第二十八話ままならぬ練習
バンドバトルに備え各々が自分の個性を磨くために練習を始めた。
「鳴神!ちょっと合わせてくれないか?」
蛇山の問いかけに鳴神は聞く耳を持たない
「鳴神?」
このバンドバトルの本番で気を抜くことなんて許されない、しかし色恋にうつつを抜かすやつもいるのも事実、特に鳴神龍生という男はドラマーという重要な立ち位置なのに別のグループのドラマー柳田ロイのことを好きになってしまっている
そして普段はあまり目立たない澤村日和と川圭介もお互いに好きという感情が芽生えている。
そして蛇山葉月は藤森や佐鹿達と戦ってから不良たちの脅威が迫りつつある
しかしそんな中、黒川詩音は本番に向かってひたむきに練習を続けていた。
もちろん他のメンバーが練習をしていないという訳では無い、ただ黒川は他に興味があるものなどない、自分を壊し自分を救った音楽という物にただひたすら向き合っていたかった。
(私のプライベートってなんだろ……)
黒川も黒川なりに悩んでいる、音楽以外に熱中できるものが自分にはないということ
「私これからどうすればいいんだろ……」
黒川が悩みながら作曲にいそしんでると
「黒川ちょっといい?」
蛇山に呼び出された
「どうしたの?」
黒川から見える蛇山の顔は少し何かを気にしているようだった。
「……………何?」
そして蛇山が口を開いた
「俺のことどう思う?」
「……………へぇ?」
その突拍子もない発言に黒川は考えを巡らせる
(なになになに!?どう思うって?どうて何!?)
「どう……そりゃ…ギターとかうまいし…」
少し顔を赤らめながら答える黒川に対し蛇山が言う
「俺のこと、ヤバいやつとか怖いって思ってない?」
「え?」
さらに突拍子のない発言に黒川は混乱してしまう
「いや…あんまり深く考えないでほしいんだけどさ…」
「ちょっと用具入れで話そ…」
「う、うん…」
そして用具入れで話すことになった二人を澤村が遠くから見ていた
(何で二人で…まさか!)
密室で男女二人…澤村はよからぬことを勝手に考え勝手に顔を真っ赤にしているところを鳴神と川に不思議がられていた
「でな黒川…」
二人で用具入れに入ろうとするとどうやら先客がいたらしい
「……………あれ?ここならだれもいないと思ったのに」
そこにいたのは何かを貪る一石一鳥のリーダーTIHORI…もとい千歳さんだった
「…なにしてんすか?」
もごもごと何かを租借しながら千歳さんが話す
「ここくらいじゃないと、こんなもの食べれないから」
千歳さんが食べていたものは大量のクッキーなどの菓子だった
「お菓子…食べるんですね…」
黒川は少しショックというか…衝撃というか…少しばかりの驚きの表情を浮かべていた
「この人がお菓子食うのそんなに意外なのか?」
黒川が話す前に千歳さんが話し始める
「ほら…私一応クール系のキャラで通ってるから」
「ですよね、だからこういう甘いもの食べてるのは結構意外で…」
「そうそう!」
二人は激しくうなずいているものの、蛇山はTIHORIとしての千歳千穂李を知らないのでぴんと来ていない様子だった。
「まぁとりあえず…二人で話したかったらしいけど…私も聞いていい?」
「…どう?」
黒川が聞くが少し悩んだ後、蛇山は首を縦に振り、三人は床に座った
「でさ…俺のことどう思ってる?怖くない?」
「怖いってどういうこと?」
「それは…」
蛇山は一呼吸を置いた後言う
「ほら…俺平気で人のこととか殴るし…喧嘩とかもよくして…」
黒川は少し悩んだ後千歳の方を見る
「なに?どうしたの?話続けていいよ」
ニコニコと笑顔を浮かべながらこちらを見つめる千歳さんをしり目に黒川が口を開いた
「全然怖くないよ、葉月は」
「…どうして?」
黒川は蛇山の手を掴む
「そりゃ…すぐ人を殴るのはどうかと思うし、正直怖いって思う時もあるけど…」
互いの目が合う
「でも、それは私たちを守ってくれているってことだから…ちょっと安心できる」
その答えに蛇山の顔が明るくなる
「……そういってもらえてうれしいよ」
「でも相手から喧嘩を売られた限りは喧嘩はなるべくしないでね…」
「…ケガしたら心配だから…」
すると千歳さんが立ち上がる
「いいねこういう青春って」
その言葉に二人の顔が赤くなる
「…まあなんかよくわからないけど解決したようでよかったよ」
三人は用具入れを出る、しかし恥ずかしかったのか二人は少し気まずそうな顔で会話を一切していなかった
「オッ出てきた」
遠くで見ている鳴神、川、澤村は三人が出てくる瞬間を見ていた
「何で千歳さんまでいるんだ?」
「二人だったたらわかるけど三人なんて…」
すると鳴神が
「もしかして3…」
と余計なことを言いそうになった瞬間、澤村が後ろに気配を感じ振り向くとそこには
「何してるの」
同じように後ろから見ている海堂、沖野、柳田がいた
「最近、リーダーが変なことしてないかって見てるの」
皆柳田の話を聞いていたものの鳴神はずっと柳田がこんなに近くにいることに少しドキドキしていた
「その…いったんあいつらに聞いてみますね」
鳴神はそう言って二人を追いかけに行った
(やった~柳田さんに会えた!今日はついてる!)
鳴神は今柳田ロイという人物に夢中になってるそうだ…
黒川は誰もいない我が家に帰った後、布団にくるまり顔を抑える
(葉月って呼んじゃった!私今まで名前で呼んだことあったっけ!?)
と一人顔を赤くしながら悶々としていた
「はぁ…」
そして大きなため息を吐く
(一緒に色々できる友達ができたのはいいけど…心はまだ…)
過去のトラウマは消えない…たとえ気になっていたことが解決しても、心の傷はいえていない…
黒川は包帯を外し、自傷で負った傷を眺めながら一人眠りについた。
鳴神が家に着き、自室に行くと自身が身に着けている特攻服を壁に掛ける
「フフフ…やっぱかっけぇな…」
いつもはそんなことばかり考えている鳴神だが、今日は違う
「さてと…」
鳴神は引き出しからノートを取り出す
「今日も考えなきゃな」
鳴神が書いているのは…
{柳田ノート}
と書かれた気味の悪いノートだった、あの一目ぼれした日以来柳田に近づくため、彼はノートをかき続けていた
「うーん、やっぱ同じドラマーとして何かシンパシーを…」
こうして鳴神はこの薄気味悪いノートをかき続ける
そしてある結論に至る
「この特攻服一回脱いでみるか」
と思いながらノートに書き写し、鳴神は眠りについた
あれから一週間ほどたった
「よっ来てやったぞ」
ライブハウスKAWAのオーナーである圭一郎がGOD立川に視察をしに来たのだ
「練習はどんな感じだ?」
「はい!そりゃもう見せれるくらいには!」
蛇山が自信満々で答える
「それは気になるな」
「じゃちょっとみてください、俺たちの演奏!」
全員がそれぞれの担当楽器を持ち
「じゃ1曲目行きマース」
黒川の合図とともに早速人前での通しが始まった
五人の演奏は激しくも心地よいハーモニーを奏でていくが
「……」
オーナーの顔は少し険しそうだった
その顔に蛇山たちも少し焦りを見せる
(ヤバイ!なんかミスった!?)
一番焦っているのは一番初心者の鳴神だった
そして演奏が終わる、そして少し不安を抱えてまま…
「どうですか?」
演奏が終わった黒川がオーナーに聞くが少し悩みながら皆に言う
「何か足りない気がするんだよな…」
「足りない…?」
「ライブパフォーマンスとかやってみないか?」
「ライブパフォーマンス?」
オーナーはスマホの画面を見せる
「行くぞお前ら!」
その画面に映っていたのは、次に戦う相手一石一鳥のライブの様子だった
「うぉおおおおおお!」
ギャラリーが騒ぎ出す中一石一鳥はなんと、プレゼントととしてなのか栄養ゼリーを客相手に投げ始めた
「みんなぁ!ライブは疲れるでしょぉ!元気出してぇ!」
リーダーのTIHORIの格好はバニーガール、ベースのNJIKAIは狼のマスクを被り、ドラムのROYはゴスロリファッションでギターのOKIYUは制服を改造しあられもない姿になっている。このメンバーの中でこんなことをするこんな状況を一言で例えるなら…
「「「「「カオス!!!!!」」」」」
そのカオスな状況を見た四人は固まっていたが黒川にはこの光景は見慣れていた
「てんちょーさん、つまり私たちもライブパフォーマンスとかすればいいってこと?」
「ミルワーム投げつけるとか?」
「いや流石にそこまでしなくてはいいが…俺が口を出すのもあれだな、みんなで考えてみてくれ」
「演奏はよかったよ」
その言葉に安堵とともに新たな課題ができた、確かにいつも背う服姿でライブをしているのでこのバンドに一石一鳥ほどのインパクトなどない
「分かりました!」
その言葉を聞いたのちオーナーは少し微笑み、神谷さんの方に向かっていった。
「よっ」
神谷に向けてオーナーは缶コーヒーを投げる
「ありがと、そっちはどう?」
その問いに少し、心配そうな顔をしながら答える
「…ライブパフォーマンスについてどう思う」
「ライブパフォーマンス?」
神谷はコーヒーをすすりながら言う
「意味だよな…芸術を形にするべくやるならいいと思うけど、何か形にしたいものがないなら別にやらなくていいんじゃないか?演出とかダンスならいいと思うけど」
「そうか…」
オーナーはコーヒーのカンを開ける
「でも、過激すぎるのはどうかと思うな」
「…あの子たちか?」
神谷は図星を突かれたかのかコーヒーを吹き出す
「まぁ…あの子たちは他のライブパフォーマンスが過激な奴らに比べれば全然ましだよ…まあ前にミルワームとカブトムシ投げつけたときは流石に怒ったけど…」
「おぉ…」
(さっき詩音が言ってたのはそれのことか)
オーナーはコーヒーをすすりながら神谷に聞く
「過激な奴って誰だ?ここにいたのか?」
神谷少しは暗い顔を浮かべる
「※昔の海外のバンドでね…自〇したメンバーの写真を撮ってメンバーにその頭蓋骨を送ったり、境界を仲間と一緒に放火したりな…」
そして神谷が言う
「昔一緒にやってた同じバンドの奴がいたんだがな…そいつはライブ中にセックスして世間からものすごい批判を受けて自らこの世を去ってしまったんだ…」
オーナーは少し引きつった顔で話を聞く
「それは災難だったな…」
(頭おかしいだろ…そいつ)
神谷は飲み終わったコーヒーをゴミ箱に捨てる
「まぁ…過激すぎる芸術活動は身を亡ぼすってことだ」
二人の大人の会話の後は静寂が広がっていた。
※このバンドは実在したバンドです、少しエピソードを拝借させていただきました




