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「さあ、明日からは戦争ですわよ!」
「ほえっ?」
金曜日の帰宅途中、いきなり和風ちゃんがそんなことを言い出した。
あたしの聞き間違いかな……?
そう考えて、思わずきょとんとしてしまう。
「戦争ですわ、戦争! わくわくしますわよね!」
「ふえぇ?」
戦争って……、というか、それを「わくわくする」と表現するなんて……。
そんな不謹慎なことを、和風ちゃんの口から聞くなんて……。
ケンカっ早い音美ちゃんなら、わからなくもないけど……。
「ちょっと待った! 理紗、なんか失礼なこと考えてるだろ!?」
「ふ、ふえぇ~? 音美ちゃん、エスパー?」
「やっぱりか、こいつ! えいっ!」
「ふわぁ~、ギブギブ! 首をしめないでぇ~!」
「ヘッドロックっていうんだよ!」
なんだか音美ちゃんとのじゃれ合いでうやむやになって、戦争発言について和風ちゃんに詳しく訊いている時間はなくなってしまった。
「うふふふ、まぁ、ドリーミンの中で話しますわ。もちろん、オンしますわよね?」
「うん、そのつもりだよ」
完璧にハマっているあたしにとって、帰ったらドリーミン世界に入るのは日課みたいなものだしね。
「それじゃ、またあとでね~!」
あたしはふたりに手を振って別れを告げると、急ぎ足で家へと向かった。
☆☆☆☆☆
「というわけで、今週末は国別対抗の戦争イベントが大々的に行われますの」
ドリーミン世界に入り、あたしはサリーとして、リンちゃんとミズっちのふたりから説明を受けた。
この世界には、全部で八つの国がある。
ゲームをスタートするときにどの国に所属するか決めたけど、あたしたち三人は言うまでもなく同じ国を選択していた。
その理由は、ただ単に遠く離れてしまうからだと、あたしは思っていたのだけど。
違う国にすると敵味方に分かれることになるから、という意味合いもあったようだ。
国別対抗の戦争イベント。
それは、八つの国がトーナメント方式で戦っていき、一番強い優勝国を決める、いわばお祭イベントらしい。
でも、戦争を楽しむなんて、いけないことだよ……。
そう反論したら、ミズっちはあたしの頭を撫でながら、あくまでもゲーム世界のイベントですわよ、と微笑んでいた。
「ふふふ、サリーちゃんは相変わらずみたいだね」
不意にあたしたちの会話に加わってきたのは、爽やかな笑顔を振りまく男性、セルシオさんだった。
中身が女性だと知ってしまった今では、なんだかとっても妙な気分になってしまう。
そんな気分だったせいもあったのか、セルシオさんの笑顔を見ていて、あたしはふと先日の件を思い出した。
このあいだの件では音美ちゃんが怒っていたわけだけど、不思議と和風ちゃんは怒っていなかった。
あたしがお昼休みにこそこそと紫苑さんに会いに行ったときも、和風ちゃんはなにも言わず、音美ちゃんにくっついていったという。
それは、セルシオさんの中の人は女性なのではないかと気づいていたからだった。
個人情報なんて調べるすべはないし、絶対とは言えなかったけど、ほとんど確信していたとのこと。
だからこそ、怒っている音美ちゃんにはそのことを伝えずにいた。
「だって、そのほうが面白そうでしょう?」
和風ちゃんは、当たり前のように言ってのけた。
……なるほど。和風ちゃんと紫苑さんって、似たような種類の人なんだわ。
あたしは妙に納得してしまった。
☆☆☆☆☆
それはともかく、セルシオさんもミズっちと一緒になって、イベントの説明をしてくれた。
ドリーミンオンラインは普段、プレイヤー同士では戦えないようになっている。
プレイヤーVSプレイヤー、略してPVPとか言ったりするらしいけど、そういうことはできないのだ。
昔のオンラインRPGで、プレイヤーの操作しているキャラクターを殺して金品を強奪するといった行為が横行していたことがあったという。
死んだキャラクターが、ペナルティーとして装備品やお金をその場に落としてしまう、というシステムになっているゲームに多く見られる行為だったみたいだけど。
金品強奪などができないシステムだったとしても、相手を直接殺すとか、足止めして魔物に襲わせるとかして、嫌がらせをするような人が出てきてしまうものらしい。
そんなことをして、なにが楽しいのかな?
あたしには理解できない感覚だけど、そういうことに楽しみを見い出す人がいるのは事実のようで。
現在のオンラインRPGでは、PVPはできないか、PVP専用の闘技場のような場所でのみ可能、というのが一般的なのだとか。
そんなわけで、ドリーミンオンラインもご多分に漏れず、PVPができないシステムになっているのだけど。
ただ、この戦争イベントのときだけは違う。
専用のマップが用意されていて、参加者全員入り乱れての大乱戦となる。
対戦相手の国の人に対して、思いっきり攻撃することが可能となるのだ。
なお、優勝国と準優勝国には特典が与えられる。
それ以外にも、個人的にレベル以上の活躍を見せた人が表彰されることまであるらしい。
「この戦争イベントは不定期で開催されますけれど、現実世界で三連休になる日に合わせて開催されることが多いのですわ」
「……あっ、そっか。月曜日もお休みだったんだ……。あはっ、あたし、知らずに登校しちゃうとこだったよ~。危なかった~」
ミズっちの説明に、あたしは思わず言葉を挟む。
そんなあたしになにやら微妙な感じの視線を向けつつ、
「さすが、サリーちゃんだね!」「さすが、サリーだゼ!」「さすが、サリーですわ!」
三人の声は不思議なほど綺麗に重なっていた。