表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/24

第6話「放課後、きみを壊す詩」

1

昼休み、教室の片隅。


スマホ画面に表示された「詩」。


《わたしはただ、気づいてほしいだけ。

 だれかが見てくれるだけで、

 わたしの心は、いくらでも歪んであげるのに。》


「これ、花宮澪じゃね?」


「え、あの図書室の……?」


「やば……エモい。しかもタイトルが《壊れてあげる》。怖すぎ」


ざわつく声。広がる共感。

でも、その“詩”には、どこか──おかしいほどの“力”があった。


読んだ生徒たちが、澪に視線を向け始める。


「あれ、今日ちょっと可愛くない……?」


「え、もしかして……俺のこと想ってたり?」


「ちょっと話しかけてみるか……」


誰も気づいていなかった。


それが、“悪魔の詩”になっていたことを。


2

「……それ、花宮さんが書いたって本当?」


俺がそう尋ねると、真白は静かに頷いた。


「彼女はずっと、自分の心を“詩”にして吐き出してきた。でも今は、その詩が“人の感情を動かす”力を帯び始めている」


「それって……」


「悪魔との契約。彼女はまだ無自覚。でも、“誰かに読まれたい”という願いが、無意識に悪魔を招いた」


俺はその瞬間、思い出した。


放課後、図書室の隅。


一冊のノートが、開きっぱなしになっていた。


そこには、こう書かれていた。


《わたしを見て。

 どこにも行かないで。

 わたしを、ひとりにしないで──》


3

放課後、図書室。


薄暗い光の中、澪は机に向かっていた。


彼女の周囲には、男子たちが数人。


「花宮さん、その詩さ……すごかったよ」


「俺、毎日読むことにした。もっと詩書いてよ」


「今度、オレだけの詩、書いてよ?」


澪は、笑っていた。


でも、瞳の奥は凍っていた。


「……“読んでくれる”のは、嬉しい。だけど……違う。そうじゃないのに」


机の下で、彼女の手が震えていた。


「本当に、私の言葉を“読んでくれた”のは──」


そのとき、図書室の扉が開く。


「……花宮さん」


澪の目が、大きく揺れた。


「……綾瀬、くん……?」


「ごめん。勝手に見た。君の詩。……でも、あれは“叫び”だった」


「……ちがう……違うの。あれはただの創作で……私は……」


「寂しかったんだろ?」


「……!」


「俺は、花宮さんの“本当の言葉”が聞きたい。だから、こんな力なんて──」


俺は、彼女の詩のコピーを破り捨てた。


澪の目が、見開かれる。


「こんな力いらないよ。君が書く“詩”は、人を支配するためのものじゃない。

君が“誰かに届いてほしい”って思って書いた、ただの言葉だ」


静寂。


やがて、澪は小さく、声を震わせた。


「……読んでくれたんだね。ちゃんと、最後まで……」


その声には、はじめて“安心”が混じっていた。


4

その夜、澪の部屋。


誰もいない空間で、彼女はノートを開く。


《きみの声で、わたしは初めて

 “自分の詩”を好きになれた気がした》


ページを閉じ、そっと微笑む。


部屋の隅。

そこにいたはずの悪魔の影は、もう消えていた。


5

一方、その夜の公園。


真白がひとり、ブランコに座っていた。


「……また、あなたが救ったのね。綾瀬智久」


木の陰から現れたのは、かつて凛に取り憑いていた悪魔だった。


「救う? いや……彼は、ただ“寄り添った”だけよ」


「ふふ。なら問おう、ましろ。

彼が他の少女に手を差し伸べ続けるその姿を──

君の心は、いつまで“見ているだけ”でいられる?」


真白の瞳が、かすかに揺れた。


「……私は、ただの観察者。悪魔の娘よ。感情なんて、必要ない」


「本当に……そうかな?」


風が吹く。

真白の銀髪が、静かに揺れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ