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ドリーミンオンライン  作者: 沙φ亜竜
ステップ3 大きなイベントには極力参加しましょう!
13/31

-1-

「どうしよう……」


 あたしは迷った挙句、リンちゃんとミズっちがオンしてきたあと、セルシオさんについて相談することにした。


 以前森で迷っていたときに助けてもらったこと、

 とても優しそうでいい人みたいだということ、

 さっき偶然再会してフレンド登録をしたこと、

 さらに、ついメロディーズの話をしてしまい、近くに住んでいると知られてしまったこと。


 全部包み隠さずに話した。


「まったく、サリーは。いつもぼけーっとしてるから……」


 リンちゃんがため息まじりにつぶやく。


「本当にそうですわね。もっと気をつけなくてはダメですわ。いつもわたくしが、口を酸っぱくして言っておりましたでしょう?」

「うう、ごめんなさい……」


 ミズっちからも当然のごとく責められ、あたしは反射的に謝ってしまう。


「謝ってもどうしようもありませんわ。まぁ、近くに住んでいると知られても、メロディーズは人気店ですし、結構遠くからでも行く人はおります。ですから、本人を特定することまではできないはずですわ」

「でもさ、もっと慎重になるべきではあるよな」

「うう、ごめんなさい……」


 呆れ顔ではあったものの、フォローしてくれるミズっち。

 だけど、続けざまに向けられたリンちゃんからの言葉に、あたしは再び反射的に謝ってしまった。


「うふふふ。反省しているみたいですから、もうこの件は不問と致しましょう。……フレンド登録したということですから、しつこく連絡を取ってくるかもしれませんけれど、もし迷惑に思うようにまでなったら、すぐわたくしたちに相談してくださいませね?」

「うん……」


 優しくそう言ってくれるミズっちに、あたしは素直に頷く。


「よっし! それじゃ、気分一新して三人でクエストにでも行くか!」

「了解ですわ!」「うん!」


 こうしてあたしたち三人は、クエストへと向かうのだった。



 ☆☆☆☆☆



 クエストも終わり、一日中遊び回ったあと、リンちゃんとミズっちはそれぞれアイテム合成の時間に入った。

 最近は遅い時間帯になると、眠くなるまで合成するということが多くなっているようだ。

 もっともあたしは、相変わらず合成になんて手が出ないのだけど。


 辺りはすっかり暗くなっていた。

 町の中心にある時計塔を見上げてみると、もう九時半過ぎ。


 オンラインゲームって、何ヶ国語にも翻訳されて、世界中で遊ばれているものもあるらしいけど。

 純日本製のドリーミンオンラインは、今のところ日本だけでしか販売されていないらしい。

 というわけで、時計塔に示される時間は、日本の現在時刻と同期するようになっている。


 そろそろお風呂に入って寝なきゃいけない時間だと、しっかりわかってはいたのだけど……。

 あたしはなんとなく、オンしたまま公園のベンチに座ってぼーっと時間を過ごしていた。


「さっきはごめんね。もし怒ってないなら、返事をしてほしいな……」


 突然、頭の中に声が響く。

 それはセルシオさんの声だった。

 フレンド登録をしてあるから、遠くにいてもこうして声をかけてくることが可能なのだ。


 とはいえ、返事をするかどうかは、あたし次第ということになる。

 リンちゃんとミズっちからは、慎重になるようにと言われた。

 しばらくは声をかけられても無視しちゃっていいかも、とまで言われていた。


 でも、それもなんとなく悪い気がするよね……。

 それにセルシオさんの声はすごく寂しそうな感じで、聞いているこっちの胸が苦しくなってしまうくらいだった。

 あたしのせいで不快な気持ちになっているのは、むしろセルシオさんのほうなのかもしれない。


 どうしよう……。


 数瞬のあいだ、あたしは迷っていたのだけど。

 結局、返事をすることに決めた。


「こんにちは、セルシオさん。こちらこそ、さっきはごめんなさい」

「あ……。返事をしてくれたんだね、ありがとう」


 あたしの返答を聞いて、セルシオさんの声は一瞬にして嬉しそうな調子に変わる。

 なんだかちょっと、可愛いかも。あたしはそう思って、微かに笑みをこぼす。

 数分間ほど、あたしはセルシオさんと軽く会話を交わし、もう寝る時間だからと言ってドリーミン世界をあとにした。



 ☆☆☆☆☆



 それから数日経ったある日。


 あたしとリンちゃん、ミズっちの三人は、中央広場にいた。

 クエストに出る前に準備を整えておこうという話になり、町の中にある店を巡ったあと、この広場に足を運んだのだ。

 適当にバザーを見たりしながら、お喋りしつつ広場を歩き回る。

 そんなあたしたちの背後から、声がかけられた。


「やぁ、久しぶり。……もしよかったら、少しだけ話をしてもいいかな?」


 ちょっと遠慮がちな声。

 振り向いたあたしたちの前に立っていたのは、いつもながらの爽やかさをまとったセルシオさんだった。

 声の勢いと同様、その爽やかさも若干曇ってしまっているようには感じられたけど。


「あ……えっと、……はい」


 あたしは親友ふたりの顔色をうかがいつつ、肯定の意思を返す。

 リンちゃんもミズっちも言葉を挟んでこなかったから、その判断は間違っていなかったのだろう。……たぶん。

 ただふたりとも、なんとなく目つきがいつもよりも鋭いように思えた。


「こちらのふたりは、お友達だよね? ふふ、みんな可愛いね。……サリーちゃんたちは、これからクエストかい?」

「あっ、はい」

「そっか。……えっと、頑張ってね!」

「はい!」


 やっぱりまだ遠慮があるようで、セルシオさんは軽く会話を交わすとすぐに、


「それじゃあ、わたしはこれで。またね、サリーちゃん。お友達のふたりも、邪魔しちゃってごめんね」


 と言って中央広場から去っていった。


 残されたあたしたち三人組……。

 リンちゃんとミズっちの反応を、あたしは黙って待つ。


「あの人が、このあいだ言っていた、フレンド登録した人ですのね」

「なんか、軽そうなやつだよな。みんな可愛いね、だってさ! 絶対、誰にでもあんなふうに言ってるんだゼ!」


 ミズっちはともかく、リンちゃんはどうやらセルシオさんのことが気に入らない様子だった。

 リンちゃん、セルシオさんのことをよく知りもしないくせに……。

 あたしにしては珍しく、少々ムッとしていた。


 それで終わっていれば、べつに問題はなかったのだけど。

 リンちゃんの言葉はそこで止まることはなく、さらに続けられてしまう。


「あまり親しくしないほうがいいんじゃないか? もしかしたら、ホントにしつこくつきまとわれたり……」


 そう言われたあたしは思わず、


「セルシオさんなら大丈夫だもん!」


 と大声で叫び返してしまった。


 そして駆け出す。


 周りの人たちが何事かと振り返ってひそひそと話している声と視線を背中に受けながら、あたしは一目散に広場から走り去る。

 そのあとを、リンちゃんとミズっちは追いかけてきてくれなかった。


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