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第七話『会津若松』

登場人物


◎ゆき

  15歳 女性 

  茶色い髪 茶色い瞳

  旧会津藩家老佐川官兵衛に仕えていた馬丁の一

 人娘

  馬と心を通わせることが出来る


◎たけ

  17歳 女性

  ゆきが仕えた佐川家の向かいの西川家に下働き

 の女中として仕えていた

  二歳年下のゆきと仲が良かった

  八戸の遊女斡旋屋「多志南美屋」にて遊女とし

 て稼働している(源氏名:竹鶴)


◎せつ

  29歳 女性

  八戸の遊女斡旋屋「多志南美屋」において稼働

 している遊女(源氏名:藤松)

  かつて江戸(東京)吉原の大見世遊郭「扇松屋」

 において「格子」の位にあった元上級遊女

  自分が果たせなかった花魁になる夢をゆきに託

 し、ゆきを江戸(東京)に向かわせる


◎粂吉 (くめきち)

  歿年50歳 男性

  会津藩士 佐川官兵衛の馬丁

  ゆきの父

  会津戦争の折、官軍の銃撃により戦死


◎みつ

  女性 ゆきの母

  ゆきを出産した後、まもなく死去

  元は佐川家の給仕女


◎とら

 ゆきが世話した牡の仔馬

 世にも珍しい、金色に近い尾花栗毛の毛色を持つ


◎佐川官兵衛(直清)

  39歳 男性

  旧会津藩家老

  粂吉、ゆき父子の主君

  戊辰戦争で活躍 鬼官兵衛の異名を持つ

  熱い心を持った人情家


◎中村半次郎

 男性 薩摩藩士

 会津戦争時、官軍軍監

 人斬り半次郎の異名を持つ

 後の桐野利秋


◎西川勝太郎

 男性 会津藩士西川半之丞が一子

 白虎隊士

 会津戦争の折、飯盛山で自刃

 享年十六歳

 (あの時のまんまだ、何も変わっていねえ。

(いくさ)の時にみんな焼げぢまって、焼げ跡のまんまだ…)


 二本松宿を出て二泊三日の後、ゆきは会津若松城下に到着した。

 会津戦争の折、城下町の殆どが焼失してしまい、それから四年経った今、商家や町人の家などはぽつぽつと再建されつつあるが、武家屋敷などは焼け跡のまま放置されている。

 武家屋敷の住人である会津藩士とその家人達が斗南に移ってしまったため当然ではあるが、周辺に住んでいた町人達は武家屋敷の焼け跡を整理しようともしない。

 会津藩主松平家が、幕末期において庶民に重税を課したため、庶民の武家に対する感情は冷たいものであるからであった。


 (中村半次郎様の保護を受げで避難場所さ行った時、他の人達、最初は優しかったげんども、おらが武家屋敷さ奉公する者とわがった途端さ冷だぐなったもんな…)


 ゆきは暗澹(あんたん)たる思いを抱えたまま城下町の焼け跡の中を歩いている。

 時折、焼け崩れた炭のような木材を幾度も踏みながら。

 その都度ゆきは

 (これは◻️◻️様の御屋敷の柱だったものだろうか?)

 (こちらは△△様の御屋敷の(はり)だったものだろうか?)

などと考えつつ歩いていた。


「お城の天守が、この方向、この大きさに見えるづー(という)ごどは、ここら辺が本二之丁ど六日町通どが交わる場所だな…」


 ゆきは足を止め、新政府軍の砲撃によって幾つもの穴を開けられた鶴ケ岡城の天守閣の方向を見ながらそう呟いた。

 そして、ゆきは更にそこから数十歩進んで立ち止まった。


 (ここが、おらが生まれ育った佐川様御屋敷…裏庭の厩戸(うまや)の隣の小屋で、おらとお(とう)は暮らしていた。

 げんども(でも)、おら、小屋より厩戸に居るごどの方が多がったな、ずっと馬達ど一緒に居だっけ、厩戸で寝るごともしょっちゅう。

したっけ(そしたら)何どなぐ馬の気持ぢが判るようになっでいったっけな…)


「とらは、なじょ(どう)してるかな?達者だべが(だろうか)?」


 ゆきの脳裏には会津戦争が終わった時に別れた、当時生後四ヶ月の仔馬、とらの金色(こんじき)の姿を思い出していた。


 (とらが生まれだ時、お父は佐川の殿様についでってで居ねがった。

 そんだから、おらがお産さ立ち合ったげんども、母馬はとらを産んで直ぐに死んちまった…

 …おらと同じ…

 おらのお(かあ)も、おら()産んで直ぐに死んちまったから…)


 ゆきは遠い目をしながら暫く立ち止まった後、その場で振り返った。


 (そしてこっち、佐川様御屋敷のお向がいが、おたけちゃんが奉公さ上がっていだ西川様の御屋敷…)


「そう、おたけちゃんは勝太郎様のごどが好ぎだったんだ…」


 ゆきは、たけとの約束を守るため、その西川勝太郎の墓がある飯盛山へと向かった。


「これが御自刃なされだ、十九人の白虎隊の皆様のお墓だな。」


 ゆきは、その墓一つ一つに手を合わせて拝み、やがて西川勝太郎の墓標の前に(ひざまつ)いた。


 (勝太郎様が生ぎでおられだら、おたけちゃん遊女になっべど(なろうと)しねがったべな(しなかっただろうな)

 もし勝太郎様が生ぎ残っで、いや、戦が起ごっていねがったら…

 もぢろん、おたけちゃんが勝太郎様ど夫婦(めおと)になんかなれっこねえ、(めかけ)ですら無理だ。お歴々の御武家の跡取り様ど庶民の娘じゃ、身分が違いすぎる。

 げんども…それでも…)


「あんた様のお側に居るだげで、おたけちゃんは幸せだったで思います。なして御自害なされだのだが?勝太郎様……」


 ゆきは西川勝太郎の墓標を見据えて語りかけた。


 (御武家様は何がどお死に急ぎなされる。

 男の方だげでなぐ、奥方様やお(いと)様も大勢御自害された…)


「生ぎでいればごそ、辛えごども嬉しいごども、生ぎでいればこそ、でございます勝太郎様!

 おたけちゃんは遊女さなっで、身体さ(けが)されても生ぎでいぐごどを選びました。

 勝太郎様、どうかおたけちゃんを見守ってくれでくんちぇ(やってください)。」


 (おらも江戸さ行っで遊女さ…

 …遊女さなるづーごどは、あの時、西軍の侍さ無理矢理されそうになっだごど生業(なりわい)しねっかなんね(しなければならない)

 げんども、おらも身体は汚れでも、心は…

 心は汚されるごどなぐ、白いまま気高く真っ直ぐ、そう!白い立葵(たちあおい)の花のように強ぐ生ぎでいぐべ!!)


 ゆきは墓標から離れ、鶴ケ岡城と会津若松の城下町を見下ろした。


さいなら(さよなら)、お父、お母…

 さいなら思い出だぢ…

 さいなら会津若松…

 …もう二度ど来るごどはねえべ……」


               第七話 (終)

 「たけ」との約束を果たすため、故郷会津若松を訪れた「ゆき」

 四年前の戦争の影を色濃く残し、もはや父母も良い思い出も無い故郷に暗澹たる思いが心を満たし、故郷会津若松にそっと別れを告げるのでした。

 東京へと遊女となるために歩み出す「ゆき」…身体は汚されても心は汚れることのないように、真っ直ぐ生きることを強く決心して…

 東京で「ゆき」を待ち構える運命とは?

 これからもよろしくお願いいたします。

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