第16話「スキマを見つめる瞳」
1.あの頃の記憶
ある夢を、智久は見ていた。
静かな病室。真っ白な天井。無機質な空気。
ベッドに横たわる少女。
目を閉じたまま、もう言葉を交わすこともできない。
――あれが、初めて“スキマ”を見た日だった。
少女の胸の奥から、黒い靄のようなものが、音もなく這い出ていた。
「……やだよ……さみしい……こわい……」
それは確かに、智久の知らない“声”だった。
けれど、少女の心から流れ出した“叫び”だった。
(なんで……俺、これ、見えてるんだ?)
目に映るはずのない“スキマ”。
だが、それは現実だった。
それ以来、智久は「人の心の隙間」が見えるようになったのだ。
2.真白の言葉
「……君はやっぱり、“視えて”いたんだね」
放課後の屋上、真白は小さくつぶやいた。
スカートをなびかせ、夕焼けの風の中で。
「“スキマを見る瞳”は、選ばれた者にしか与えられない。
でもそれは祝福なんかじゃない。……呪いだよ」
智久は、目を伏せた。
「知ってる。俺、この目のせいで、誰かを助けられなかった。
でも……この目のおかげで、“誰かが壊れていく”のが、わかるんだよ」
「……優しいね、君は」
真白の横顔に、ふと、柔らかい影が差した。
そして、彼女は言う。
「でも、智久――。
この世界に、“悪魔よりも恐ろしいもの”があることを、まだ知らないんだね」
3.スキマの正体
その夜、夢の中で“何か”が囁いた。
「やっと気づいたかい?
その目は、“他人のスキマ”じゃない。
本当に見えているのは――おまえ自身の闇だ」
「おまえは、誰も救えないことを、知っていた。
けど、優しいフリをした。
それが、“罪”だった」
目を覚ました智久は、荒い息をついて、布団を跳ねのけた。
胸の奥が熱い。痛い。苦しい。
「違う……違うんだ……!俺は、ただ……!」
けれど、心のどこかでわかっていた。
自分こそが、“最初のスキマ”だったことを。
4.少女の影
次の日の朝、智久の教室に新しい転校生がやってくるという噂が流れた。
誰かが囁いた。
「ねえ、知ってる? 昔、綾瀬って子、病院に入院してたらしいよ。
その時、一緒にいた女の子……亡くなったんだって」
誰が言い出したのかわからない噂。
でもそれは、智久の過去の“蓋”を開ける鍵だった。
その瞬間、彼の前に、
白いワンピースの少女が現れた。
「……また会えたね、智久くん」
少女は、死んだはずの面影とそっくりだった。
だが、その瞳は、真っ黒なスキマのように虚ろだった――。




