表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

余命半年のぼくが、余命三か月の彼女に恋をする話

 


 出会いは、終末医療のホスピスだった。

 ぼくと彼女は同じ十四歳、同じ病。

 遺伝性で治療法はなく、余命わずかだった。


 あの頃のぼくは人生に絶望していた。

 両親はもうずっと見舞いに来ない。

 死ぬと決まった子供に会うのが怖いらしい。

 気持ちはわかる。ぼくも納得している。

 ぼくは生まれるべきじゃなかったんだ。


 彼女が施設に来た時、ぼくは余命半年だった。

 彼女は余命三か月。ぼくより不幸な存在。

 なのに彼女はすごく嬉しそうに、ぼくに言った。


 ──私とつきあって。


 意味がわからなかった。

 ぼくも彼女も、もうすぐ死ぬのに?


 ──あなた花火は嫌い? 

 すぐ終わるから意味ないと思う?

 そんなことないでしょ。私たちも同じよ。

 人生は最後の一秒まで使い切らなきゃ。


 彼女は口がうまくて、とても強引だった。

 「恋人ごっこでいい」と言われ、ぼくは折れた。

 どうせ三か月で終わるんだし、と。


 「恋人ごっこ」は早回しで進んだ。

 大人に言えないことも、たくさんした。

 時間がないから、と赤面する彼女。

 どんどん可愛く見えてきて、逆に怖くなった。


 幸せになるほど、失った時につらい。

 これ以上好きになりたくない。

 でも、それじゃ両親と同じだ。

 ぼくは納得していた。でも絶望していた。

 彼女を絶望させるのだけは嫌だった。


 一度だけ聞いたことがある。

 出会った時、何故あんなに笑顔だったのか。


 だって、同い年で同じ病気の男の子だよ。

 運命だって思うじゃない。


 ぼくは、生まれて初めて病気に感謝した。




 ──そして、今。

 余命三か月のぼくは、今際(いまわ)の彼女の手を握る。

 ベッドの周りには大勢の人。

 どれも若い男女。幼児や赤ん坊もいる。

 全員ぼくらの家族。子供と孫だ。


 海外の新薬が効き、ぼくらは奇跡的に延命した。

 根治でなく余命が延びるだけだが、十分だった。

 ぼくらは施設を出て、一緒に暮らし始めた。

 身籠った彼女のため、仕事を選ばず働いた。

 明日死ぬと思えば何だってできた。


 ぼくらはたくさん子供を作った。

 短命の遺伝を責められても気にしなかった。

 彼女は子供たちに花火の話を聞かせ、育てた。

 病を発症した子は、同じパートナーを選んだ。

 そうでない子も早婚で、すぐ孫ができた。

 短命のぼくらは助け合い、大所帯になった。

 

 あれから二十年。ついに薬が効かなくなった。

 あの日の続きのようで、なんだか懐かしい。


 今はもう悲しくなかった。

 いつか必ず来るこの日まで、ぼくらは生きた。

 花火のように必死に、懸命に。

 ただそれだけの、当たり前の人生だ。

 あの頃のぼくは、何を絶望していたのだろう。


 ──私、この病気でよかったわ。

 ぼくはずっと前からそう思ってる。


 火がついたように、赤子が泣き出した。

 つられて他の子もむずかり出す。

 それをあやす親たちの、笑顔、笑顔、笑顔。


 ──まるで花火大会ね。


 微笑む彼女の手を、ぼくはもう一度握りしめた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ