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追放魔法少女は隣国で最強になる  作者: finalphase
第1章 追放と僅かな希望
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第6話 誰にも頼れない旅の始まり

 ルドルフ陛下のお言葉はとても嬉しかった。

私のような人間でも、丁重に扱ってくださり、良いところも悪いところもはっきり指摘してくれる。

あの方の期待に、私は応えたい。必ず、役に立てる力を身につけて、もう一度――サーヴェニア王国に、胸を張って帰らなきゃ。

でも、わかっている。

隣国からの使者という名目は、追放の婉曲表現にすぎない。

実際のところ、私は魔法少女団から役立たずとして見限られ、隣国に「無料」で送り出された存在だった。

生きて帰れる保証なんて、どこにもない。

それでも、ただ涙を流すには悔しすぎた。


出発の朝、私は孤児院の前で立ち止まった。

まだ陽も昇らぬうちに、みんなは眠っている。扉の前に置かれた手紙とお菓子の包みだけが、静かに私を見送っていた。

「ミナ、がんばって」

小さな字で綴られた言葉が、胸を締めつける。

馬車に揺られてからも、胸の奥のざらついた感情は消えなかった。

空は曇り、地平線の向こうには灰色の雲が重たく垂れ込めている。車輪が時折石に引っかかり、馬車が軋むたびに、私の不安も軋んでいた。

隣に座るサムという御者は、口数の少ない人物だった。気を遣ってくれていたのかもしれない。

それでも私は時折、何か話しかけようとして、結局喉まで出かかった言葉を飲み込んでしまった。

「……今まで私がしてきたことって…本当に正しかったのかな?」

小さくつぶやいた言葉は、馬の蹄の音にかき消された。


その時だった。かすかな鳴き声が、耳に届いた。

小さくて、震えるような声。助けを呼ぶ誰かの、命の音。

「ねぇ、ごめんなさい。一旦止めてくれるかしら」

「かしこまりました」

サムは私のわがままを受け入れてくれた。

声のする方へ足を進めると、木の根元で小さなモンスターが蹲っていた。

羽毛に覆われた鳥のような姿。体は小さく、怯えた瞳が私を見つめる。

羽の一部が裂け、血がにじんでいた。

「あなた……怪我してるの?」

私はそっとその体に手を伸ばすと、モンスターは一瞬だけ身を震わせたものの、逃げなかった。

そのまま傷口にそっと手を当てる。癒しの魔法なんて私には使えないけれど、せめて、少しでも痛みが和らぐようにと願いながら。

「ねぇ、私、この子の怪我が治るまでここにいる!」

「ミア様、そう言われましても。グレイシア王国に到着する日付を変更するわけには……」

「分かったわ。じゃあピータも連れてく」

「ピータ?」

「うん。この子の名前よ」

サムはしばらく黙ったあと、苦笑して言った。

「ミナ様…致し方ありませんな。いかにも、ミナ様らしい」


私は必死に、ピータの治療を試みた。

近くの草を煎じて薬代わりに塗り、布の切れ端で羽を巻いた。体温を奪われないように、マントの中に抱きしめて眠る日々。

シャーロットがいれば、こんな怪我、一瞬で治せたのだろう。

けれど、ふと思う。彼女の治癒魔法は、モンスターにも通じるのだろうか?

シャーロットやその仲間たちは、モンスター=悪という考えを当然のように持っていた。

でも、私は違う。

確かに、人を無差別に殺す彼らは邪悪な存在かもしれない。でも、生き物が生きるためにはある程度他の生き物の命を貰わなければならないことが多い。人間だって動物や植物を毎日のように食べている。それは、生きるために必要だから。人間が生きるために他の多くの生物を間接的に殺しているからといって、人間=悪ということにはならないと私は思う。モンスターにだって人間を襲うのは何らかの理由があるのかもしれないし、彼らにだって家族がいるかもしれないのだ。理想論だと言われるかもしれない。頭の中がお花畑だと笑われるかもしれない。けれど、私は人間とモンスターが分かりあって、共存できる世界を作りたい。

暴力でしか決着をつけられない関係なんて、悲しすぎるから。


数日が経ち、ピータは驚くほど元気になった。

名前を呼べば鳴いて答え、私が座るとすぐに膝に乗ってくる。

ある日、ご飯をあげようとしたとき、ピータはふいに羽を広げ、ぺこりと頭を下げるような仕草を見せた。

「もしかして……お礼を言ってる?」

そう思った瞬間、ピータは羽ばたき、空高く舞い上がった。

あんなに弱っていた体が、今では空を飛べるほどに回復していたなんて――

「ピータ、元気でね!」

私は空に向かって手を振った。

ピータは一度くるりと旋回し、私の肩の近くまで降りてくると、くちばしでそっと私の髪をつついた。

「……ありがとう。きっと、またどこかで会おうね」

彼は最後に一声鳴いて、空の彼方へ消えていった。


馬車に戻った私は、空を見上げながら小さくつぶやいた。

「私は、確かに頼りない魔法少女だ。何をやっても上手くいかない。でも、他者の痛みに寄り添うことならできる。」

ピータとの出会いが、教えてくれた。

私の優しさは、無価値なんかじゃない。

誰かの命を救い、希望を与えることだって、できるのだ。

「まずは自分にできることからやっていこう!」

私はまっすぐに前を見据える。

あの空の向こう、グレイシア王国へ――

私を試す新しい旅が、いま始まろうとしていた。

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