ヴァールグへ
すこし眠っていたようだ。肩を叩かれ、目を開けると鼻にすこし潮風が香る。目的地に近づいて来ているのだろう。
「グレイス、後20分程で、ヴァールグに着くらしいわ。準備しておきましょう。」
エーテルは手鏡を持って身だしなみを整え、フェルスは何やら本を読んでいるようだった。
「ですね、あまり来る機会も無かったので、潮風が新鮮です。」
エーテルはご機嫌そうに頷いた。
「だよね、ちょっと好きかも、爽やかな感じがするし!」
そんな会話を交わしながら、馬車に身を委ねていると。
「フレアホズだ、皆、決して馬車からでないように!」
先程まで眠気に誘われていたが、そんな誘惑も消し飛ばすかのような声が響いた。
「フレアホズ?!、B級相当の魔物じゃない、街も近いのに、どうして。」
エーテルは焦った声で、どうしよう、と呟きながら体をあたふたと揺らしている。
「大丈夫、ガルードさんは兵士だし、B級相当なら安心していいと思う。」
フェルスは冷静に言葉を紡いだ。魔物等には危険度等級があり、下からE級、D級、C級、B級、A級、S級と分かれている。兵士は、基本的にB〜A級に相当しており心配無いといえるだろう。下手にこちらが心配するのも野暮かもしれない。
「ええ、僕もそう思いますね。エーテルさんも、どうか落ち着いて。」
それを聞いたエーテルは納得を示す為に頷き、深呼吸をして心を落ち着かせた。
「そうね、ガルードさんもいるし、みんなもいるしね。あまり、こうゆう事は無いから焦っちゃった。」
凄い人だ。いくら言葉で示されたとしても、すぐ落ち着く事ができる人は少ない。そう思いながら、ガルードさんの様子を見る為に馬車の出口にかかっている幌を手でよけ、外に目を向けた。
少し焦げたような、そんな匂いがこちらまで伝わってきていて潮風と相まって独特な香りを生み出していた。
ガルードさんが立つ数メートル先には、とても大きく高さだけでも5メートル程あるだろう。まるで炎を纏った力強い馬、そんな姿をしたフレアホズが興奮した様子で駆け走っていた。
ガルードめがけて突進するフレアホズを、ガルードは鞘から抜いたショートソードを下段に構えて剣身に水を纏う。
そして、衝突ギリギリで右に避けながらフレアホズの首を切り上げ、綺麗に落としてみせたのだった。いつの間にか横にきて見ていた二人は、目を離せずにいた。
「凄い…。」
エーテルは羨望の表情を浮かべており、フェルスも言葉には起こさなかったが、同じ水属性を持ち合わせている同士感じ入るものがあったのだろう。
「流石ですね、兵士さんともなると、魔法剣も凄い精度です。」
私がそう言うと、フェルスは目を輝かせ、先程の魔法剣について語った。
「あの水の魔法剣、よく見ると水が動き続けていて、回る刃のようだった。だからこその切れ味なんだろうね。」
それを聞いたエーテルはまるで、子供のようにすごいすごいと、フェルスに話しかけていた。そうこうしてるとガルードさんが戻ってきたらしく、足音が聞こえてくる。
「皆、怪我はないかい?もうすぐヴァールグだから、安心してね。」
「はーい、分かったわ!。」
エーテルが元気よく返事をし、フェルスも頷いていた。
「ガルードさん、聞くのは野暮かもしれませんが、怪我はされてませんか?」
ガルードさんはそう言われたのが嬉しいのか、温和そうな表情を浮かべた。
「大丈夫、グレイスくんも心配してくれてありがとう。」
そういって、ガルードさんは御者台に戻っていった。馬車にまた揺られ始め、少しして街の入り口についた。
エーテル、フェルスと顔を見合わせ、馬車の外に出る。様々な建物が見えるが、特に目を引くのは空を飛ぶ飛竜達、奥に見える広大なガルド海、そしてなにより空島だった。降りて隣に立っていた二人も、この光景に目を奪われていた。
「よし、みんな。ヴァールグについた事だし、まずは腹拵えしようか。」
ガルードさんはそう言い、先頭を歩きながら進んでいった。
街の門を抜けた先には、カディスの街とはまた違った街並み。大きな通りに沿うように露店があって、その多くで売っている食品や物品は海産品関係であり、カディスでは、干物や海藻以外はあまり流通していないので、とても目新しく感じるのだ。
エーテル、フェルスもそう感じているのか、露店を眺めながらガルードさんに続いていったのだった。




