第12話「選択の夜、告げられる真実」
1.心に潜む声
夜の自室。窓の外は静寂に包まれていた。
智久はベッドに腰を下ろし、静かに目を閉じる。
……その瞬間、耳の奥で、囁くような声が響いた。
「また会えたね。智久くん──覚えてる?」
少年の頃に聞いた、あの声だ。
誰も信じてくれなかった、“最初の悪魔”の声。
「ボクが初めて、キミのスキマに入り込んだ夜を──」
智久は、自分の中に眠る“何か”が目覚め始めているのを感じていた。
2.真白との対話
その翌朝、人気のない中庭で、智久は真白と向き合っていた。
「昨日の蓮の話、本当なのか?」
「……ええ。彼は“完成された悪魔”。人間の形を持ち、感情を持ち、誰よりも“共感”に長けている悪魔よ」
「おまえと……兄妹なんだよな」
真白は一瞬、視線を逸らした。
「蓮は、かつて私の“心”そのものだった。優しさも、孤独も、すべて──一緒に分け合ってた」
「じゃあ……蓮を倒すのは、おまえにとって……」
「痛みよ。殺すよりも、ずっと……」
彼女の声は震えていた。
3.“最初の悪魔”の記憶
放課後。
智久は無意識に、旧校舎の奥、かつて誰も入らなくなった資料室へと足を運んでいた。
そこは、彼が初めて“悪魔”を見た場所。
そして、封じられていた記憶が、蘇る。
──小学5年のあの冬。
夜の教室で一人泣いていた自分のそばに、誰かが現れた。
「泣いてるの? じゃあ、一緒にいようか?」
暖かくて、寂しくて、甘えたくなる声だった。
それが、“最初の悪魔”。
名前も顔も曖昧なその存在は、ずっと智久の心に寄り添っていた。
4.蓮との再会
その夜、校舎裏のチャペル跡地で、蓮が待っていた。
「来てくれて嬉しいよ、綾瀬」
「おまえの目的は……なんなんだ?」
蓮は穏やかに微笑んだ。
「人間と悪魔が、本当に理解しあう世界。それを見たいだけさ」
「それを……“共存”って呼ぶのか?」
「きみが選ぶなら、だよ。きみの中の“最初の悪魔”が目覚めれば、ボクと同じ存在になれる」
「でもそれは、人間をやめるってことじゃないのか……?」
蓮は首を横に振る。
「いいや、“自分を受け入れる”ってことだよ。智久。
きみ自身が一番、ずっと寂しかったんだろう?」
智久は言葉を失った。
5.選択の夜
その夜、智久は鏡の前で、自分の目を見つめる。
すると──鏡の中の自分が、勝手に笑った。
「君が何を選んでも、ボクは君の中にいるよ」
「“誰を救うか”じゃない。“誰と生きるか”を、選ぶんだ」
智久は、拳を握りしめた。
──答えは、出ている。




