女神の愛し子
朝になり、目を覚ました私は、支度し終わり家を出るところだった。玄関で靴を履いていると、「おお、グレイス。いま外に出るところか。」
外から扉を開け、フォールさんが顔を出してきた。服装をみるに日課のランニングをしていたのだろう。右手にはバスケットを携えており、中には野菜や果物が大量に入っていた。おおよそ、フォールさんを尊敬しているお店の方々がお裾分けをしてくれたのだろう。
「ええ、そろそろ学園まで向かおうと思いまして。いってきますね。」
そう告げ、外にでようとするとフォールさんが私の肩に手を置き、「せっかくだ、お小遣いをやるから、帰りに飯でも食ってこい。」と言い、私のポケットに銀貨を数枚詰め込んだ。
「フォールさん、ありがとうございます。せっかくなので、美味しいものでも食べてきます。」
扉を開け、外に出ると街路に沿って歩く。
「確か、市場を抜けて東へゆく馬車に乗り、ガルド海近くの街で降りるんでしたね。」
ヴェルス国の首都カディスを抜け東に向かうと、ガルド海に隣接する街ヴァールグに着く。ヴァールグでは、ヴェルス総合学園へ向かう為の飛竜が飼い慣らされているという。
「取り敢えず、フォールさんが手配してくれた馬車まで向かおう。確か、他の推薦生徒もいるはずですし。」
遊んでいる子供や、買い物をする主婦など眺めながら歩いていると、思ったより早く目的地が見えてきた。首都カディスを出入りするための門。その近くに、大きな馬車が見える。あれが例の馬車なのだろう。近付くと、馬車の近くに腰に剣を携えた兵士が立っていた。
「こんにちは、名をグレイスといいます。ヴァールグへ向かう馬車はこちらであっていますか?」
そう声をかけると、兵士はコチラに目を向けた。
「ああ、あっているよ。グレイスって言うと、まさか、フォール様の息子さんかい?」
兵士さんは、感慨深そうな顔で穏やかに返事をくれた。とても嬉しそうにしている。
「ええ、そうです。道中はよろしくお願いしますね。」
兵士さんは頬を緩めて、「任せておくれ、フォール様の息子に傷一つはつけさせないよ。」と、誇らしそうにそう言った。
「っと、取り敢えず、この馬車に乗ってくれ、先に他の推薦生徒は来ていたみたいだから、グレイスくんが最後だね。」
なんと、自分が最後だったらしい。待たせたようで悪い事をしてしまった。
「持たせてしまってましたか。申し訳ないです。」
そう言うと、兵士さんは少し笑みを浮かべた。
「いや、グレイスくんは悪くないさ。なんなら、丁度だろうね。ただ、みんなは緊張して、遅刻しないように早く来ていたんだ。」
なるほど、確かにそうだ。皆優秀だろうし、頑張った結果推薦を受けた人達だろう。緊張しないわけもない。配慮に欠けていた。
「そうでしたか、ですがそれならよかったです。乗る前に、遅れましたが名前を聞いても?」
そうだった、と思い出したかのような顔をした兵士さん。
「僕としたことが、名乗るのを忘れるとは、申し訳ない。名をガルードと言う。結構良い名前だろう?」
自慢なのだろう。少し得意げな顔でそういった。
「ですね、カッコいい名前です。では、お願いしますね。」
そういって、私は馬車に近づき乗り込んだ。馬車の中に入ると、二人の女性が座っていた。これからは同級生となるわけだし挨拶しておこう。
「こんにちは、僕はグレイスといいます。お二人の名前は?」
長い薄桃色の髪をポニーテールにしていて、背が160センチ程の女性が顔をこちらに向けた。
「ええ、グレイスくん。私はエーテル、気軽に呼び捨てで構わないわ。」
可憐な顔をしており、美少女と言う言葉が似合う容貌をしている。もうすでに学生服に身を包んでいるようだ。そして、隣の銀髪でショートヘアーの彼女もこちらに顔を向けた。
「私はフェルス。よろしくね、グレイス。」
背が高く、170センチ後半はある。綺麗な顔でスタイルがよく、気だるげそうにまぶたを落としそうにしている。こちらも学生服に身を包んでいた。緩いブレザーに校章が付いているだけでとても動きやすそうだ。
「ええ、二人ともよろしくお願いします。突然なんですが、お二人さんは剣を使うんですか?」
馬車は動き出していた。そして、それを聞いたエーテルは少し驚いた顔をしている。
「よくわかったわね、私もフェルスも、剣を使うわ、しかも、フェルスは魔剣士なのよ。」
驚いた。魔剣士は数が少ない、それは器用貧乏になりやすいからだ。剣と魔法、どちらも上手く使える魔剣士は少ない。だが、推薦を受けてここに居る以上有望な魔剣士なのだろう。
「それは凄いですね、魔法はなんの属性が得意なんですか?」
魔法には4つの属性が存在しており、風·水·火·土だ。稀に特異な属性を持って生まれる事もあるらしいが、そうあることではない。
「水と火、どちらかというと水が得意かな。」
手のひらに水でかたどった鳥を浮かべながら、フェルスは自慢げに語る。
「元々、剣を握る気はなかったんだけど、良い師匠に出会っちゃってね。」
少し懐かしげに、気だるげに見えていた顔も今は、穏やかな顔をしていた。
「そうでしたか、剣を扱えて、二属性の使い手。同じ同級生として心強く感じますね。」
褒められて少し恥ずかしくなったのか、フェルスは話を変えようとする。
「ん、グレイスはやっぱり剣士なの?、ついさっきも、私達が剣を使っているのを見抜いたし。」
それを聞いたエーテルも、興味がありそうな顔をこちらに向けた。
「そうよね、手も使い込んでそうだし気になるわ。」
そう言い、2人して手を見る為に覗き込んできた。
「そうですね、僕も剣を使っていて魔剣士です。」
それを聞いたフェルスは少し目を開いて驚いており、エーテルは、興味津々で質問してきた。
「属性はなんなの?、凄く気になるわ!」
つい先程、属性には四属性あると説明した。だが、例外として特異属性が存在する。その代表的な物として挙げられるのが空属性だ。
「僕の属性は空属性ですね、まだまだ未熟者ですが。」
フェルスは目を大きく見開いて、エーテルに関しては、口に手を当て、声が出ない程驚いていた。無理もない。
驕るわけではないが、空属性というのは他の特異属性とも一線を画す。それはなぜか、空属性は継がれてきた属性であり、初代である騎士グラディウスから延々と継がれてきた属性なのだ。しかも故意に渡せる物でもない。条件は、最も騎士グラディウスに最も近しい者だとされている。
だから、基本的には騎士団長に引き継がれてきたものだそうだ。だが、何の因果か。稀に、全く関係なく見える者に継がれることがある。女神の愛し子と呼ばれる存在だ。
「め…女神様の愛し子ってこと?!」
驚愕に染まった顔で、エーテルはあわあわと慌てふためいている。フェリスに関しては、じっーとこちらを見てくるだけだ、だけれど、体に穴が空きそうなほどで気恥ずかしい。
「確かに、そう呼ばれはしますが同級生です。気楽にやっていきましょう。なにより、空属性であるから偉いという訳でもないでしょう。」
それを聞いたエーテルとフェリスは、顔を見合わせて納得したような顔をした。
「そうね、私とした事が取り乱してしまったわ。ごめんなさいね。」
少しだけ、申し訳無さそうにエーテルは言った。
「うん、これからも長い付き合いになるだろうし、よろしくね。」
フェリスはあまり表情は変わらず、右手を出して握手を求めてきた。
「ええ、よろしくお願いしますね。フェリス、そしてエーテルも。」
エーテルは握手を見て気が晴れたのか、私の手を取って、上に下にと振った。
「よろしくね、グレイス!」
良い出会いに巡り合わせた、そう思えた。




