第三十三話五枚のチケット
バンドバトルまであと3日…ライブハウスとして需要なことがそれはチケット販売だ。
「それでもう少し足りない分、皆の友人とか家族に渡して欲しいんだ。」
蛇山、川、澤村、鳴神、黒川に一つずつチケットが渡された。
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鳴神はチケットを渡すため、とある場所に来ていた。
「久しぶりだな…いやそんなこと無いか」
そこは有数の不良高校、洞下高校。校門の前で待ち構えること数分、そこいたのは渋谷デベロッパーズの寺尾仁太ことテオジンだった。
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「すまなかった!!」
ライブ後の戦いの後、テオジンは鳴神に土下座してきた。
「あっあれは俺たちが完全に悪かった!」
こんなに謝罪をされたらこちらも許さざるを得ないだろう。
「しゃーねぇーな。後の他の奴にも謝罪すんだぞ。」
「あっありがとう!」
こうして佐鹿と蛇山、テオジンと鳴神で渋谷デベロッパーズとは完全に和解することができた。
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「でどうした?また新しい抗争か?」
鳴神はテオジンにチケットを渡す。
「?」
「三日後に立川で俺らのバンドがライブやるからさ、来てくれよ。」
テオジンは鼻で笑った後にチケットを受け取る。
「いいぜ、この前の仮ってことか?」
「そういう解釈でいいぜ。」
そういって去っていく鳴神の特攻服を背にテオジンはチケットを見つめながら思う。
(佐鹿さんとあの女の子って結局どうなったんだろうか…)
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澤村はその引っ込み思案で臆病な性格のせいで、スネークスキンのメンバー以外に深い関りのある人物はしいて言うなら家族くらいしかいない。
「誰に渡せばいいかな…」
家のベッドでチケットを眺める。
「別に年齢制限とかないなら…」
澤村は階段を上がる。そして着いたのは双子の弟である和樹の部屋の前だった。ドアをノックすると和樹がドアを開けて出てくる。
「ねーちゃんじゃん、なに?」
弟の和樹は双子なので容姿はとても姉である日和に似ていて話も割と合うのだが、どうも性格の根本が違う。臆病な性格の日和と違い和樹はとても明るくそしてチャラついている。金髪でこの歳だというのに何人もの女の子を引っかけている。そんな弟とはバンドのことなどもありあまり話していなかったのが現状だ。
「ライブのチケットをもらったの、明後日立川でやるんだけど来る?」
「ちょっと遠いけどいいよ、てかねーちゃんは行かないの?」
日和は何かを隠すように。
「わっ私は…その日用事あるから…」
「ふ~ん」
「そっそれじゃ!」
日和は咄嗟に部屋から出た後自身の過ちに気づく。
(なんか恥ずかしいから私が出ること言い忘れた!)
だが和樹にチケットを渡せたので日和はこれでよかったと思うことにした…
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蛇山はチケットをもらった瞬間もう誰に私かを決めていた。それは学友でも親でもない。
「ただいまー」
バコンッ!バシッ!ボガッ!
蛇山が家に帰ると隣の部屋からとてつもない轟音が響く。
「叔父さーん!ただいまー!」
その部屋に入り大きな声で呼ぶ。
「おお葉月、もう帰ってたのか?」
サンドバックを蹴る音がやむ、だがこの部屋の熱気を凄まじい。
「今帰って来たばっかだよ」
オールバックに色黒の筋肉質なこの人は大山和徳、蛇山の母の兄、つまり叔父にあたる人物だ。
「明後日やるライブのチケットをもらったんだ」
蛇山は叔父にチケットを渡す
「お前は出るのか?」
「もちろん」
葉月は自身満々に言う。
「……そうか、尚文も喜んでると思うぞ、お前が夢を見つけられて。」
「…そうだね」
父であるボクサー尚文が亡くなった後母の兄である和徳おじさんが家にいてくれるようになった。
「そういえば法子には渡さないのか?」
法子とは葉月の母である。
「その日は確かお母さん空いてなかったと思うし。それとうるさいところ苦手だからね。」
そして叔父にチケットを渡したものの葉月は後に思う。
(あんなごつい人連れてきてよかったのかな…)
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情報屋名取士郎、彼のところには今日もいろんな人がやってくる。襲撃しに来るもの、単に情報が欲しいもの、抗争の戦力になってほしいもの…どうやってここに行きつくかも様々、過去に自分が紹介したもの、自力で見つけに来るもの…たまたま見かけたもの…するとバイクのヘルメットを被った人物がいる。
「襲撃か?やめておいた方がいいぞ」
そいつはこちらに無言で近づいてくる。
「本当にやる気か?」
名取は警棒を取り出す。するとヘルメットの男は誤解を解こうとしているのか手を振る。
「ガァッー!ヘルメットすると視界も聴覚も狭まるなぁ!」
ヘルメットを脱いでいたのは眼鏡をかけた少し年下の少年。
「ん~お前俺と会ったことあるか?」
名取がじっくりと考えていると。あちら側から言い出した。
「川です!バンドマンの!」
「あぁ!いたねぇ!」
「それで今日はどうした?」
川は名取に近づく。
(なんだ?刺す気か?)
そんなことを考えていると川はポッケトに手を突っ込み何かを取り出そうとする。
「お前!いったいなにを…」
するとポケットから出たのは一枚のチケットだった。
「…はぁ?」
少しばかり警戒していた自分が馬鹿だと確信した名取は、情けない声を出す。そして警棒を川に突きつける。
「どういうつもりだ!何がしたい!」
川は警棒を恐る恐る掴みながら言う。
「せっかくチケットもらったんですけど、友達はバンドメンバーしかいないし、家族もライブの関係者何で渡す人と言ったら…」
「俺だけだったと?」
「はい…」
名取はぶっきらぼうな顔でチケットを見る。
(クソが!しかもこの日この時間たまたま空いてんじゃねぇか!)
名取は大きなため息をつく
「しゃあねぇな…言ってやるよ…」
「本当にありがとうございます!」
ライブにしぶしぶ行くことになった名取は、まるでセールスに商品を無理やり買わされたような気分だった。
「つかお前どうやってここまで来たの?」
川はヘルメットを被る。
「見ればわかるでしょ」
川はくぐもった声で言う。そして脇に止めてあったバイクにまたがり。
「本当にありがとうございます!僕はシンセサイザーで出てるので!」
と言いバイクで走り去っていった。
「…あいつあの感じで免許持ち+バンドのシンセ担当なのかよ…」
名取は川のギャップに完全に押されていた。
一方川はバイクで走りながら、あの裏の世界に入ったような余韻を感じていた…
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渋谷デベロッパーズのリーダー佐鹿の元に一軒のメールが来た。
「今時間ある?」
メールの相手は元カノである黒川詩音だった。
「あるけど、どうしたんだ?」
黒川から返事の返事は
「渡したいものがあるの」
と帰って来た。中学のころから関係はあったので、二人の家から一番近くの公園へと行くことにした。
「この時間でも熱くなってきたな…」
「だね…」
黒川と佐鹿はあって早々何気ない会話をしていた。
「それで?詩音が渡したいものって?」
黒川はチケットを佐鹿に渡す。
「……なるほど、本当に俺でいいのか?」
「うん…せっかくだから純生に来てほしくて…」
佐鹿は黒川に聞く。
「俺のこと…どう思ってる?」
黒川がその質問に返事をしたのは少し時間がたった後だった。
「別…もう悪い印象はないよ」
「そうか…」
佐鹿はポケットにチケットを入れ立ち去ろうとする。
「まって!」
黒川の呼びかけに佐鹿は止まる。
「もう行っちゃう?」
佐鹿は黒川に近づく。
「チケットもちゃーんともらったしな」
「ところで詩音…好きな人とかはもうできたか?」
「え!?」
突然の問いに黒川は悶える顔を赤らめる。
「うん…」
「蛇山か」
「えぇ…あぁ…うっうんと…」
図星を突かれしどろもどろになっている黒川に佐鹿は言う。
「じゃちゃんと気持ちを伝えてさ…俺と恋人でいて事実なんか忘れてくれ。」
去ろうとする佐鹿に黒川は言う
「でも」
「ずっと友達でいようね」
その言葉に振り返った佐鹿は言う
「勿論」
その夜は六月のはずなのに、少し涼しさを覚えた。
そして黒川の恋愛を佐鹿は全力で応援することに決めた…
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「みんなはもう渡したのかな?」
深夜のライブハウス、誰もいないステージにて、神谷と川の兄である圭一郎がコーヒーを飲みながら話していた。
「さぁ?なんか圭介はバイク借りてたけど…」
神谷はビックリしてコーヒーを吹き出す。
「あの子バイクの免許持ってんのか!?」
「うん、ノリで取らせたらなんか行けた。」
圭一郎が話す。
「そういえば、審査員って誰が来るんだ?」
それに対し神谷が口を拭きながら話す。
「えっと…まず俺らだろ?そしてウチにいるシンガーソングライターと俺の友達の若めの子、そして…」
「メガラバのボーカルだ、お前のところにも来てただろ?」
その言葉に圭一郎が飲んでいたエナジードリンクを吹き出し、神谷の顔に掛ける。
「おいおい…さっき俺はお前にはかけてなかっただろ…」
神谷の顔を圭一郎が拭きながら言う。
「あの人たち今めっちゃ伸びてるだろ?忙しいだろうに来れるのか?」
「ああというか覆面被って本名で来るらしい。」
圭一郎は気になったことを話す。
「お前の友達の若めの子って誰だ?」
「前にバンドをしていてな…今働けるライブハウスを探してるんだ」
「俺知ってるやつかな?どんなバンド?」
神谷はものすごく言いたくなさそうに言う。
「その…前に言った気がするんだが…ライブ中にセ〇〇スして炎上して…」
「分かった!もういい!」
圭一郎が話を停止する。そしてもう一つ気になったことを聞く。
「あとウチにいるシンガーソングライターって?」
神谷は浮かない顔で話す。
「ああちょっと前は一石一鳥のベースのことバンドを組んでたんだが、解散してから人気が無くなってな…それでも昔の栄光にすがっているから一回他のバンドを見てもらおうと思って…」
「そんな奴もいるんだな」
圭一郎が壁を見るとロン毛の髪の学生らしき男の写真が貼ってあった。
「…あれか?」
神谷は額に手を当てながら言う。
「……………………あああいつが最高潮に調子に乗ってた時に勝手に貼ってたやつだ…」
「KURAGE?変な名前でやってるんだな」
「あいつの本名は海月せいこう、最近、他のバンドと問題になりかけたらしいし…これで性格を強制出来たらな…」
だが圭一郎は予期せぬことを思いつく。
「逆にそれで思い上がってもっと調子に乗ったら…」
「最悪なことを言うんじゃない!ブチ〇すぞ!」
神谷も元バンドマンということもあって、あの頃の口の悪さが出てしまっている。
「あ、ちなみに横に飾ってあるのは昔の俺な」
海月の横にあったのはTheデスメタルといった、白塗りのまるでピエロ…いや悪魔のような見た目をし、髪型はモヒカン耳に大量のピアスと首に十字架のネックレスを着けた今の神谷とは似ても似つかない姿だった。
「何か…凄いな」
この写真を見るに神谷は恐らくドラム担当だったのだろう。恐ろしいことにドラムのスティックが折れている…さらに恐ろしいことに何故かドラムのシンバルに銃の痕のようなものがついている。
「…何で」
圭一郎はその一言しか発することしかできなかった…
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「ついに今日か…」
ライブハウスはいつも以上に他のバンドたちの活気で溢れかえっていた。なんせプロの道への登竜門、バンドバトルのリハーサルが今日行われるのだから…




