第21話「境界を越える日、始まりの悪魔」
1.空が裂ける音
放課後の空に、ありえない“裂け目”が走った。
まるで世界そのものに亀裂が入ったように。
黒い雷鳴が響き、風景がざわめく。
「……来たね」
真白がぽつりと呟く。
その瞳は、怯えてなどいなかった。
ただ静かに、運命を受け入れた者のように。
智久の手を、彼女はもう一度しっかりと握りなおした。
「あれが……“完成された悪魔”――“境界王”」
空からゆっくりと降り立つその影は、黒い翼と人間の姿を同時に持っていた。
気品すら感じるその男は、真白の姿を見て口角をゆるめる。
「……久しいな、妹よ」
2.悪魔は微笑む
その男――リヴィエルは、真白と智久に向けて微笑んだ。
「“境界”とは、甘く、美しい。
人が人でなくなり、悪魔が悪魔でなくなる。
だからこそ、そこに“欲望”が集う」
「……何が言いたい」
智久が睨みつける。
だがリヴィエルは穏やかな声で続けた。
「君のその瞳、綾瀬智久――
君自身が“最初の契約者”であり、我々の始まりだ」
「――っ……!」
智久の頭に、鋭い痛みが走った。
封じ込めていた記憶が、今にもこぼれ落ちそうになる。
3.過去の扉が開く
視界がぐらつく。
気がつくと智久は、幼いころの自分の記憶を見ていた。
雨の中、ひとりの少年が泣いていた。
傘もささず、誰にも頼らず、ただ蹲っていた。
「だれか……ぼくを、見つけて……」
その瞬間、黒い影が手を差し伸べた。
「“じゃあ、代わりに君の痛み、引き受けてあげるよ”」
それが、“最初の契約”。
智久は、無意識のうちに“心のスキマ”を差し出していたのだ。
4.真白の叫び
「それでも――智久は、人間だ!」
真白の声が響く。
彼女はリヴィエルの前に立ちふさがるようにして、智久をかばった。
「たとえ始まりが闇でも、彼は、わたしたちと一緒に歩いてきた!」
「ふむ……人間になりたがった悪魔と、悪魔の力を持つ人間。
滑稽だが、愛しいな」
リヴィエルが手をかざすと、空気が揺れた。
黒い羽が宙に舞い、世界が反転しはじめる。
「来るがいい。君たちの選択の果て、見せてくれ――
“誰の心を、差し出すのか”を」
5.闘いの幕が上がる
校舎が、空間ごと黒い結界に包まれる。
澪、凛、他の生徒たちも巻き込まれ、閉ざされた“最後の夜”が始まろうとしていた。
智久は震える足で立ち上がる。
「俺は……」
震えながら、それでも拳を握った。
「“誰の心”も、犠牲にしない。
たとえ俺が“悪魔”でも、誰かの痛みを利用するなんて、絶対にしない!」
その言葉に、真白がわずかに微笑んだ。
「……そう。その言葉が、わたしを救うの」




