第四十話ウルフガング
バンドバトルの後、初めてKAWAに集まった。
「あっちに比べるとここは大人しいね~」
怖いものが苦手な黒川はあのGOD立川の血みどろどろどろのホラーな空間に少し辟易していた。
「まああれはあれで良かったけどね」
澤村も他のバンドのように感性がイカレているのかもしれない…
「今日から新しいPAさんが入る」
オーナーである圭一郎は皆にそう告げた
「やっとPAさんはいるんだ…」
PAや照明はバイトである澤村の仕事の一部であったり、弟である圭介が無償でさせられていたが今後はPAさんが手伝ってくれるらしい。
「PAさんってどんな人だ?」
「ではどーぞー!」
するとステージに寝転がっている女性がいた
「だっ誰?」
「誰です!?」
「誰だろ…?」
「誰?」
「誰かな…?」
堂々とした態度と雰囲気、そして圭一郎もさも「みんなあったことあるでしょ!」とでも言いたげな登場の仕方をした。
「ねぇ…そろそろ立ち上がってもいい?」
その女性は立ち上がり圭一郎の横に来た。
「自己紹介はしとくね、私は柴下一沙」
その名前は聞いたことがある、なんせバンドバトルの審査員の中に彼女はいたのだ。
新しいPAさんも入り、新たなスタートを切ったライブハウスKAWA、そして蛇山も新たな自分になるために黒川に話しかけようとしていた。いつもなら普通に話しかけられるはずが今回は理由が理由なので何故か勇気がいる。
「なぁ…黒か…」
だがその言葉を話しかける前に川が蛇山に呼びかける
「あ!蛇山と鳴神ー!そろそろ定期テストだからな」
その言葉は完全に二人の中から消え去っていた。だがその存在を川が今掘り起こした。
「あ」
(どうする!?恋か!?将来か!?)
心の中の情景はまるでRPGのエンディングのルート分岐のようだった。
・蛇山はどちらを選ぶ!
▶家に帰って勉強をする(成功率100%)
▶黒川を映画に誘う(成功率50%)
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▶蛇山は黒川を映画に誘うことにした!!
彼女の元に向かう
「なあ黒川…」
「なに?」
そして緊張しながら言う
「またこんどさ…映画とかどうかな…近くでやるらしいし」
少し空いた間が長く感じた
「うーん…いいよ!どこでやるの?」
成功確率は50%だと思ったが無事、黒川を誘うこと成功した
「蛇山~」
黒川と離れたとき鳴神がこちらに話しかけてきた
「お前…黒川をどっかに誘ってたけど、どこっつってた?」
鳴神は今柳田さんといい感じのはず、と思いながらも蛇山は答える
「池袋だけど…」
何故かウキウキの表情をしていた鳴神が少し驚いた表情を浮かべる。
「お前…自分の置かれてる状況分かってねーのか?」
「え?」
突然言われたことだった、蛇山は考えをめぐらすがすぐに結論が出る
「……………ウルフガング…!?」
黒川を映画に誘おうとした場所は今自分たちを突け狙っている組織、ウルフガングの拠点だ。
「そのままだとお前どころか黒川も危ないぞ…」
深刻に考える鳴神とは対照的に蛇山は軽々と言う
「大丈夫池袋は広いし、アイツになんかあったら俺がする。」
「そうか…まあ気を付けろよ」
そう頼もしそうに答えるが、鳴神はどうも腑に落ちていないようだった。鳴神のこの発言はただの心配ではなく、警告だったと後になって気づくのだった…
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当日になった。もちろん映画を優先したためテストはボロボロだった…
「葉月~ここだよ~」
「ごめん、まった?」
雨上がりの日差しの中でも短くなった白い髪が十分にわかる
「ううん、今来たところ」
約束の三分ほど前に来たというのに黒川は蛇山より先に来ていた
「髪切ったのか?」
その言葉を発した瞬間少しまずいことをしてしまったかと思う
(そういえば髪の話はあんましない方がいいんだっけ?)
髪を短くする行為には失恋などのイメージが強いため、元カレとの関係もあり少し心の中で反省をする。だが髪を短くすることには心を入れ替えるということもあることもあることを彼は知らない。
「うん」
(よかった~これで気づいてもらえなかったらどうしようかと…)
映画館に入りチケットを取る、今日は平日だったから高校生割引が効く
「ねぇこれで本当によかったの?確かに前見たいって言ったけど…」
「俺は大丈夫だけど…そっちこそいいのか?」
彼女が見たいといった映画は甘酸っぱい青春映画でも爽快なアクション映画でもない、血みどろのホラー映画だ。
「まぁ…ホラーとか克服したいし…〇〇〇さんが主題歌やってるし」
この曲はまだサブスクには公開されていない。ファンならいち早く曲を聞きたいというのは当然だろう。
映画は始まりからかなりのグロ描写が多く序盤を過ぎた後はジャンプスケアが増えてくる。自分も昔はこういった映画は苦手だったが最近喧嘩で大量の血を流し、見てきたのでゴア表現にはかなり耐性がついてきた感じがする。
だがこの映画のホラー表現は別に良さも悪さもあまり感じはしない、正直に言って少し退屈なくらいだ。怖いだけで普通にストーリーがつまらない。
あまりにも退屈だったため、ついよそ見をして黒川の方を向いてしまった。すると過呼吸気味になりながら目を瞑っていた、俺はそっと彼女の手を握った。
黒川のホラー嫌いは単純に怖いものが苦手なのではなく、過去の経験からのフラッシュバックなのかもしれない。これは単純な克服ではなくトラウマから立ち直ろうとしていたのだろう。
そして映画が終わり、暗闇からの慣れない日の光で眼がチカチカするなか。先に話しかけてきたのは黒川だった。
「今日はありがとね…正直結構怖かったから…」
まだ少し不安そうな顔をする黒川を蛇山はどうにか和ませようとする。
「もし怖い演出が気になるなら、ストーリーだけに集中すればいいんじゃないか?面白くないなら突っ込みながら出来るし」
「うーん確かに、その方法もありかも!ストーリーは突っ込みどころ満載だったしね」
先ほどとは打って変わり和やかな雰囲気で映画館の外に出ようとすると、後ろから誰かがこちらに話しかけてきたような気がしてきた。
「いやー俺も駄作は好んで見るから、お前とは会いそうだな」
後ろを二人で振り返るとそこにいたのは天道だった。
「お前だよな…蛇山」
「…天道か?」
「え?誰?」
この二人は現在交戦状態だが黒川にとっては全く見知らぬ人物だ。
「これは君の彼女?」
確かに距離は近いうえ高校生の男女二人だと勘違いもするだろう
「あっえっえっと…」
黒川が照れ隠そうとするが、蛇山はきっぱりという
「いや違う」
「え」
これがギャグマンガならガーンという効果音でもなっていただろう。すると天道が手をこちらの肩に置く
「まあ今日は喧嘩するつもりもないけどね、そのこと映画見に来ただけっぽいし。でも次あった時は……二人ともどうなっちゃうかな?」
天道がこちらを挑発するような発言をし、去っていく…と思いきやこちらを振り向く
「ちなみにどうだった映画」
黒川にとってはかなり怖かったたが改めてストーリーを振り返り蛇山と見つめ合う
「「クソだった!!」」
「クソだったよな!」
「じゃ!」
と言って天道はそそくさと帰ってしまった。
「ねぇ…なんだったのあの人…」
「…一応知っといた方がいいのか…?」
黒川に一応の説明はする。
「あ~…また面倒ごとに巻き込まれちゃったんだ…」
「うん…」
一番の心配は関係ない人つまりは鳴神と自分以外の人間が天道、基ウルフガングによって危険にさらされる可能性があることも伝えた。
「葉月がそれでいいならいいけど…喧嘩ばっかしていいの?テストとかもあるんじゃない?」
黒川にかなり痛いとこを刺されてしまった…黒川を映画館に誘うために完全にテストのことは放り出してしまった。
「テストの点とか…」
「まっまあ、割と取れてんじゃないかな…」
ここで少し疑問に思うことがある、最近まで学校に行っていなかった黒川のテストの点はどうなのか?少し気になってしまった
「黒川は…」
だがここでもう一つ別の疑問が浮かぶ
(ここどこだ?なんとなくついてきてたけど多分俺が住んでる地域じゃないよな?)
「てかここどこ?」
「え?あ」
黒川も自分が今いる場所を認識していなかったが大きな少し古びたアパートに着く
「私の家だね…来る?」
「いや…悪いよ…」
黒川はニッコリと笑顔を浮かべる
「今日親いないよ」
その言葉に一瞬揺らぎそうになるが黒川がこちらの手を掴んでいることが分かる
「来る?」
どちらかというと「来る?」という問いかけより「来い!」と言っているような気がする。仕方なく蛇山は黒川の家にお邪魔することにした。
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「お邪魔しマース…」
(てか誰もいないんだった…)
”今日親いないだよね…”という言葉は恋愛にとってかなりのターニングポイント的ワードだろう
「さっき親いないって言ったけど…ずっといないんだけどね!」
「そっそうか…」
黒川はそう明るく言うがこの部屋はかなり気になるところもある。部屋は先ほどの発言的に昔は両親と住んでいたのだろう。だからか部屋は広いわりに何もない。遠くにはリストカットで使ったであろうカッターと包帯がある。
「黒川…もうしてないよな…?」
かなり重苦しい話題をしてしまい、心臓の音がバクバクと鳴る。
「うん…流石に…もう死にたくはないから」
二人でソファに座る。あったばかりのころにあった首と手首の包帯はシャツからはみ出た黒のタートルネックで隠されている。
「本当葉月と会えてよかった…純くんとも仲直りできたし…」
「力になれたなら何より…」
そう言葉を発したものの、黒川は疲れたのか自分の肩で寝てしまっていた。
「…どうしよ…このままいてもいいけど帰れなくなっちゃったな…」
結局、黒川が起きるまでの二時間、蛇山はずっとこの姿勢のままで体がバキバキになってしまった。
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家で筋トレをしている真崎の元に天道から電話がかかってくる
「どうした?」
「今日さーあのクソ映画見に行ったんだよ、そしたら蛇山が彼女連れて同じ映画見に行ってたんだよね」
真崎はダンベルを手から離し地面に落とす。
「流石にそこで喧嘩とか起こしてねーよな?」
真崎のその言葉を天道は鼻で笑う
「大丈夫、厚治が思ってるほど俺は戦闘狂じゃないよ?」
天道の話からするに蛇山への印象はかなりいい雰囲気だと言う
「でもあいつらは光源潰して、BIRDを舐めたんだ、ボコボコしないといけない義務が俺たちにある。」
「クックwwそうだねwでもあいつらと戦った後はどうすんの?」
蛇山は潰すべき存在であり、別に事業を脅かされているわけではない。勝負に勝利し立場をわからせなければいけないだけであって何かの組織に属しているわけではない。だからその後の扱いはどうするかなどは決まっていないのが現実だ。
「どうするって…潰したらそのまま放置でいいだろ?また何かすればまた潰すだけだし」
だが真崎のその答えに天道は納得していないようだった。
「あの二人のことさ…BIRDにとりこまね?」
「何言ってんだ?あいつらは別にどっかの組織に属してなんかないだろ?」
天道は意外にもBIRDの勢力拡大に積極的だった。
「ん~…まあ考えておくよ。じゃそろそろな」
「うん、バイバーイ」
天道悠仁と真崎厚治は、はたから見ればかなりの間に行動していると思われている双璧なす存在と思われているが実際は正反対な人物、まさに表裏一体なのだ。




