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あたしたちが足を運ぶと、中央広場はすでにたくさんの人でごった返していた。
あまりにも多すぎて、広場から溢れ出しちゃうくらい。
戦争イベントに参加する同じ国の人たちが今、準備のために集まっているのだ。
「うわ~、こんなにたくさん、このゲームをやってる人がいたんだ~」
なんて感嘆の声をこぼしたら、
「おバカさんですわね。全部で八国あるのですから、このサーバーだけで八倍、さらにはサーバーが全部で十五……十六だったかしら、ともかくそれだけあるのですわよ? ここにいる人なんて、ほんの一部分にしかすぎませんわ」
ミズっちからツッコミを入れられた。
「ふえぇ~……」
でもまぁ、八倍の十六倍とかいう(あたし的には)天文学的数字に、想像の許容量を超えてしまって、いまいち驚きの度合いも少なかったりして……。
「ま、たくさんいるってことだな。しっかし、こんだけうじゃうじゃと人がいたら、司令官もまとめるの大変だよな!」
リンちゃんが他人事のように言う。
……もっとも、実際に他人事なのだけど。
リンちゃんがまとめる立場だと、絶対にまとまりなんてなくなっちゃう。
そりゃあ、あたしよりは確実にマシだと思うけど……。
あたしが司令官なんかになったら、絶対おろおろして、周りから呆れられちゃうよ。
「ふふふ、確かに大変そうだよね。でも、だからこそレベルの高い人が率先して、いろいろと指示を出して頑張るんだ。あそこにいる人たちみたいにね。ほら、あの赤いバッヂをつけている人たちが、司令官ってことになるんだよ」
あたしたちのそばには、一緒に広場に入ってきたセルシオさんもいる。
リアルで会っているため親近感は湧いているものの、実際の性別と違うということもあり、どうしても違和感が拭いきれない。
でも、あたしたち三人よりも早くこのゲームを始めていたらしいから、頼りになるお姉様……じゃなくってお兄様? といった感じだった。
広場では赤いバッヂをつけた高レベルの人たちが、てきぱきと指示を与えていく。
戦争イベントでは、役割ごとにパーティを組むことになる。
高いレベルの人は戦闘部隊として突撃隊、陽動隊、守備隊などに分かれるらしい。
中くらいのレベルの人は、それをサポートする役割となり、そして低レベルのあたしたちには、補給部隊の役目が与えられた。
力押しだけでは勝てないようにという配慮か、戦争イベントに持っていけるアイテムの数には上限がある。普段持てる数よりも、さらに数が制限されるのだとか。
戦闘部隊やサポート部隊が消費アイテムを使って数が減った場合、戦線を離脱して戻ってくることになる。
そういう人たちにアイテムを渡すのが、あたしたち補給部隊の役割だった。
戦争イベントでは、倒された人数がカウントされて、一定数に達した時点で負けとなる。
もし倒れさたとしても、拠点にまで戻されるというペナルティーがあるものの、すぐに復活して戦線に復帰することが可能になってはいる。
だけど、低いレベルの人は自然と狙われやすくなるから、通常は個々に行動せず、なるべくまとまっておくのが定石らしい。
数ヶ所の補給地点を設けて、そこに低レベルの補給部隊を集め、迅速にアイテムの受け渡しができるようにする。
補給地点には守備部隊も配置し、敵の襲撃から低レベルの人を守ってくれるのだという。
ふえぇ~。いろいろ考えてるんだね~。……ゲームなのに。
などとつぶやいたら、ミズっちから怒られてしまった。
「所詮ゲームだ、なんて考えてはダメですわよ? 司令官をやっているような高レベルの方々は、本気でこのイベントに燃えているのですから」
あたしだけに聞こえるようにそう言って、ミズっちはあたしの頭を軽くコツンと叩く。
言われていることは理解できたけど、なんだか子供っぽい扱いを受けている気がして、あたしは不満を述べながら口を尖らせた。
すると、
「そういうところも、子供っぽいんだけどな」
すかさず、リンちゃんから容赦ないツッコミが飛んできた。
☆☆☆☆☆
しばらくすると、あたしたちのそばにも赤いバッヂの人たちがやってきて、パーティの割り振りを指示された。
あたしはリンちゃんやミズっちと一緒のパーティ。
セルシオさんだけは、あたしたちよりもいくつかレベルが上だから、違うパーティに入ることになった。
ひとつのパーティは、最大で六人までという制限がある。
上限人数にまではせず、ひとり分の空きを作って、五人パーティで構成していくようだ。
ひとり分の空きを作っておくのは、パーティの入れ替えを素早くできるためと、高レベルの人が一時的にパーティに入り、直接指示するためという意味があるとのこと。
さすがにこれだけの大人数の声がすべて聞こえてくると、どの声を聞いていいか判断が難しい。
だから通常は、パーティの中だけで聞こえる会話というのをメインにして、それ以外の声は聞こえないようにしておくらしい。
パーティの中のひとり、リーダーに対してだけは、高レベルの人から個別に指示が届き、リーダーはその内容をメンバーに伝える。
そうやって、すべての部隊をまとめていくのだという。
う~ん、あたしには手に負えない世界だわ……。
あたしみたいな子は、高レベルになんてならないほうがいいのかも……。
ところで、他のパーティと同様、あたしたちも五人パーティとなるように指示された。
そんなわけで、あたしとリンちゃん、ミズっち以外に、ふたりの人が加わることになった。
「……どうも。わたしはクズキリといいます。よろしく」
ひとりは、ちょっと控えめな印象の女性だった。
女性というよりも、女の子って言うべきかな。
もちろん、外見は、ってことだけど。
落ち着いた雰囲気と名前の印象から、なんとなくミズっちに近い感じに思える。
……ミズっちのほうは、全然控えめじゃないけどね。
「うふふふ、よろしくお願いしますわね。同じメイジですし、名前も同じ和菓子系ですから、親近感が湧きますわ。もしよろしければ、わたくしのことをお姉様と呼んでいただいても構いませんわよ?」
「……い、いえ……、遠慮しておきます……」
ミズっちはそんなことを言って、クズキリさんを困らせていた。
「アハハハ! ハーレム状態だ! 女の子ばっかりだと、明るくっていいね~!」
そしてもうひとりは、なんだかちょっと軽めな笑い声を響かせる男性だった。
「オレはエンゼリッヒ。見てのとおり、ファイターだよ! よろしくね~!」
そう言いながら、次々と四人の手を取り、勝手に握手をしてきた。
「よろしくね、サリーちゃん!」
「あっ、はい、よろしく」
汗のせいか、ベタッとしていて気持ち悪かったけど、不快感をあらわにしたら悪いよね……。
あたしはそう思って我慢していたのだけど。
「よろしくね、ミズちゃん!」
「うふふふ、よろしく」
ミズっちは笑顔で答えながらも、エンゼリッヒさんの手が離れた瞬間、握られていた手をあからさまにハンカチで拭っていた。