第3話 折れかけた心と冷たい視線
アーク・シュミレーター…それはクラリスが発明した魔法少女訓練場。中に入れば、魔法少女としての実践訓練をすることができる。頭脳明晰なクラリアは、ミアを嵌める方法を考えていた。まずアメリア、イザベラ、シャーロット、クラリスの順にアーク・シュミレーターで修行するお手本を見せる。そして、アーク・シュミレーターから出る際にシミュレーションにおける敵の設定の力を最大にする。彼女が発明したこの訓練場は、敵の強さを自在に変えることができるのだ。最後にアーク・シュミレーターを使うミアは、アーク・シュミレーターの出力最大限の敵にボコられるというわけだ。それを想像するだけで笑いが止まらなかった。まず、アメリアが中に入る。目の前には一体のロボットがいる。アメリアは、弓矢をロボットに向けて放つ。だが、その固い身体は攻撃を受け付けない。反撃して、アメリアに掴みかかる。彼女はその攻撃を身を翻してかわす。彼女は、運動神経も抜群なのだ。宙返りをしてロボットに蹴りを入れると、首元目掛けて矢を突き刺す。ロボットのスイッチが切れてその場に倒れる。良い攻撃をされると、自動的に電源が切れる仕様になっているのだ。お次は、イザベラ。彼女は攻撃力はそこまで高くないので、最初は防戦一方だったが、長期戦に持ち込んでロボットを疲弊させることによって勝利を収めた。今度はシャーロットが訓練場の中に入る。私ことミアが、一番気になっていたのはシャーロットがロボットとどう戦うか。彼女の最大の武器は治癒能力で、攻撃力や防御力といった戦闘スキルは私と同レベルだ。けれど、彼女は意外にもあっさりとロボットを倒した。実は、この時、イザベラの手によって、アーク・シュミレーターは戦闘レベル最弱の設定になっていたのだ。そんなことも知らない私は、「シャーロットがあんなに簡単に勝てるなら、私にもできるはず。」との思いから、安堵感を覚えていた。最後に訓練場に入ったのはクラリス。彼女は自作の部句を持って中に入ると、一撃でロボットを仕留めた。
「さっすがクラリス、やるぅ⤴」とアメリア。
「まぁね。私の手にかかれば、このくらい余裕よ。」
調子づいて返事をするクラリア。
「さぁ、ミナ。次はあなたの番よ。」
クラリスは嫌らしい笑顔で微笑んだ。アーク・シュミレーターの戦闘レベルが彼女の手によって最大になっていることも知らない私は、堂々と中に入った。そして、ロボットに向けて弓を放つ。しかし、その攻撃は一瞬で跳ね返された。そして、ロボットが私に向かって発砲する。その攻撃は私のバリアをいとも簡単に突き破り、私は地面に倒れ込んだ。ロボットは私に馬乗りになると、私の顔面を何度も殴りつけた。目の前が赤く染まり、私は意識を失った。
目が覚めると、私を嘲笑するクラリスたちの姿がそこにあった。
「お目覚めかい?鼻血女。訓練中にあんなやられ方するなんて、信じられない。」とクラリア。
「ほんと無様よね。こんな能無しが私の仲間だなんてね。」とイザベラ。
「これだから貧乏人は…」、呆れたように言うアメリア。今回の出来事は、さすがの私でも心が折れそうになった。恥ずかしさのあまり子どものように声をあげて泣いた。それでも心の中で「負けるか!」と呟いた時、クラリアが衝撃の言葉を言い放った。
「訓練失敗したのはあんただけだから、罰として2週間食事抜きね。不潔だから、まずは顔を洗ってきなさい。」
言われるがままに顔を洗ってくると、アメリアたちは私の両手両足をロープで縛り上げた。1週間後、私は何でも良いから食べ物を欲していた。飲み物は死なない程度に与えられていたけれど、やはり空腹は辛い。アメリアたちは、私の反応を楽しむかのように、敢えて私に高級そうな料理を見せつけて食事をしていた。食事を禁止されてから、丁度2週間後、私の意識は朦朧としていた。
「こいつ、餓死寸前じゃない?大丈夫かな。」
アメリアが不安げにクラリスに問いかける。
「そうね。そろそろ解放してやるか。私はあいつがいなくなったら寧ろ嬉しいけど、犯罪者にはなりたくないからな。」
そう。ここ、サーヴェニア王国でも人を殺せば立派な罪になるのだ。
クラリスは、次第に意識が薄らいでいく私の身体を解放した。そして、ぶっきらぼうに食べ物を置いた。私は、すごい勢いでそれを食べ終えると、瞳に光を取り戻した。
「クラリスさん、ありがとう。」
気づくと何度も彼女にお礼を述べていた。
「何だこいつ、自分がされたこと覚えてないのか。気色悪いな。」とクラリスが毒づく。
「酷い仕打ちをされたあとに優しさを見せられるとその人のことを好きになる的なあれじゃないの?ほら、DV男がモテる理由みたいな。」とシャーロット。彼女たちは、私のことを気色悪がって、冷たい視線を向けてきたけれど、私はクラリスに感謝していたのは本当だ。だって、彼女が食べ物を与えてくれなかったら、私は命を落としていたかもしれないから。そして、私は、「普段ご飯が食べれるってとっても幸せなことなんだ」と気づいたのだった。