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第二話『八戸』

 八戸にはこれまで何人もの斗南藩、旧会津藩の士庶(ししょ)共々の女性達が出稼ぎに来ている。

 そう、遊女となって働いているのだ。

 極貧に喘ぐ中、飢えを凌ぐため、家族を生かしていくために仕方のない事であった。

 ゆきは、かつて会津若松城下において仲が良かった「たけ」という二歳年上の女性を頼ろうとしていた。

 たけは、会津藩士西川家に下働きの女中として仕えていたが、約二年前、会津から斗南へは移らず、ここ八戸に来て遊女となっていた。

 たけが現在稼働している遊女屋「多志南美(たしなみ)屋」に向けて、ゆきは重い足取りで歩いていた。


 湊町八戸には多くの商船が出入りしており、多くの回船問屋や船宿が軒を連ねていた。

 その船宿らに隣接するような形で、遊女を斡旋(あっせん)する店がいくつもあると聞き、ゆきは船着場の方へ向けて進んでいる。


こんぬつわ(こんにちは)、お頼み申します。」


 ゆきは店の正面玄関の格子戸を開けて入り、中へ声を掛けたが応答が無かった。


「あ、あの!お頼み申します!!」


「ドタドタ、ドタッ」


 ゆきが大きな声で呼び掛けると、二階建ての建物の二階から誰かが階段を降りてくる音が聞こえた。


「何だい、何だい、皆、夜に備えて昼寝してるってえのに、大声出したのは何処のどいつだい!?」


と、ゆきの前に

   三十路前くらい

   長い黒髪を垂らした

   藤色の寝巻きを着た

女性が現れた。

 ゆきは、化粧をしていないのに関わらず、艶めいた美貌に溢れるこの女性を見て息を()んだ。


「あんたかい?

 で、あんた、ここには何の用だい?」


「…あ、あの、こちらに会津から来たおたけちゃんが居るはずなんげんども(なんですが)…」


「…おたけ?ああ、竹鶴のことだね?

 竹鶴なら出先の船宿からまだ帰ってきちゃいないよ。うちの竹鶴に何の用だい?」


「あ、はい……その、このお店に、おたけちゃんにおらを紹介して貰うべがで(おうかと)思って…」


「紹介?あんた、ウチで遊女んなって働こうってことかい?

 女衒(ぜげん)を介せずに直接売り込みにくるたあ、珍しいじゃないか。」


「はい、女衒さ介すると、(ぜに)でっこら(たくさん)持っていがれると聞いで。」


「へえー、それで自らねえ…

 あんた、年端もいかない小娘の割りに、中々頭が回るじゃないか。あんた、名は何ていうんだい?」


「ゆきと申します。

 …あの、(あね)さはここではどだ(どんな)立場のお方だが(ですか)?」


「ああ、あたいかい?あたいは藤松、ここの遊女さ。

 本名は「せつ」っていうんだよ、好きな方で呼びな。」


「はい、おせつさん。こうしてお会いでぎたのも縁だし、おせつさんからもお店の方に取りなしてくなんしょ(下さいますか)?」


「あーっ、思い出した。

 あんた、ゆきと言ったね。ついこの間竹鶴に手紙をよこしてきた()かい?」


「はい、おらです。

 おたけちゃんにここの場所を詳しく聞ぎたいと思って。」


「そうそう、あの手紙アタイが竹鶴に読み聞かせてやって、返信もアタイが書いたんだよ、店の女で文字の読み書き出来るのアタイだけだからね…

 て、あんたも文字の読み書きが出来るのかい?お武家の人には見えないけど。」


「はい、お(とう)が教えでくれだ。

 この先、庶民も、女も読み書き出来(でぎ)たほうが良い()言って。」


「へえーー……あんたさ、良く見ると、ちと痩せちゃあいるけど、睫毛(まつげ)が長くて目も大きいし鼻筋も通って、ちょっとビックリするくらいの美形だね。」


「へ?」


「それに文字の読み書きが出来る教養もあるし、こんな田舎のこんな店には勿体無(もったいな)いねえ…」


 せつから急に褒め言葉を言われてゆきが戸惑っていると、丁度その時、たけが帰ってきた。


「…おゆきちゃん!!」


「おたけちゃん!!」


 浅葱(あさぎ)色の着物を着て、()った髪のやや乱れた姿のたけは、ゆきに抱きつくなり声を上げて泣き出した。

 たけの吐息から妙な匂いがする。

 まだ酒を飲んだことがなく、父の粂吉(くめきち)も下戸だったゆきには、それが酒臭だということが、この時は判らなかった。


「ちょ、ちょっとおたけちゃん、なじょ(どう)したの?」


「わあーん!だって、会津から斗南に移った人、でっこら(たくさん)病や飢えで死んでるって聞いでだがら、こうして生ぎておゆきちゃんに会えるとは思わなぐで…わあぁーんっ!」


「おらもおたけちゃんにま()会えで嬉しいよ。」


 すると大声で泣いていた、たけが急に泣き止み


「とごろでおゆきちゃんも女郎さなりでえ(たい)って本当だが?」


「うん、生ぎでいぐために…それと、うんと稼いでお世話になった佐川の殿様と御家族に仕送りしでえで(したいと)思って…」


「…おゆきちゃんみだいなめんこい()なら稼げると思うげんども…

 この店一番の、そこの藤松(ねえ)さんでも給金はさほど多ぐねえ。着物どが(かんざし)どが化粧(けわい)の品の払いで全部飛んでいっちまう。」


「あ……」


 ゆきは遊女になって上手くいけば、少しばかりは贅沢な暮らしが出来るかもと妄想したが、どうやらそれは甘い考えだったと、たけの言葉から判断した。


「感動の再会に水を差すようで悪いんだけど、おゆきとやら、どうかアタイの話を聞いちゃあくれないかね?」


と藤松のせつがゆきに話しかけてきた。


                 第二話 (終)

 八戸に着き、先に遊女となっている同郷出身の「たけ」に再会した「ゆき」

 このまま「ゆき」は八戸で遊女になるのか?それとも…

 「たけ」の先輩遊女「せつ」の話とは?

 これからもよろしくお願いいたします。

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