第三十六話私たちのグロウル
補足、それぞれがどう呼んでいるか
蛇山→川、澤村、鳴神、黒川
川→蛇山、日和、鳴神、黒川さん
澤村→蛇山くん、圭介くん、鳴神くん、詩音ちゃん
鳴神→蛇山、川、澤村、黒川
黒川→葉月、圭介、ひよちゃん、龍生
「見といてよ。私たちの演奏!」
一石一鳥のメンバーがそれぞれ壇上に立つ。すでに一定層のファンがついている一石一鳥にファンは大盛り上がりだったが、今回初めて来た観客にはかなり刺激が強いものになっている。過激な衣装にラウドな曲、そしてその可愛らしい見た目からは想像もつかないライブパフォーマンス…というかライブのTIHORIとベースのNJIKAIの暴走。だがこれもただ奇をてらっているだけではなく、ちゃんと芸術的ないいがあるのがまた怖いところだ。
(なんだあれ!?あんな恰好高校生がしていいのかよ!?)
蛇山の叔父である大山和徳はかなり一般的な反応
「ちょっと大丈夫ですか?このバンド?」
「だよね…流石にアウトでしょ…」
テオジンと佐鹿は小声で会話する。
(…ちょっとエロいかも)
和樹はこの年でかなりのお盛んなようだ…しかし唯一気に留めていない者がいた、それは情報屋の名取だ。
(あーたまに情報集めに地下アイドルのライブとか行くしな…こういう格好の奴もいた気がする…)
皆がそれぞれの反応を見せる中曲の始まりの合図とともにとてつもないスモークがたかれた。それの異常な光景は楽屋で演奏を見ている五人からも確認できた。
「何これ?毒ガス?」
黒川の放った言葉が全てを物語っていた。
周囲の反応もファンはどんな演奏が始まるか期待しワクワクしていたが。ライトなファン層は困惑と畏怖の念を抱いていた。
「何だこれ?毒ガスでもばら撒くのか?」
奇遇にも佐鹿も同じ感想を抱いていた。
「この曲は〇〇〇〇〇〇〇〇〇をモチーフに作りました!」
「あっ虹乃ちゃん…」
ギターのNJIKAIがとんでもなく不謹慎で恐ろしいことを言い始めた、その言葉とつなぎ合わせるとこの演出も納得がいく。だがTIHORIの発言を見るにNJIKAIが勝手に口走ったと考えられる。
そして演奏が始まる最初は暗くて重くて激しいサウンドが響く。その後TIHORIがグロウルを鳴らす。バニーガールの少女からでたその歌声はファンを熱狂させたが他の観客にはかなりの衝撃を与えた。
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狼の仮面を被った少女NJIKAI…パンフレットにはそう書いているもののなんと読めばいいのかわからない…それはファン共通の話題になっている。不思議なのは見た目と名前だけではない作曲はTIHORIがしているものの、あの独特な歌詞はNJIKAIが書いている。
バンドの仲は良好なものの、ギターのOKIYUだけがこの独特な雰囲気にいい意味でついていけていない…この奇抜なバンドの中で彼女だけがまともなバンドをしている…
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そんなバンドがライブをしたらどうなるか…こんな感じに毒ガスの如く、大量にスモークが炊かれている。
「あの馬鹿ども…!」
オーナーの神谷はこのバンドのせいで大変な後処理をさせられている。
「まあまあ…今は許してあげなよ、私も昔はあんな感じだったし…」
柴下は過去の自分を思い出している。
「あぁ…お前が昔壇上で××××したことだろ?××の処理とか…」
「あー!ストップ!!放送コードに引っかかっる発言は流石に…」
それにしても海月が海堂のもとから離れていったのもわかってしまう。よくあるバンドの方向性の違いではあるものの海堂の様子を見ているとバンドどころではない気がしてきた。
すると圭一郎が神谷に質問する。
「ここのメンバーのウチドラムのROYはあまり情報がないんだけどあの子についてなんか教えてもらえないか?」
「ああROYはかなり最近入って来たからな、たしか肌色ではわかりずらいと思うけど、あの子はアメリカ人とのハーフで最近ここ越してきたんだ。」
ドラムのROYは最近追加されたメンバー、人気こそあるものの情報があまりない、黒髪にゴスロリファッションをしていることしかわからない。しかも他のメンバーからよると彼女…ではなく彼は男であるらしい。だがこのゴスロリファッションに恥じらいなどは感じておらず、まんざらでもない感じである。
(今日はみんなヘドバンが激しいな…ヘルニアとかにならないか心配だな…)
ROYが心配している通り。この激しいリズムに合わせて観客はヘドバンをしているが、これはまだ一曲目なのである。
この調子で二曲三曲と行けば命ごと燃やす勢いでこのままいくのだろうか?まだ他のバンドも備えているのに自分たちだけがいいようなライブになっていいのか?ROYは心の中でそう思っていた。
それはOKIYUが少し後ろを向いたときにROYが不安げな顔をしているのが分かった。
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そして一曲目が終わり、次の曲の用意をしていると沖野が話しかけてくる。
「大丈夫?なんか顔がこわばってた」
「……………………」
柳田は黙ったままだった。他のメンバーに比べて柳田はライブの経験が少ない、不安がるのも仕方がないのかもしれない。
「もっと自分のエゴを出していいからね」
その何気ない沖野の言葉は柳田の心に深く残った。そして次の曲が始まる。
こんなに激しく、過激な歌詞を歌っているTIHORIだが彼女も彼女なりの悩みを抱えている。
人前で歌うならまだしもデスボイスで人前で歌うのはもっと緊張する…
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ラウドロックはハードコアやヘヴィメタルの流れをくみ取りつつ、それまでの型にとらわれない新しい形を組んでいる。
だが形の根本にあるハードコアやヘヴィメタルは大量のサブジャンルを生み出しつつ暴力性や攻撃性を含んだ”過激さ”は世間一般には中々受け入れづらいものである。
だからこそ標準的ではないその音楽性を大衆の前で披露するというのは中々気が滅入るものだ。
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だがこんなところで打ち負かされてはプロへの道など程遠い、まだ高校生ではあるものの将来はどの道に行くかはもう千歳の中では決まっている。それは事務所に所属しプロになるかくたばって死ぬか。その両極端…だからどんなライブに本気の姿勢で臨み、一時も手を抜いてはいけない。命を削り、高校生としての時間を削り、残りすべての人生を音楽に捧げる…鉛筆を削り続けた先には物に書く道具としての機能しか果たすことは出来ない。それに他のメンバーも自分について行ってくれるか分からない。自分が抱えているこの感情を皆も思っているのかわからない…
千歳千穂李は16歳の高校生今こうして歌いながらも沢山のことを抱えながら生きている。
彼女はつくづく「このままでいいのか?」と思うことがある、今も歌いながら考えている。
いつの間にか二曲目が終わり、三曲目になった。今回はいつも比べ新規の客が多いため、別のライブでもやったあの演出を今回もすると海堂が言い出した。もちろん沖野はそれに反対する。
「え~でも前はそれで怒られたし…」
「でも…やってみないとわからない…今回は本物だし」
他のメンバーを動物に例えるならクールで自由な精神を持つ千歳はコヨーテ、温和的で人といるのが好きな柳田は鳩、元気で小柄な沖野はリスとなるはずだろう。しかし独特な芸術センスを持つ彼女らの中でもトップクラスに頭のおかしい海堂虹乃はぐにょぐにょと取っ付きにくい人物…何かの生物に例えるとするならクラゲだろう。
そんな海堂がメインを務めるライブパフォーマンスはこのバンドの醍醐味であると同時に過激で強烈なものとなっている。逆に流血していないのが不思議なくらいだ。海堂曰く…
「流血とかはしたくないかな…曲のテーマと関係ないし」
この発言の裏を返せば「曲のテーマにあっていれば流血しても問題なし!」ということだろう…曲解しているのかもしれないが海堂ならあり得ないこともない。
「あと…今日は本物だから」
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海月と海堂は元々同じバンドだったが方向性の違うから海月が脱退…そこから一石一鳥が生まれた経緯を持つ…
「海月くん、そういえば何で海堂とコンビ解消したんだ?」
圭一郎の質問に海月はため息をつく
「いや…川さんも見ればわかるでしょ?」
三曲目の前にTIHORIが話す
「最後の曲は恋人との死別をテーマに作りました、聞いてください…」
海月はこの時点で嫌な予感がした。
(あれ…この曲って…)
「見れば…そういえばまだあの子たちのライブ見たことないな…」
「まあ見ればわかりますよ…」
三曲目もいつも通り激しく…進んでいたはずだったがラスサビに差し掛かった途端。ベースから外れたNJIKAIが観客に向かって釣り餌用の蛆虫を投げつけ始めた。
「…………ほらね」
「なるほど…」
観客席は阿鼻叫喚の地獄絵図に包まれる中、圭一郎と海月は無言のまま硬直。
「あいつら…また…!」
神谷の表情は怒りに包まれていた。
「懐かし~私も前にそういうことしたな~」
柴下はこのおぞましい光景を見て懐かしがっていた。
「ほう…死がテーマだから蛆虫を散らすのはいいな…」
流石は現役のラウドロックバンドと言えるだろう、こちらも感性がイカレている。
そんなこともありつつも、三曲目を終わらせ、一石一鳥の出番は終わった。次のバンドの演奏が始まるまでの待ち時間に一石一鳥は神谷に呼び出された。
神谷は鳴神から警棒を、蛇山からはメリケンサックを受け渡される。
「コ ロ ス」
やはり大人が武器を持つと説得力が違う。
「ごめんなさい!もうやらせないようにします!」
沖野は深々と頭を下げていたが
「すいません」
柳田は謝ってはいたもののどうも腑に落ちていない印象だった
「すみません…抑えます…」
「やるな!!」
千歳は反省しているようで全く反省していない様子だった。
「ごめんなさーい」
海堂に至っては反省の色すら見えない。
「今!ここで!〇〇〇!」
かなりのブチギレそうになっている神谷だったが観客の反応を見ると
「結構良かったな…あういうパフォーマンスも新鮮だ」
「佐鹿さんどうすか今のバンド?」
「…いい曲だったな、途中で蛆虫投げたのは分からなかったけど…ちょっとかかったし…」
あんな過激なパフォーマンスだがかなり好評のようだ
「まあでも…今回は観客の反応が良かったけど…ッマジで次やったら…」
「分かりました!すいません!ほら、虹乃ちゃんも!」
「やって、やって」
沖野は海堂の頭を無理やり下げさせる。
「うゅ~ごめんなさい…」
後ろにいた黒川が四人に近づき言う
「いや~ライブ最高でしたよ!生で見れるなんて思ってなくて…」
「詩音ちゃんそう言ってくれたら…」
千歳は照れを隠しきれていない様子で言葉を発した。
「いやマジで凄かったですよ!ギターもベースもドラムも全部!」
「あとあのグロウルどうやって出してるんですか!?教えてください!」
川がいつにないくらい早口で興奮している
「また新しい熱心なファンが出来た…」
千歳は心の中で思う
(こんなに熱心ファンがついてくれるなら…まだ考えなくてもいいかも)
澤村もあのライブを見てかなり気分が上々だったが
(このまま行くのもアレだしな…)
生まれつき引っ込み思案で中々話せずにいた。すると誰かが手を握った
「さわ…日和も来てよ!こんな話めったに聞けないよ!」
川が自分から澤村を誘った。
「…うん」
(もうだいぶ話せるね、圭介くん…)
海堂は周りを見渡す
「そういえばロイちゃんは?」
「確かに、どこだろ?」
行方が分からないのは柳田だけではなかった
「あれ?龍生いないね」
「確かに鳴神の奴どこだろ?」
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ライブハウスの裏で柳田は鳴神を呼び出した。
「柳田さん…話って?」
「鳴神くん…あのね…」
次回バンドバトル編最終回!




