第14話「真白の嘘、わたしの真実」
1.誰にも言わないと決めていた
真白は、嘘をついていた。
悪魔の娘というのは、事実。
だが――それは“本当の目的”を隠すための仮面だった。
(あたしは、悪魔を狩るために来たんじゃない。
……“彼”を、止めるために来たの)
“彼”――最も完成された悪魔。
それは、彼女の双子の兄。名前は、「蓮」。
かつては人間を愛した。
だが、今は人の弱さを利用し、心のスキマに牙を立てる存在。
そしてその彼が、智久に興味を持ち始めた。
2.朝焼けの屋上で
登校前、真白はひとり屋上にいた。
制服のまま、冷たい風に吹かれながら。
やがて、足音。
「……ここにいたんだな、真白」
振り返ると、智久がいた。
彼は、どこか迷った顔で立っていた。
「凛のこと、ありがとう。あいつ、ちょっと泣けたみたいだ」
「……ううん、わたしは何もしてないよ」
「でもさ、おまえ……最近、無理してないか?」
その言葉に、真白の表情がわずかに揺れた。
「智久……もし、“あたしが敵だったら”、どうする?」
「……意味がわかんねぇよ」
「じゃあ、もし“嘘つき”だったら? 本当は全部、仕組まれてたら?」
智久は少しだけ考えて、でもすぐに言った。
「それでも……おまえが俺にくれたものは、嘘じゃなかっただろ」
真白は、ぽろりと涙をこぼす。
「……ズルいね、きみは」
3.真白の過去
夜、真白は眠れずにいた。
遠い記憶が、夢のようにまぶたに浮かぶ。
幼かった頃の“あたし”と“蓮”。
ふたりは人間の町で暮らしていた。
母は悪魔、父は人間。境界に生きる、異端の存在だった。
けれど、父が死に、母が姿を消し――蓮は変わっていった。
「人間は、弱さを隠して生きるだけの存在だ。
だから俺が“解放”してやる」
彼の口からそう聞いたとき、真白は泣いた。
蓮の言葉は正しかった。
でも、間違っていた。
4.選ばれる者
翌朝。
蓮は、図書室で静かに本を読んでいた。
智久が入ってくると、彼は顔を上げる。
「やあ、綾瀬くん」
「……おまえ、何者だ?」
「君も、うすうす気づいてるだろ?
“スキマ”を満たす者が、誰よりも人の心を知っているってことに」
「おまえが……“最も完成された悪魔”なのか?」
蓮は笑った。
「それを言うのは、まだ早い。でも……君に選ばれる資格があるのは、間違いないよ」
「……選ぶ?」
「そう。誰を救うか、誰を犠牲にするか。
君が“人の心のスキマを抱える者”である限り、避けられないことだよ」
5.嘘から始まった真実
放課後、真白はもう一度、智久に会いに来た。
彼女の手には、古びた写真。
そこには、幼い頃の真白と蓮が映っていた。
「これは……?」
「“あたしたち”がまだ、人間を信じてた頃の記憶。
でももう、その頃には戻れない」
「なんで、見せたんだよ」
「だって――この先、あなたが選ぶかもしれないから。
“わたしじゃない方”を」
「……選ばせる気か?」
真白は小さく首を振った。
「本当はね、嘘のままでいたかった。
でも……あなたと話してると、心が“痛くて、嬉しくて、苦しくなる”の」
「それは……」
「それは、きっと“恋”ってやつだろ」
真白の目が見開かれる。
そして、彼女は小さく笑った。
この物語で、初めて。




