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ドリーミンオンライン  作者: 沙φ亜竜
ステップ2 情報漏えいには気をつけましょう!
12/31

-6-

 土曜日だから学校もなく、今日は一日お休み。

 というわけで、朝起きてすぐだというのに、一日中ドリーミンオンラインができるわ~、とワクワクしながらオンするあたし。


 ……なんだか、すっごくハマっている自分にびっくりだけど。


 ともかくそうやってオンしてはみたものの、リンちゃんもミズっちも、まだオンしていなかった。

 まだこんなに早い時間だから、それも当たり前か。きっとそのうち来るよね。

 そう考えたあたしは、まったりと時間をつぶすことにした。


 普通の人はこういう場合、ひとり用のクエストをしたり、リンちゃんみたいにアイテム合成とかをしながら待ったりすることが多いと思うけど。

 クエストに関しては、以前にも言ったとおり、あたしにはまだ困難だから無理として。

 合成のほうはどうなのかというと……。


 いくらリアリティの高いこのドリーミン世界でも、アイテムや装備品を作るために、いちいち職人さんみたいな技術を使って手間暇かける、っていうわけにもいかない。

 時間がかかっちゃうからね。

 そんなわけで、素材となるアイテムをパズルのように組み合わせて、正しくできたらポワンと煙になって新しいアイテムが現れる、といった仕組みになっている。


 ただ、この「パズルのように組み合わせる」というのがあたしにとっては非常に難しくって……。

 ジグソーパズルとかをやってもすぐに投げ出すような人間に、そんな複雑なことなんてできるはずもなく。

 しかも合成に使った素材は、成功しても失敗してもなくなってしまうから、あたしが作ったら素材の無駄になる可能性が圧倒的に高い。


 合成にもレベルがあって、上手くなると通常より性能のいいアイテムや装備品が作れる場合があるから、そうやってお金儲けもできたりするらしいけど……。

 そもそも成功することすらできないあたしには、絶対に無理だと言わざるを得ない。


 ふん。いいもん。あたしはリンちゃんに頼んで作ってもらえばいいんだもん。

 ……手数料を取られちゃうけどさ。友達価格だとは言ってたけど。

 と、ちょっとすねたりしながら、あたしは公園へと足を運んだ。



 ☆☆☆☆☆



 このゲームを始めたばかりの人が最初に入ってくる場所。

 いわば現実世界からドリーミン世界への入り口。


 ゲームを終わらせるときには、終わりにすることを頭に思い浮かべれば、すぐに意識が現実世界に戻るようになっている。

 そのため、本当に最初の最初だけしか、この公園に来る用事はないと言えるのだけど。


 静かで落ち着いた雰囲気と、噴水や草木の織り成すささやきが心地よい場所だということもあって、あたしは暇さえあれば好んで足を運んでいる。

 お気に入りの場所なのだ。


 ベンチに座り、ぼへーっと周囲を眺めていると、初心者さんがきょろきょろしている姿や、木漏れ日を受けながらゆったりと散歩する人の姿、数人の集団で現れてはしゃぐ人たちの姿なんかが目につき、ほのぼのとした気持ちになってなかなか楽しい。

 とくにきょろきょろしている初心者さんなんて、まるで最初の頃の自分を見ているみたいだし。


 どうしていいのかわからずに困っているようだったら、思いきって声をかけ、「向こうに行くと商店街があるから、お買い物をして準備を終えたら、町の外に出てみるといいわよ」とか、ちょっとしたことだけど教えてあげたり……。

 あたしはそんなふうに時間を過ごしながら、リンちゃんとミズっちがオンしてくるのを待っていた。


「あれ? キミは……」


 不意に背後から声がかかる。

 あっ、この声は――。

 期待を込めて振り向いたあたしの瞳に映ったのは、思い描いたとおり、清々しい笑顔が素敵なあの男性――セルシオさんだった。


「あ……どうも、こんにちはっ!」

「ふふ、奇遇だね、こんなところで」

「そうですね! あたしは、その、ここって静かで好きだから……」

「ふふ、そうなんだ。実はわたしもそうなんだよね。頻繁にってわけじゃないけど、たまに来てるんだ」

「わぁ、そうなんですか! なんか嬉しいです! あたしと同じように感じてる人がいたなんて!」


 突然の再会で喜びを隠せないあたしに、セルシオさんも優しく言葉を返してくれる。


「……わたしも座っていいかな? もしよかったら、少しお話でもしない?」


 そう言われて初めて、あたしは自分だけがベンチに座り、セルシオさんを立たせたままだったことに気づく。


「あっ、はい、ごめんなさい! ど……どうぞっ!」


 あたしはベンチの端にお尻をずらし、セルシオさんが座る場所を空けた。


「ありがとう。……よいしょ」


 ふわっ……。


(わ……、なんか、いい匂い……)


 セルシオさんがあたしの隣に座ると、綺麗な栗色をした長めの髪の毛が風になびいて、爽やかな香りがあたしの鼻をくすぐる。

 あたしが思わず頬を染めて、なにを話していいやら戸惑っていると、セルシオさんのほうから話しかけてくれた。


「あっ、そうだ。とりあえず、フレンド登録させてもらっても、いいかな?」

「は……はい、えっと、その……お願いします」


 あたしはフレンド登録の申し出に、少々戸惑いながらも、頷きを返した。


 リンちゃんとミズっちを除けば初めてのフレンドさん。

 なんだか嬉しくて、自然と笑みがこぼれてしまう。

 ちなみにフレンド登録は、言葉に出してフレンド登録してもいいかを訊き、OKをもらえればその時点でお互いフレンドになれる。そういうシステムになっているようだ。


「今日もひとりなんだね。いつもはお友達と一緒だって言ってたよね?」

「あっ、はい。リンちゃんとミズっちっていうんですけど、ミズっちはまだ起きてないみたい。リンちゃんはメールがあって、ちょっとケーキを買いに行ってからオンするみたいです」

「へ~。そのお友達はリアルのお友達なのかな?」

「はい、そうなんです」


 現実世界のことを、オンラインゲームとかチャットとかの世界では、リアル、と呼ぶことが多いらしい。

 リアルの友達のことも、リアフレとかリア友とか、略して言ったりなんかもするとか。

 オンライン上では、そうやって略された言葉を使用する人が異常なほど多いように感じる。


 あたしとしては、あまり略されるとなにがなんだかわからないし、ちゃんと言ってほしいと思うのだけど。

 街の中で聞こえてくる会話も、わからないことが多かったりするし……。

 そういった部分も、あたしが積極的に他の人と接触したいと思えない原因になっているのだろう。


 それはともかく、セルシオさんからの優しい笑顔を向けられたあたしは、質問されたことにも素直に答えていたわけだけど。

 ふと、和風ちゃんが口を酸っぱくして、リアルのことはなるべく話さないようにと言っていたのを思い出した。


 ……でも、これくらいだったら、べつに構わないよね?

 それに、セルシオさんにだったら、全然問題ないよね?

 和風ちゃんが心配してるのって、変な人につきまとわれたりしたら危険だからって理由だったわけだし……。


「ケーキかぁ。いいよね、甘い物って。ついつい食べすぎちゃう」

「あはっ、そうなんですよねぇ~。カロリー気にしなきゃって思ってるのに、目の前にあったら絶対我慢なんてできなくて」

「ふふ、そんなもんだよね~。わたしはショートケーキが好きだなぁ~」

「いいですよねぇ~。苺が甘酸っぱくて最高ですよねぇ~! あたしはメロディーズってところのババロアイチゴムースが大好きなんです! あっ、今日リンちゃんが買いに行ってる店って、そのメロディーズなんですよ!」

「え……? へ~、メロディーズかぁ~。あそこ、美味しいよね~! でもびっくりしたなぁ、結構近くに住んでるんだね、キミ!」

「ふぇっ?」


 楽しく会話していた温かな空気に、突然冷たい雨が降り注いできたような、そんな気分だった。


「いや、だってほら、メロディーズって、知る人ぞ知る名店って感じで、店舗の拡大はしない店でしょ? 確か店長さんの方針で、大手からチェーン展開の申し出があったのも断ったっていう……」

「あ……」


 そうだった。

 地元では誰でも知っている超有名なケーキ屋さんだから、つい当たり前のように話していたけど、メロディーズはうちの近くにある一店舗だけだったんだっけ。


「えっと、その……はう……」


 どうしよう……。

 ミズっちからあれほど、リアルのことは知られないようにって言われていたのに……。


 リンちゃんやミズっちがリアルの友達だって知られたのは、べつにそれほど問題じゃないと思うけど。

 近くに住んでいることを知られてしまったのは、もしかしたら、ちょっと問題があるのかも……?

 だけど……セルシオさんなら、きっと大丈夫……だよね……?


 と、あたしが急にしどろもどろになって、うつむいてしまっていたから、気を遣ってくれたのだろう。

 セルシオさんは、


「あ……リアルのことを詮索するのはタブーだもんね。不快な気分にさせてしまって、ごめん」


 そう言って頭を下げた。


「い……いえっ! あたしのほうこそ、すみません! 気を遣わせてしまって……!」


 さすがに悪いと思ったあたしは、同じように頭を下げる。


「ふふ、キミが悪いわけじゃないよ。……それじゃあ、わたしはもう行くね。……えっと、また……、ん……」


 セルシオさんはそそくさとベンチから立ち上がり、そう言って言葉を詰まらせた。

 またね、と言いたかったのだろう。

 でもそのまま、軽く手だけを振って、立ち去っていく。


「あ……」


 あたしは慌てて立ち上がったものの、なんと声をかけていいかわからず、遠ざかっていくセルシオさんの背中を黙って見送ることしかできなかった。


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