第9話 集団いじめ
クラリス、イザベラ、アメリア、シャーロットの4人は、ターゲットDを討伐しに向かった。ターゲットDは、虎のような見た目をしている。そして、目から光を放つ。その光をまともに食らえば、身体が石化してしまう。ターゲットDの攻撃をイザベラが盾で防御する。イザベラの持つ盾は、どんな攻撃も受け付けない。クラリスとアメリアの2人が銃とライフルを発砲する。傷付いて倒れたターゲットDの頭をアメリアがライフルで撃ち抜く。
「よし。これで仕事は終わったわね。」とアメリア。
「それはそうと…」、彼女が鋭い目付きでシャーロットを睨みつける。
「あんた使えないわね。傷を治すしか能がない。戦いには何の役にも立たない。」
「アメリア、何よその言いぐさ。あんたが今まで生きてこれたのは私のおかげよ。」
シャーロットがアメリアの言葉に反発する。だが、次の瞬間、彼女は呻き声をあげた。クラリスが後ろからシャーロットの後頭部を殴ったのだ。
「あんたうざいわね。この前から何様なのよ。ねぇ、みんなこいつをいじめよーぜ。」
クラリスの言葉に、他のメンバーたちも頷く。
気が付くと、シャーロットは両手両足を縛られて動けない自分に気づいた。
「あんたにはこれから餓死してもらうから。覚悟なさいよ。」とクラリス。
「はぁ?クラリス、あんたこんなことしてどうなるか分かってんの?」
反抗的な態度を見せるシャーロットの頬に、クラリスは平手打ちをかわした。
「少しは黙ってろよ。あんたの命なんてゴミみたいなもの、いや、それ未満よ。ルドルフ陛下がいない今、何をしようとあたしたちの自由。」
クラリスは身動きが取れないシャーロットの顔や腹を何度も蹴りつける。
「ちょっ。クラリス。辞めてよ。お願いだから。」
「もう泣き寝入りか。ミナの野郎でさえもっと持ちこたえたぜ。」
「ごめんなさいごめんなさい…」
シャーロットは泣きながら無意識のうちに何度も謝っていた。今まで知らなかった。いじめられるのがこんなに辛いなんて。苦しくて、惨めで、死んでしまいたくなる。同時に、ミナがどれだけ強い人間だったかも痛いほど分かった。彼女に対して、はじめて申し訳ないという感情が生まれた。ミナがこの場にいたら、助けてくれたかもしれない。彼女は、人の痛みが分かる優しい心を持っていたから。でも、彼女には取り返しのつかない酷いことをしてしまった。いくら優しい心を持っている彼女でも、自分をいじめた人間を助けようとは思わないかもしれない。結局、シャーロットはその後も散々殴られた後、2週間放置された。
シャーロットは、空腹に押し潰されそうになった。そして、最後の切り札を使うことにした。シャーロットが自分の手を睨みつけると、左の手首から下が身体から切り落とされる。シャーロットは自分の身体の一部を自分の意志で切り離すことができる。切り離された一部分も意志を持ち、自由に動き回ることができる。だが、一度身体の一部を再び元通りにすることはできない。夜中、シャーロットから離れた左手は、食べれる木の実を拾ってきて、シャーロットの口にそれを入れた。その後、コップに水を注いで、シャーロット
に飲ませる。シャーロットは生き返った心地になった。
「私の左手さん、お願いがあるんだけど。私が今から言うことを文字に起こして、ミナに届けて欲しいんだけど。」
シャーロットの左手は、下手な文字で手紙を書いた。
“ミナ、謝って済むことじゃないと思うけど、今まで酷いことしてごめん。助けて”
シャーロットの左手は宙に浮いて、隣国のグレイシア王国への道を辿った。
私たちは、もうすぐグレイシア王国に到着しようとしていた。
その時、後ろから何かが凄い勢いで私たちにぶつかってきた。
「ミナ様、下がってください。」
私の前に踊り出たサムの顔に、飛んできた何かがぶつかった。
私は思わず腰を抜かしそうになった。何しろ、サムにぶつかったそれは、人間の左手だったのだから。しかも、その手に見覚えがあった。あれはシャーロットの手だ。その手は何かを握り締めている。私は手からそれを取った。1枚の紙切れに下手な文字で書かれている。
“ミナ、謝って済むことじゃないと思うけど、今まで酷いことしてごめん。助けて”
私はサムに言った。
「私、シャーロットを助けたい。」
「ミナ様、そう言われましても…どうやってお助けになるのです?」
そう言ってサムは目を伏せた。私も同じように目を伏せる。今さら自国に戻ることもできないし、彼女を助ける方法は多分ない…
私の気持ちは沈んでいった。その時、上空から見慣れた姿が現れた。
「ピータ!」
私が叫ぶと、彼は私の手に止まった。
「ピータは私が困った時に来てくれる。もしかしてピータ心が読めるのかな?」
心の中で疑問を抱きつつ、私はピータに必死にお願いした。
「お願い、ピータ。私の元仲間がサーヴェニア王国でピンチなの。白髪で背が低いシャーロットって子よ。多分彼女は今片方の手がないと思うの。だから、彼女を助けてあげて」
「ピー!」
ピータは元気よく鳴くと上空に飛び立った。