世界一過保護な「家族」たちの休日
王宮が「リヴィアの家」と改名されてから数ヶ月。かつての玉座の間は、今やふかふかのソファが並ぶ巨大なリビングルームと化していた。
「管理人さん、お茶のおかわり。あと、この前言ってた『下町の新作スイーツ』、まだかな?」
ソファでゴロゴロしながらリヴィアが声をかけると、エプロン姿(紋章入り)の管理人エドワードが、銀のトレイを手に小走りでやってくる。
「はいはい、ただいま! リヴィア様、こちらは王宮直属のパティシエたちが不眠不休で開発した『至高のハニーバウム』にございます。……ああ、今日もリヴィア様がお健やかで、管理人としてこれ以上の喜びはございません」
かつての威厳はどこへやら、エドワードは「国を統治するより、リヴィアを満足させる方がよっぽど達成感がある」と、すっかり管理人業に目覚めていた。
そこへ、お出かけ相談役のジュリアンが、大量のパンフレットを抱えて入ってくる。
「リヴィア様、次のお忍び……あ、いや『家族旅行』の計画ですが、南のビーチはいかがでしょう? 露出度の高い水着というものが流行っているらしく――」
ガシャン!!
部屋の隅、一秒たりともリヴィアから目を離さず壁と同化していたアルヴィスが、凄まじい音を立てて抜刀した。
「……ジュリアン。今すぐその邪悪な計画書を灰にしろ。リヴィア様の肌を太陽の下に晒すなど、この私が、そして私の家系図が許さん」
「相変わらずだな、アルヴィス。婚約指輪まで贈っておいて、まだ『隣に座る』だけで知恵熱を出している男が何を言う」
「うぐっ……! そ、それは……リヴィア様が不意に私の手を握ったり、袖を引いたりするのが悪いのであって……!」
アルヴィスは顔を真っ赤にして口籠る。
彼はリヴィアと正式に婚約(という名の終身警護契約)を結んだものの、いまだにリヴィアと目が合うだけで心拍数が跳ね上がり、週に一度は「尊さの過剰摂取」で失神していた。
「二人とも、また喧嘩しないの! ほら、カイルさんも何か言ってよ」
部屋の片隅で、膨大な書類(リヴィアのおやつ予算表)と格闘していたカイルが、眼鏡をクイと押し上げた。
「……私は今、リヴィア様が昨日『可愛いから全部買い占めたい』と仰った移動遊園地の買収コストを計算している最中です。アルヴィス卿、貴公がジュリアン殿下の首を跳ねる暇があるなら、この設営スタッフの適性審査でも手伝ってください。騎士団の暇つぶしには丁度いいでしょう?」
カイルもまた、教皇の密偵から「女神のわがままを完璧に叶えるための超高性能秘書」へとジョブチェンジしていた。
「もう、みんな働きすぎだよ。ほら、アルヴィス。これ食べて、落ち着いて」
リヴィアが、ハチミツが滴るバウムクーヘンをフォークで刺し、アルヴィスの口元へ運ぶ。
「……っ!! リ、リヴィア様、衆人環視の中でそのような……! あ、あああ……光栄……光栄ですが……脳が……焼ける……!」
バタン。
最強の騎士、本日一回目の撃沈。
「あーあ、また倒れちゃった。……管理人さん、氷枕おかわり!」
窓の外には、今日も平和な王都の景色が広がっている。 女神が「ただの女の子」に戻ったことで、世界は驚くほど優しく、そして賑やかになった。
千年後の世界。誰も知っている人がいなかった孤独な場所は、今やリヴィアにとって、うるさいくらいに愛おしい「家」になっていた。
初めての投稿なので色々不慣れでしたが、最後まで見て頂きありがとうございました!




