第一話 きっかけ
「うちにはお父さんがいないもんね!!!!」
つい口から出てしまった言葉。酷いことを言う気は無かった・・・。
「雪乃ッ・・・・!!」
口元を手で覆い、はらはらと涙を流す。
母は、儚い人だった。それでも、女手一つで私を育ててくれた強い人でもあった。
いつでも笑っていて、「笑っていれば、自然と幸せになれるもんよ」それが口癖だった。
事の発端は、母の言葉だった。
いつもだったら、たいして気にも留めないような言葉だった。でも、その時はいたく気に入らなかったのだ。
「由紀子ちゃん、学年で12位だったんだって?あんたも見習って勉強しなさい」
私は努力してる!なんで、お母さんは認めてくれないの・・・!?
その気持ちで、今までにためていたものを吐き出してしまった。
うちには「父親」というものはいない。私自身、そのことを気にしたことは無くて、劣等感を感じたことも無かった。
周りにもシングルマザーは何人かいたし、「うちはそうなんだ」と思っていた。
でも、心の奥では少し、ほんの少しだけ気にしていた。
「なんでうちにはお父さんがいないの?」と聞こうと思ったこともあった。でも、その言葉がお母さんを傷つけることを知っていた。だから、言ったことは無かったのだ。
顔を俯け、言葉を発しない母が、とても怖くなった。
何て事を言ってしまったんだろう・・・。
「ッ・・・・・!!」
自然に涙があふれてくる。唇をかみしめ、静まり返った部屋を飛び出した。
何も持たず、履きやすいサンダルをひっかけ、勢いよくドアを開ける。
苦しくなった胸が、ドクドクと音を立てる。
寒い真夜中を薄着で歩く。行くところも無いし、どうしようかと途方に暮れていた時、その時だった。
「危ない!!!!」
近くにいた男の人が叫んだ。
「えっ・・・?」
振り向いたら、そこには大型のトラック。運転手は何とか危険を回避しようとハンドルを切るが、間に合いそうにない。
最後に見たのは、眩しい眩しい車のライトだった。