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週末、あたしと音美ちゃんは和風ちゃんの家にお邪魔することになった。
本当なら土日もできる限りドリーミンオンラインをしたいところだったのだけど。
あまり家にこもってばかりでも不健康でしょう? と和風ちゃんから言われて、集まることになったのだ。
……あたしと音美ちゃんはいいとして、結局和風ちゃんは自分の家にこもりっきりってことになるんじゃ……。
というツッコミはとりあえず入れないでおいて、あたしと音美ちゃんは和風ちゃんに続き、大きな木造の家の長い廊下を歩いていく。
木の香りが心地よい、とっても広い家……というか、お屋敷って呼ぶべきかな。
和風建築で年代を感じさせながらも、清潔さ漂うお屋敷の雰囲気は、お邪魔しているあたしたちをも温かく包み込んでくれるかのようだった。
廊下を歩きながらちらちらと視線を巡らせるだけで、高貴な家柄だっていうのが伝わってくる。
はぁ~……。
やっぱりどう考えても、和風ちゃんの家ってお金持ちだよね。
あたしは神様の不公平さを呪いつつ、ゆっくりと廊下を歩いていた。
「あれ? 和風がお友達を呼ぶなんて珍しいね。いらっしゃい」
不意に廊下の向こうから男の人が歩いてきたかと思うと、あたしたちに声をかけてきた。
男の人といっても、あたしたちとさほど変わらないくらいの年齢。
会うのは初めてだけど、話には聞いていた。この人は、和風ちゃんのお兄さんだ。
確かひとつ年上で、あたしたちと同じ高校に通う二年生だったはず。
名前は葵さん……だったかな?
「あっ、どうも、お邪魔してます!」
「いつも和風ちゃんにはお世話になってます」
ペコリ。音美ちゃんとあたしは頭を下げて挨拶の言葉を述べる。
にこっ。
葵さんは優しげな笑顔を返してくれた。
「和風のわがままに、いつもつき合わされてるんでしょ? ほんと、ごめんね」
「そんなこと、ありません! 仲よくさせてもらって、あたしたちも嬉しいです!」
あたしが答えると、葵さんは目を細める。
ほんとに自然で温かな笑顔。妹である和風ちゃんと、やっぱりよく似てるなぁ~。
ぽーっとした視線を向けるあたしの隣では、音美ちゃんも同じように葵さんを見つめていた。
「あ……引き止めて悪かったかな? それじゃあ、ゆっくりしていってね」
『は……はいっ!』
あたしと音美ちゃんの声が重なる。
そんなあたしたちに軽く会釈を残し、葵さんはそのまま廊下を歩いていった。
☆☆☆☆☆
「確かお兄さんも、ドリーミンオンラインをやってるって言ってたよね?」
和風ちゃんの部屋に着いて、出してもらったお茶とお菓子をいただきながら、あたしはそう質問してみた。
「ええ、そうですわね。わたくしも、もともとお兄様から勧められて始めたようなものですし」
「一緒に遊んだりはしないのか?」
あたしの質問に対する和風ちゃんの答えを聞くやいなや、音美ちゃんがさらに質問を重ねてきた。
……あれ? なんでだろう、音美ちゃん、ちょっと赤くなってるような……?
首をかしげるあたしのことなんて気にも留めていないみたいで、ふたりはどんどんと話を進めていく。
「絶対しませんわね。お兄様のキャラクターの名前も知りませんし、わたくしももちろん、教えておりませんわ」
「え~っ? どうしてだよ~? 兄妹仲よくすべきなんじゃないのか? せっかく同じゲームをやってるのに!」
なんだか音美ちゃん、今日はやけに突っかかるなぁ。
「嫌ですわよ。ゲームの中でまで兄妹を意識するなんて、やってられませんわ。それにお兄様は初期の頃から遊んでおりますから、サーバーも違うはずですわよ? わたくしたちのいるハムスターサーバーは、今年に入ってから作られた新しいサーバーなのですから」
「ふ~む、そうなのか……。それじゃあ、仕方ないよなぁ……」
どうしてなのか、とっても残念そうな音美ちゃん。
あたしは少ない脳みそでいろいろと考えを巡らせてみる。
そっか、音美ちゃんって確か、ひとりっ子だったっけ。
だからきっと、兄妹とかで仲よくするってことに、憧れがあるんだ。
でも、憧れるような関係じゃないよね、兄弟姉妹なんて。
あたしにも弟がいるんだけど、あいつは生意気なだけで可愛げがないし、姉であるあたしをいつもいつもバカにするし。
だからといって、仲が悪いかと言われれば、そんなこともないとは思うけど。
当たり前になっているから大切さに気づいていないだけで、あたしはきっと、弟がいなかったらひとりで寂しかったに違いない。
ひとりっ子の音美ちゃんがちょっとかわいそうに思えてきたあたしは、じっと彼女の瞳をのぞき込んだ。
「ん? 理紗、どうした? いつもの天然妄想暴走モードでも発動したか?」
「むっ……! そんなんじゃないもん!」
そんなあたしの気持ちなんてまったくわかっていない音美ちゃんからの言葉に、ぷーっと頬を膨らます。
だけど、音美ちゃんがかわいそうなんて感覚自体、上から目線だったかも、と反省。
思わずうつむいてしまっていたあたしに、和風ちゃんはいつもどおりの優しい笑顔を向けてくれた。
「ささ、お茶が冷めてしまいますわ。お菓子もいっぱいありますから、遠慮せずにどんどん食べてくださいね!」
「……そして丸々と太った理紗をいただくと」
「ええ、そういう計画ですわ!」
「太ったりしないもん! ……たぶん。それより、いただくって……和風ちゃん、なにする気~?」
「うふふふ、それは秘密ですわ♪」
和風ちゃんって、なんだか優しいだけじゃないような感じがする。これって、あたしの気のせいなのかなぁ?
疑問に思ってはいたものの、それを口にすることはできなかった。
なぜならあたしの口には、たくさんのお菓子が詰め込まれていたからだ。
「っふぇいうふぁ、ほんふぉにふふぉらふぉうふぉひへふ(っていうか、ほんとに太らそうとしてる)!?」
あたしの叫び声は、たくさんのお菓子によって、完全に阻まれてしまうのだった。