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めだかの学校 大晦日 (冬 短編 バージョン)

作者: 朧月

みんながお遊戯しているよる(冬)


「見ちゃったのよ」

「えっ?」

「てっちゃんと春江さんが一緒にいるところを」

「どこで?」

「コメダ、江別のコメダ。」


崎田さんは、きっとこの話をしたくて、300円のおやつ代を払って児童館「めだかの学校」に来たのだろう。

この児童館は年齢制限がない。だから参加者の平均年齢はおよそ37歳。多いときは30人、少ないときは5人。シニアクラブと勘違いして訪れる人もいた。

けれど、みんな居心地がいいのだ。


今日の「めだかの学校」は、さっぱり市の冬の寒さに負けて、参加者は子どもがたった2人。どうやらパソコン学習をしているらしい。


ここ最近、冬将軍が猛威をふるっていた。崎田さんも、江別でこれ以上運転するのは危険と判断し、たまたま入ったのが、コメダだったのだという。


「マンボになって聞いたわ」

「てっちゃんが、『ペッパー警部、いいですね』って。でも、それしかきこえなかった」

「それで……?」

「それだけ。」


そう言って、おせんべいをボリボリ食べて帰っていった。

牛乳パック3個と米袋一枚はをリサイクルボックスにいれて。

これは、大人の話。


* * *


春江さんというのは、この児童館「めだかの学校」の創始者。てっちゃんも、まるでスタッフのような顔をして入口をくぐるが、ただ、300円のおやつ代を払ってくる、まあ、いわば62歳の児童だ。


このふたり、どちらも子供たちに人気なのは同じなのだが、微妙な空気がいつもながれている。

自分の夫を「しげちゃんはさ……」といって、総理大臣に似てるとなぜかぼやく亀田さんは、このふたりを「ゼレンスキーとプーチン」にたとえた。

これも、大人の話。


* * *


「めだかの学校」は、

チケットに~~♬

そおっと覗いてみてごらん♬

そおとと覗いてみてごらん♬

皆がワクワクしているよ♪

 

今日の参加ふたりは、真剣にパソコンにむかっている。


「なかいくん おぼえているかな?」

「てっちゃん OKだって。」

「できた。」


《12月31日 19時~

サヨナラコンサートよこうれんしゅう

ゆめの さっぱりドームカラオケ大会への だいいっぽ

ばしょ:めだかの学校

1曲目:春江さん&てっちゃん 夢のきょうえん『ペッパー警部』

(なんと、なかいくんが来るかも)

スマホは禁止。家に置いてきてください。》


なかいくんというのは、おそらく中学2年生。凛が小学生に入る前、ほぼ毎日、おばあちゃんと一緒に

この児童館に来ていた。そしてなかいくんも一時期、毎日8時15分から通い、凛の作った秘密基地で遊んでいた。


学校の成績は中の上くらい。どんな子とも気さくに話し、クラスでも先生からも信頼の厚い子だった。「彼のいるクラスは、必ず明るくよくまとまる」とまで言われていた。


しかし、ある日——ドラえもん事件が起きた。


「ドラえもん。いいあだ名だろ?それなのに、クラス追放だぜ。もう二度と行くもんか。学校なんて」


なかいくんの中学校では「あだ名禁止」というルールがあった。禁止されると、逆にやりたくなるのが人情で、彼だけでなく他の生徒も使っていた。だが、ある日“ドラえもん”と呼ばれた子が泣いた。その原因が、なぜか彼一人のせいにされたのだ。全校集会でもこの話題がとりあげられ、彼の知らない生徒や保護者まで、悪人呼ばわりされた。


だが、春江の「人の噂も49日よ。あなたは、今まで以上に楽しくすごせるわ。」のひと言で、次の日「めだかの学校」を卒業した。


* * *


「気になるわね」

「窓から、こっそり見に行こうと思ってるの」

「スマホ禁止って、ハードル高いわ」


——これも大人たちの会話。


* * *


大晦日当日。

てっちゃんと春江の「ペッパー警部」は、そりゃあもう最高だった。


でも、本気でチケットを信じていた人は少なかったのか、スマホ禁止のルールが高すぎたのか、観客はてっちゃんの家族と凛の家族だけ。


窓の外でこっそり見ていた数人は、「スマホ、置いてくればよかった」と思いながら、「ペッパー警部」を口ずさみつつ帰っていった。


暗幕のカーテンが閉まり、会場の明かりが消える。


——そのとき。


「りんちゃん。来たよ」


「なかいくん!」


「約束破るわけないじゃん」


「なんで来たの?」


「自転車で」


「たっクンも、ごろちゃんも連れてきた。ごろちゃんなんか、船できたって」


「ぼくは、しずかと来たよ。今、、しずかは千歳でドラえもんとまっている。」


「つよしたちは、ソウル便の紙チケットで。雪でおくれてるのかも、、。」

と、いったところで、二人も駆け込んできた。


「おくれてごめん。」と、ヒールの低いパンプスで、スパンコールの衣装を持ってきた。


最後の一人は、

「ママは、みるくあげちゃう。」といって、あかねちゃんのつくった牛乳パックでつくったスタジオを抱えてはいってきた。


——さあ、本番だ。


大晦日の夜は、静かに、始まっていった。


                   おしまい


追記 1 窓の外で、こっそり見てた数人に、亀田さんもいた。かえったら、ひとり紅白をみてる夫のしげちゃんに、報告した。「「ぜれんすきー 」と 「プーチン」が、ぺっぱ―警部、うたってた。」

「ふーん。」なんだか、意味のない「ふーん」だけど、亀田さんは安心した。いっしょに2024年の紅白を楽しんだ。


とりは、福山雅治さんの「少年」だった。亀田さんは、初めて聞いた曲だった。

曲の歌詞が胸にしみた。風のように時代が過ぎ、痛みが明日を照らすような、そんな一節だった。

福山雅治『少年』の歌詞に心を打たれた亀田さんは、新年、紅白をおもいだしながら、手帳の1ページ目に詩をかいた。


いったい いつに おわってくれるの

ときはかぜに ひとはいく

なくしたものを さがしながら はしっていく

うまれることの うつくしさと

いたみをしる そのとき

この涙は やがて明日を救うよ

あたいのうたを


大晦日の夜、カーテンがしまったあとに、もっとすごいパーフォーマンスががったことを亀田さんはしらない。

 追記 2 亀田さんの日ごろのボヤキは、単なるのろけだと、みんな知っている。

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