第5話 隣国への追放
グレイシア王国は、サーヴェニア王国の丁度隣に位置している。サーヴェニア王国が先進国だとすれば、グレイシア王国は発展途上国だということができる。国民はあまり裕福とは言えず、感染病や飢餓の危機が常に蔓延している。セラはグレイシア王国で唯一の魔法少女。彼女以外の魔法少女は、大人になる前に栄養失調でこの世を去った。グレイシア王国にはまだモンスターの危機は迫っていない。とはいえ、隣国のサーヴェニア王国で人々を襲うモンスターの危機は差し迫ろうとしている。セラはありとあらゆる場所に結界を張った。仮にモンスターがグレイシア王国まで入ってきたらそれを破られるのは時間の問題だろうが、自分にできる精一杯のことはしておきたかった。だって私は、この国で唯一の魔法少女だから。この国には魔法少女以外に国を守る存在もいるけれど、彼らは戦闘力をあまり有していない。天才肌で理論主義のノアは武器を開発することが専門だし、無口で内向的な性格のリゼは怪我の治癒を専門としている。つまり、この国にモンスターが攻めてきたとき、主力の戦闘はほぼセラ1人の役目ということになる。責任感の強い彼女は、隣国のルドルフ殿下に手紙を出していた。
「ルドルフ陛下へ
はじめまして。私、隣国サーヴェニア王国の魔法少女、セラと申します。
現在、我が国にはまだモンスターは出現しておりませんが、貴国に現れたモンスターがこちらへ到達するのは、時間の問題であると考えております。
誠に恐縮ではございますが、我が国の主要戦力の1人であるレオン殿下がおられない現在、私ひとりの力では、それらのモンスターを確実に討伐できるかどうか、心許ない状況でございます。
つきましては、もしご可能であれば、貴国より戦闘力を多少なりともご支援賜ることは叶いませんでしょうか。
ご多忙のところ大変恐れ入りますが、何卒ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。
セラ」
この手紙を出してから、2週間ほど経ったころ、隣国のルドルフ陛下から返信を頂いた。
「セラ殿
はじめまして、サーヴェニア王国の国王であるルドルフと申す。まずはすまなかった。こちらの国でモンスターを倒しきれないであろうがために、そちらにも迷惑をかけてしまい申し訳ない。だが、わしらの国でもモンスターの退治には思いのほか苦戦しており、充分に支援を届けられるかは分からぬ。だが、できる限りのことはしたい。こちらから、無料で魔法少女を1人派遣したいと思う。彼女は正直落ちこぼれだが、モンスターがソナタの国を滅ぼす間に時間を稼ぐだけのことはできると思う。このような形になってしまい申し訳ないが、サーヴェニア王国が再び平和な国に戻るまでは、どうにか彼女と一緒に持ちこたえて欲しい。
サーヴェニア王国国王:ルドルフ」
セラは陛下に、お礼の手紙を返した。
「ルドルフ陛下
この度は、魔法少女を無償でご派遣いただき、誠にありがとうございます。心より感謝申し上げます。
私自身、魔法少女としてはまだまだ未熟ではございますが、モンスターが迫ってまいりました際には、派遣していただいた彼女と力を合わせ、サーヴェニア王国に再び平和が訪れるその時まで、全力で持ちこたえてまいる所存でございます。
今後とも、何卒よろしくお願い申し上げます。」
彼女は、ふと考えた。
「落ちこぼれでタダで派遣される魔法少女ってどんな子なんだろう?無料で派遣されるってことは、サーヴェニア王国にとって不要な存在ってことかな?もしも暴力的な存在だったらどうしよう。」
一方、私ことミナはサーヴェニア王国にてルドルフ陛下直々に今後のことを伝えられていた。
「それって…要するに…追放ってことですか?」
私は低い声で問いかけた。
「ミナ…正直に言うとその通りだ。だが、わしはそなたは隣国で多くのことを学ぶことになると思っている。お主は他人を思いやる優しさを持っている。その優しい性格は魔法少女の適正として申し分ない。だが、能力が足りないのだよ。自分でもわかっているじゃろ。魔法少女としての能力を身に付けた暁には、必ずこの場所に生きて戻って来い。これは国王の命令じゃ。」
私は深々と頭を下げた。ルドルフ陛下が初めて私を褒めてくださったのはとても嬉しかった。ルドルフ陛下は人間をとても良く見ていらっしゃる。そして、1人1人に真摯に寄り添ってくださる。やはり、一国をまとめるにはこのような素質が必要なのだろう。私もあんな人間になれたら…と思う。そう、私に圧倒的に足りないのは魔法少女としての戦闘力。私は自分の性格が決して良いものだとは思っていない。臆病で泣き虫で、いつも弱気になってしまうし、人に助けてもらってばかり。けど、いつも他人を思いやる行動を心掛けている、それは本当だ。今回もサーヴェニア王国から追放されてしまったけれど、隣国のグレイシア王国ではきっと上手くいく筈だ。無駄にポジティブな性格でもある私は、楽観的に未来を観測して、期待に胸を膨らませていたのだった。