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千年後に目覚めた伝説の女神、寝てただけなのに何故か騎士団に溺愛される 〜最強の聖騎士団長が過保護すぎて外に出られません〜  作者: 丸ノ内きみこ


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秘密庭園の罠と、王太子の旋律

神殿とはまた違う、甘ったるい花の香りが満ちる庭園。


リヴィアは、国王エドワードと王太子ジュリアン、そして背後に立つアルヴィスと共に、大理石のテーブルを囲んでいた。


「リヴィア様、この花は千年前から枯れることなく咲き続けているのです。貴女様を待っていたかのように」


 エドワードが朗らかに笑い、自ら茶を注ごうとしたその時だ。庭園の入り口に、一人の伝令が血相を変えて飛び込んできた。


「報告します! 北方国境の封印が破られ、上位魔物の群れが侵攻を開始! 聖騎士団長、アルヴィス卿に至急の出陣要請が出ております!」


 リヴィアの肩が跳ねる。アルヴィスは即座に立ち上がり、伝令を鋭い眼光で射抜いた。


「……このタイミングでか。陛下、これは貴殿の差し金ですか?」


「何を失敬な。魔物は待ってくれぬぞ、アルヴィス卿。女神の騎士として、民の危難を見捨てると申すか?」


 エドワードは平然と茶を啜る。アルヴィスは拳を握り締め、屈辱に震えながらリヴィアを見た。リヴィアもまた、不安げに彼のマントを掴む。


「……リヴィア様。すぐに戻ります。一刻も早く、すべてを斬り伏せて。……それまで、不浄な者の言葉に耳を貸してはなりませんぞ」


 アルヴィスはリヴィアの額に、誓いというよりは呪縛に近いキスを落とすと、嵐のような足取りで去っていった。


 庭園に残されたのは、リヴィアと、獲物を狙う目をした国王親子。


「さて、リヴィア様。邪魔者が消えたところで、本題に入りましょう。貴女様には、この王宮で『真の神聖』を……」


「……父上。もうやめてください」


 遮ったのは、今まで黙っていたジュリアンだった。


「ジュリアン? 何を言っている。今は女神様と親愛を深める大切な時だ」


「親愛? 政治利用の間違いでしょう。……リヴィア様、こちらへ」


 ジュリアンは唐突にリヴィアの手を取ると、エドワードの制止を無視して、庭園の奥、さらに深い茂みの向こうへと彼女を連れ出した。


「なっ、ジュリアン! 貴様、何の真似だ!」


 エドワードの怒号を背に、二人は迷路のような庭園を駆ける。リヴィアは何が起きているのか分からず、ただジュリアンの強い力に引かれていた。


たどり着いたのは、庭園のさらに隅にある、手入れの行き届いていない古い東屋だった。


「……ここまで来れば、父上の影の者たちもすぐには来られない。リヴィア様、急いで。この裏門の鍵は私が預かっている。ここから街へ逃げてください」


 ジュリアンは震える手で、リヴィアに簡素な外套を差し出した。彼の瞳には、これまでの軽薄な笑みはなく、必死な、一人の青年としての苦悩が宿っている。


「どうして……? あなたも、私を利用したいんじゃなかったの?」


「……したかったですよ。最初は、父上の計画に従えば、あなたという『奇跡』を独り占めできると思っていた。でも、昨日見たんです。市場でアルヴィスと笑いながらパンを食べていた、あなたの横顔を」


 ジュリアンは自嘲気味に笑った。


「あの顔は、神の顔じゃない。ただの、恋をしている女の子の顔だ。……今のルミナス王国は、あなたを『神』として消費し、干からびさせることしか考えていない。父上はあなたを王権の鎖にし、教皇は石像に変えようとしている。……そんなところに、あなたを置いておきたくない」


 ジュリアンはリヴィアの肩を掴み、真っ直ぐに彼女を見つめた。


「リヴィア様。アルヴィスもまた、あなたを『女神』という枠に閉じ込めて守ろうとしている。でも、私は……たとえ手に入らなくても、あなたがあなたのままでいられる場所へ行ってほしい」


 その時、庭園の奥から重々しい鎧の音が聞こえてきた。エドワードが放った追手だろう。


「……行って。アルヴィスなら、魔物の群れなんてすぐに片付けてあなたの元へ駆けつける。あいつに追いつかれる前に、あなたの足で、この窮屈な『聖域』を抜け出してください」


 ジュリアンはリヴィアを裏門の外へと押し出した。  門が閉まる直前、リヴィアはジュリアンの静かな、けれど決意に満ちた顔を見た。


「ジュリアン様、あなたは……」


「……私は、あなたの『信徒』にはなれなかった。ただの、振られた男としてここに残ります」


 ガチャン、と重い錠が下りる。  リヴィアは一人、王宮の外、まだ見たこともない広大な世界の入り口に立たされた。


 守ってくれるアルヴィスも、利用しようとする国王もいない。  初めて手にした自由の空気は、千年前のそれと同じくらい、冷たくて、透き通っていた。


(……アルヴィス。私、走るよ。あなたが迎えに来てくれるまで、この『ただのリヴィア』として、この世界を見てくるから!)


リヴィアは外套を羽織り、雑踏の中へと駆け出した。

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