第8話 ルドルフ陛下を殺せ!
私が隣国のグレイシア王国に向かっている間、故郷のサーヴェニア王国にて魔法少女たちは重要なことを話し合っていた。
「ミナがいなくなってほんとすっきりしたわ。ねぇ、クラリス。」
アメリアがクラリスに話しかける。
「ほんとそうよね。貧乏で孤児院出身の無能。いっそのこと死んでくれても良かったのに。」
「あの鼻血女今頃どうしてるかな。」、イザベラが会話に加わる。
「ほんとそうよねー。鼻血女www」、シャーロットがミナのことを嘲笑する。
「それはそうと、あの鼻血女がいなくなったってことは私たちにとってのしがらみがなくなったわけだ。」
「アメリアの言う通りね。この国をあたしたちの物にしましょう。」
サーヴェニア王国を自分の支配下におさめることはアメリアのかねてからの野望だった。いや、アメリアだけではない。クラリス、イザベラ、シャーロットもそれぞれサーヴェニア王国を自分の物にしたいという思いは変わらなかった。
「そうね。でも、この国を私たちの物にするには、すごく目障りな存在がいるわ。」
「ルドルフ陛下ね。」
「彼を殺してしまいましょ。」
「名案ね。けど、ルドルフ陛下は戦闘力にとても長けてるわよ。あたしたちが束になっても敵うかどうか。」
「そうね。けど、どんな人間にも弱点はあるわよ。あいつに弱点があるとしたら善人である点ね。」
クラリスとアメリアの間でスムーズに話が進む。アメリアはルドルフ陛下の弱点は、彼が善人である点にあると思っている。なぜなら、彼女は性悪説を信じているから。性善説何てあり得ない。人間が美しい心を持ち合わせているとか、人には理性があるとか、そんなの偽善だ。人間なんて、自分のことしか考えてないに決まってる。そうじゃなかったら、世界はこんなに苦痛に満ちていない。紛争も戦争も起きないだろう。戦争が太古の昔から繰り返されているという事実が、性善説は欺瞞だという何よりの証拠だ。けれど、ルドルフ陛下は人間には善の心があるって信じてる。そこに隙がある。アメリアは彼が毎日夜遅くまで仕事をしていることを知っていた。
その日の夜のことである。
「お茶をお持ちしました。」、そう言ってアメリアは王室に入った。
「アメリアか。ありがとう。」
陛下はアメリアにお礼を述べると、一気にお茶を飲んだ。
「バカが。もう少し警戒しろよ。」
アメリアは心の中でそう吐き捨てながら、笑いを堪えた。彼女が入れたお茶には大量の睡眠薬が含まれている。30分もすると、ルドルフ陛下は深い眠りについた。クラリス、イザベラ、シャーロットが王室に入り、ルドルフ陛下の身体をロープで縛り上げる。
ルドルフ陛下は、深い眠りの中で夢を見ていた。ミナがサーヴェニア王国で立派な魔法少女になり、モンスターを倒している夢を。彼は思った。
「ミナはこんなに強くない。これは夢だ。考えてみればミナはびっくりするくらい無能で、頼りなくて、ドジで、臆病で泣き虫な魔法少女だった。でも、人を思いやる優しい心だけは一丁前に持っていた。それから、みんなの前で毎日怒られてばかりでも、次の日には何事もなかったかのように笑顔で、強い女の子だった。」
ルドルフ陛下の口から寝言が発せられた。
「ミナ…頑張れよ…」
次の瞬間、銃撃音が響き渡った。クラリスがルドルフ陛下の口の中にライフルを突っ込んで発砲したのだ。彼が命を落としたのを確かめた上で、再び何発も発砲する。
「ちっ。このクソ爺が。何がミナだよ。あの鼻血女はおめぇが追放した役立たずだろ。」
クラリスは倒れているルドルフ陛下の身体を何度も踏みつける。
「まぁまぁ、クラリス。もうその辺にしとけよ。」
アメリアの言葉で彼女は平常心に戻った。
「ごめん。あたしとしたことがつい。まぁ、とにかく、これで最大の敵であるルドルフを殺すことには成功した。陛下は不慮の事故で亡くなったということにしましょ。」
陛下の子孫や、側近たちは予め殺しておいた。もう邪魔する者は誰もいないってわけだ。
翌日、アメリアは民衆の前に立った。
「庶民の皆さんに大事なお知らせがあります。非常に悲しいことですが、ルドルフ陛下は昨日不慮の事故で亡くなられました。」
「何だって?」
聴衆が一斉にどよめく。
「よって、今日から私が陛下になります。」
アメリアはグレイシア王国の国王になる宣言をした。
「ねぇ、アメリア、いつからあんたがこの国の陛下になったのかしら?陛下に相応しいのはあたしよ。」
クラリスが凄い剣幕でアメリアを睨みつける。
「2人とも落ち着いて。防御が最大の武器って言葉知らない?防御力に秀でた私こそグレイシア王国の国王に相応しいわ。」とイザベラ。
「3人とも調子に乗らないでよ。あんたたちが今まで戦闘で傷を負っても生きてこられたのは、私の持つ治癒能力のおかげよ。民を守るには治癒能力が一番よ。だから、国王は私。」とシャーロット。
「でもあんた傷を治すだけで、他は何も取り柄がないじゃない。」
アメリアがそう言った時、クラリスの携帯が鳴った。モンスターの出現だ。