女神の寝室と、進化する番犬
神殿に戻ったリヴィアの私室は、わずか数日の間に、アルヴィスの手によって厳重な「聖域」へと変貌していた。窓は最高級の結界術で覆われ、扉には多重ロック。部屋の隅には、まるで生きて呼吸しているかのように微かに光る最新の魔導監視装置が設置されている。
「リヴィア様、おかえりなさいませ。この部屋であれば、もはやアリ一匹たりとも貴女様の安息を乱すことはできません」
アルヴィスは、リヴィアの疲労を一切無視し、満足げに胸を張った。彼の鎧はすでに修復され、血の匂いも消え去っている。代わりに、彼の瞳には以前にも増した「狂信的な守護」の光が宿っていた。
「……アルヴィス、ちょっとやりすぎじゃない? 息が詰まるんだけど」
「お言葉ですが、リヴィア様。貴女様がお一人で外へ飛び出されたのは、この私に『守護が足りない』と遠回しに教えてくださったものと解釈しております」
アルヴィスはそう言うと、数人の騎士を引き連れて、部屋の奥へと指示を出した。
「よし、運び込め。リヴィア様におかれましては、二度と孤独な夜を過ごさせはしない」
騎士たちが部屋に運び込んできたのは、あまりにも巨大な物体だった。それは、リヴィアの今のベッドの優に二倍はあるかのような、豪奢な二人用の天蓋付きベッドだ。
「え!? なにこれ!?」
「リヴィア様の安眠は、私が責任を持って保証します。私が隣に控え、そのお寝顔を一晩中見守ることで、いかなる邪悪な夢も、不届きな輩も、貴女様を冒すことはできないでしょう」
アルヴィスは真剣な顔で説明する。彼の頭の中では、これが「最も完璧な警護体制」なのだ。
「待って待って待って! 見守るって、同じベッドでってこと!? それはさすがにまずいでしょ!!」
「何が問題なのでしょうか? 私の聖なる視線は、貴女様の私室の結界にも勝る守護となります。それに……」
アルヴィスは、リヴィアに一歩近づくと、耳元で囁いた。
「貴女様が私から逃げ出す隙を、完全に排除できます」
その言葉に、リヴィアは思わずゾクリとした。この男の過保護は、もはや「信仰」や「忠誠」の範疇を遥かに超えている。それは、千年の時を超えて研ぎ澄まされた、純粋な「独占欲」と「執着」だった。
「アルヴィス……あなたは、私がいない間に、ますますおかしくなってる……!」
「光栄です。貴女様のために、私はどこまでも『おかしく』なりましょう」
アルヴィスは、リヴィアの手を取り、まだ運び込まれたばかりの新しいベッドの方へといざなう。 彼の瞳は、もはや濁りのない狂気を湛えていた。




