


 お城が近いから、倒されても戻ってくるまでの時間は短くて済むけど、だからといって黙って倒されるわけにもいかない。

 というか、倒されると痛いんだもん。


 システム的に調整されているから、死ぬほどの痛みを伴うわけじゃないけど、もともと泣き虫なあたしにとっては恐怖以外のなにものでもない。

 痛みで泣きそうな状態のまま、復活した地点でひとりきりなんて、絶対に大泣きしちゃう。

 それではいくらなんでも情けなさすぎるし、あたしは気合いを入れて必死に……逃げ回っていた。


 ……それも情けないじゃん、とか言わないで……。


 と、そんなとき、高レベルの味方部隊が砦に駆け込んできたかと思うと、大声でこう叫んだ。


「城が包囲された! 全員で城の防衛に回るぞ!」


 慌ててお城付近まで戻っていくあたしたちの目に、炎やいかずちの派手なエフェクトが映り込む。

 激しい戦闘が繰り広げられているようだ。

 鳴り響く轟音と振動で、足が震えてくるくらい。

 だけど、逃げ出すわけにもいかない。


 ぎゅっ……。


 ミズっちが震えを感じ取ってくれたのだろう、そっとあたしの手を握ってくれた。

 なにも言わず、黙ったまま一緒に走るだけではあったけど、手のひらを通してミズっちの温かさが伝わってくる。


 お城に到着したあたしたちは、最終防衛戦ともいうべき緊迫した戦いに、微力ながら加わった。

 倒された人数のカウントもあるから、自分の身も守らなきゃいけない。

 でも、お城の耐久度がゼロになったら、問答無用で負けなのだ。まずはお城を守ることに専念しなきゃ。


 見れば敵側も全力攻撃を仕掛けてきているようだった。

 そこかしこで「行け~~!」とか「そこだっ! やれ~~!」とか、熱い叫び声が飛び交っている。


 お城へと向かってくるあいだに、ミズっちはこう言っていた。


「おそらくサラマンド国の方々は全力攻撃に打って出ていると思われます。ですからこちらは大逆転を狙って、向こうのお城に突撃隊を送っているはずですわ。わたくしたちは、お城を守ってさえいれば逆転勝利の可能性もあるというわけですのよ。最後まで諦めず、頑張って戦いましょう!」


 あたしたちに勧めた張本人とはいえ、同じ日にこのゲームをスタートしたはずなのに、ミズっちはとっても頼もしい。

 きっといろいろと調べたりしているのだろう。


 ――わたくしが勧めた手前、つまらなかったじゃ終わらせませんわ。

 そんなことを考えながら、日々努力している姿が目に浮かぶ。


 ミズっちの頑張りに応えるためにも、あたしは必死に戦うしかない。

 傷ついた味方を見つけては回復して回るという、ヒーラーとしての務めをメインに据えながらも、物陰に隠れつつ敵の攻撃力や防御力を下げる補助系の魔法をかけたり、相手国の人に背後から殴りかかったりもした。


 ピンチに陥ることもあったけど、そんなときは颯爽と、リンちゃんやミズっちが現れて助けてくれた。

 あっ、それに、エンゼリッヒさんも。

 いつものような軽い喋り方もできないほど余裕のない状態ではあったけど、それでも必死にあたしを守ってくれて、ちょっと見直しちゃった。


 そうやって全員一丸となり、一心不乱にお城を守り続けていたわけだけど。

 西日が差し込み始める時刻――イベント終了予定時刻まではまだ一時間くらいあるはずのタイミングで、ゲーム終了のドラの音が無情にも響き渡る。


 そのドラの音は、シルフィーユ国のお城がもろくも崩れ去る轟音によって、かき消されていった。

 もうもうと湧き上がるホコリが、視界を真っ白に染め上げてゆく。


 あたしたちの国は、負けてしまったのだ。


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