第10話「その音が、わたしを壊す前に」
1.静かな旋律
放課後の校舎は、いつもよりも重い空気に包まれていた。
智久は音楽室の前に立ち止まった。
薄く開いたドアの隙間から、ピアノの音色が漏れている。
それは、どこか悲しくて切ないメロディー。
「──花宮澪?」
智久は恐る恐る扉を押した。
部屋の中には、一人の少女がいた。
澪は背筋を伸ばし、真剣な眼差しで鍵盤を叩いていた。
だが、その瞳にはわずかに焦燥の色が混じっていた。
2.詩と旋律の交差点
智久がそっと声をかける。
「澪、こんなところで……」
澪は一瞬戸惑いの表情を見せたが、すぐに落ち着いた。
「ごめん、綾瀬。詩を書くのに行き詰まって……音楽も、悪魔が呼んでくるみたいで怖いの」
「悪魔が?」
「うん。私の詩はね、誰かの心を引き寄せる力がある。
だけど、その力は強すぎて、私自身も巻き込まれてしまうの」
澪は視線を逸らし、つぶやいた。
「この旋律は、その“悪魔の声”に導かれているのかもしれない」
智久は握りこぶしを作り、決意を固めた。
3.「壊れる」瞬間
突然、音楽室の空気が震えた。
ドアの外から、不気味な影が忍び寄る。
それは、悪魔の気配。
澪の詩と旋律に引き寄せられ、悪魔が姿を現したのだ。
「来た……!」
澪の体が震える。
「綾瀬、私、もう壊れそう……」
智久は澪の肩に手を置く。
「大丈夫、俺がいる。お前は一人じゃない」
4.闘いの始まり
音楽室の中、悪魔がその姿を現した。
黒い翼と冷たい瞳を持つ、凶悪な存在。
真白も駆けつけ、二人は並んで悪魔に立ち向かう。
「この旋律も詩も、悪魔の支配から奪い返すわよ」
「澪、俺たちを信じてくれ」
激しい戦いが始まった。
智久は自分の内に潜む力を解放し、悪魔の攻撃をかわしながら、澪を守る。
真白は冷静に悪魔の動きを読み、精密な攻撃を繰り出す。
5.守るもののために
戦いの中で、澪は涙を流す。
「ありがとう……綾瀬……真白……」
彼女の詩と旋律は、悪魔の呪縛から解き放たれていく。
悪魔はついに消え失せ、静寂が戻った音楽室。
智久は澪の手を握りしめた。
「もう大丈夫。お前は壊れたりしない」
澪は小さく微笑み、ゆっくりと頷いた。




