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さて、戦争イベントがあるのは明日だ。
だけど、今日のうちに準備しておかなきゃいけないことがある。
戦争イベントに持っていけるアイテムの数が限られているのは、前にも説明したとおりだけど。
一部のアイテムは、まとめる作業をこなすことで、複数のアイテムをひとつ分扱いにできる。
そのための装置が町にあって、誰でも使えるようになっているのだ。
ただ、戦争イベント用のアイテムとして準備する場合には、イベントメダルというものが必要になる。
そのメダルは、戦争イベントの前にだけ各地のフィールドマップに現れ、イベントが終わると消えてしまう。
そこで、低レベルの補給部隊には、イベントメダルを集めてきて補給用アイテムをまとめるという役割が与えられていた。
中レベル以上の人たちは、それぞれの部隊ごとに詳細な作戦の説明なんかがあるから、メダル集めには参加できない。
だからこそ、あたしたちが頑張って集める必要がある。
フィールドマップというのは、魔物や野生動物が徘徊している地域のこと。
当然ながら、メダルを探し歩いていると、そういった魔物などに襲われてしまうこともある。
基本的に、町の近くのフィールドマップには弱い魔物しかいないけど、遠くに行けば行くほど強い魔物が出てくるようになっているらしい。
あたしたちは、まだレベルも低いから、あまり遠出をするわけにもいかない。
とはいえ、町の近くを探すだけだと、すでにメダルが回収済みだったりして見つからない可能性も高い。
五人で相談した結果、ちょっとだけ強い魔物が出てくるかもしれない地域にまで繰り出してみよう、ということに決まった。
なるべく五人でまとまって、慎重に探していこう。
そう考えて、身を寄せ合いながらの移動。
いまだに町の近くにいる弱い魔物が相手でも恐怖感が消えていないあたしとしては、怖くて怖くてたまらない。
ぷるぷると震えながら、どうにか他の四人にくっついていく、といった状態だった。
「サリーちゃん、怖いの? 手をつないでおこうか?」
そんなあたしに、エンゼリッヒさんが声をかけてきた。
エンゼリッヒさんは、パーティの中でひとりだけの男性だからと言って、自らリーダー役を買って出ていた。
だからなのか、他の四人に指示を出したり、気遣いの声をかけたりと、しきりに話しかけてくる。
リーダーをやってくれているのに失礼だけど、ちょっと、その……うんざりするくらいに。
リンちゃんもミズっちもクズキリさんも、げんなりしたような顔になっていた。
「あ……えっと、大丈夫です」
心配の声を向けられたあたしは、そこまで気を遣ってもらうのも悪いし、という思いもあって遠慮の声を返す。
でもそのすぐあと、あたしの手は問答無用で握られていた。
といっても、手を握ってきたのはエンゼリッヒさんではなかったのだけど。
「サリーの手は、わたくしが握っておきます。だから大丈夫ですわ」
あたしの手を優しく包み込んでくれていたのは、ミズっちの温かい手だった。
「ふ~ん……。そっか。それじゃあ、頼むね」
一瞬、明らかな不満顔を見せたものの、すぐに笑顔に戻り、前に向き直って辺りの探索に集中するエンゼリッヒさん。
前に向き直るとき、微かに舌打ちのような音が聞こえたのは、あたしの気のせいだったのかな……?
☆☆☆☆☆
メダル集めをしていると、今までに見たことのない魔物が襲いかかってきたりして、あたしたちは体力をかなり消耗していた。
少し強めの魔物とはいっても、倒せないわけじゃない。
ともあれ、休憩を挟まずに襲いかかってこられると、みんな息も上がって大変なことになってしまう。
リンちゃんとエンゼリッヒさんがファイターで、ミズっちとクズキリさんがメイジ。
たったひとりのヒーラーであるあたしも、かなり厳しい状態となっていた。
ゲームっぽく言うなら、MPがほとんど残っていない状態、ということになるのかな?
普通のパーティだったら、ヒーラーはメイジよりは攻撃力も防御力も少し高いから、前線に立つファイターのサポートくらいはするものらしいのだけど。
運動音痴なあたしには、それも難しい。
だから、あたしがパーティの中央に守られる形で、そのすぐ横にメイジのふたりが並び、前にエンゼリッヒさん、後ろにリンちゃんと、ファイターふたりに挟まれるようなフォーメーションとなっていた。
でも、魔物の攻撃の中には、衝撃が強くて吹き飛ばされてしまうようなものもある。
そうやって吹き飛ばされたり、次々と襲いかかってくる魔物に突撃したり、といったことが繰り返されると、フォーメーションも自然と崩れてしまうもので。
「あっ……!」
気づいたときには、あたしのすぐ目の前に、強力な吹き飛ばし攻撃をしてくる魔物が迫っていた。
やられるっ!
そう思ったあたしは、反射的に目をつぶった。
されど、衝撃はなかなか襲ってこない。
……あれ?
おそるおそる目を開けてみると、草むらに倒れた魔物の姿が、あたしの視界に映り込んできた。
「サリーちゃん、大丈夫だった?」
エンゼリッヒさんが助けてくれたんだ!
辺りを見渡すと、他の三人は戦闘の流れであたしから離れてしまい、たまたまエンゼリッヒさんだけがそばに残っていたようだった。
ふぅ……。
安堵の息をつく。
その拍子に足の力が抜けたのか、ぐらっと視界が揺れたかと思うと、あたしはそのまま前のめりに倒れ込んでしまう。
それを、エンゼリッヒさんが抱きとめてくれた。
「わっ……っっ……! ちょっと、大丈夫? やっぱり少し、休むべきかな?」
優しく気遣ってくれるエンゼリッヒさん。
すでに周囲の魔物は一掃したみたいで、静けさが戻っていた。
あたしが倒れかかっていることに気づき、他の三人も駆け寄ってくる。
「サリー、平気?」
ミズっちからかけられた心配の声を受け、エンゼリッヒさんの腕に支えられながらも、あたしはどうにか自分の足で立ち上がる。
「うん、大丈夫。だけど、ちょっと休みたいかな」
「そうですわね。それでは、あの木陰で休憩しましょう」
みんなに気を遣わせて、あたしは身が縮む思いだった。
それに加え、ついさっきエンゼリッヒさんが倒れそうになったあたしを支えてくれたとき、「わっ」と驚いたあと、小さく「重っ」とつぶやいたことに、あたしは一番大きなショックを受けていた。