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六章 さて、何故でしょう? You don't need to know.

 どうしてこうなったのだったか。


「ご一緒してもよろしいですか?」


 そう、たしかどこかのバーで友人と飲んでいた時だ。暴力に悩んでいて憂鬱な時期で、顔に出ていたのだろう、何も知らない友人が、何も聞かずに気分転換にと誘ってくれた。

 彼女は最後まで何も知らなかった。その方がよかったのだろう。

 そこで口を挟んできたのがあいつだ。少し離れた席からこっちに寄ってきて話しかけてきた。何人かでやってきたが、誰もが企業のお偉いさんだった。

 彼女はお金持ちで副社長のあいつに多少なり騒いでいたが、私は嫌いだった。目が恐かった。

 その場で適当に盛り上がって、別れた。もう二度と会わないだろうと思った。


「おや? また会いましたね」


 あろうことか、またあいつと出会ってしまった。本当に偶然だった、と思いたい。でも今考えれば、あいつが仕組んだ事なのだろう。もしかしてつけ回されていたのだろうか。そう考えるとぞっとする。


「その怪我、もしかして……」


 あいつは見抜いていた。そもそもこれに気づいたからこそ話しかけてきたのだ。やはりあの目は嫌だった。その目で何もかも射抜いていた。それでも私はその頃もまだ暴力で思い悩んでいたので、つい相談してしまった。


「じゃあ、いっそ殺してみせましょうか?」


 何度か相談した後だ。最初は何を言っているのかわからなかった。何を狙っているのかもわからなかった。虫の良すぎる話だ。


「いえ、私にもお願いがあるのですよ」


 私にも殺せ、と。もう退けなかった。そうしたら私が殺されてしまうと、そう直感した。

 実際、主人が死んで救われるのは事実だった。

 私はあいつに部屋の合鍵を渡した。


「そりゃあ、ただの交換殺人じゃ意味がないのですよ。猟奇的な犯人の無差別殺人と思ってもらわなくては。そのためには二人じゃ足りないのですよ。三人でも少ない。言っている意味がわかりますね?」


 三人目の後だった。私はこの時ほど背中に悪寒を覚えた時はない。

 こいつを殺そう。そう思ったら、背中だけじゃなく、全身が寒くなった。冷たくなった。

 もう自分は人間じゃない。もう戻れない。せめてあいつと一緒にだけは……。


 



 ドアフォンが鳴る音がする。私はゆっくりと立ち上がり、応答した。

「道警の伊勢です。少しお話を伺いたいのですが」

 来た。ついに。私も裁かれるのだ。

 もう、疲れた。彼が気づいていようがいまいが、もう終わりにしよう。

 これで自由だ。不自由という名の自由。警察に縛られ、社会に縛られ、そして自由になる。何かに縛られる事で得られる安定。そんな意味での自由。

 こんな、いつ破裂するかわからない、いつ萎むかわからない、そんな風船みたいにふわふわ浮いた状態なんて自由とは呼べない。

 こうなったのは自分のせいだ。ならば甘んじて受け入れよう。これは自由になるための通過儀礼。


 私はゆっくりとドアを開けた。


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