試験
「学長、グレイスくんを連れてきましたよ。」
「ええ、ええ、ありがとうございます。」
第二訓練場のベンチに腰を掛けながら、学長は返事をした。よく見ると、その腰には立派な剣が携えられている。木剣などではない。鞘に収まるソレを、学長が持っているという事実がいいようのない恐怖を感じさせた。
「サラン先生は、ベンチにでも腰掛けていてください。今から試験を始めますので。」
「了解です、学長。」
学長はゆったりとベンチを立ち上がった。
「では、グレイスくん。試験内容を伝えます。ええ、単純ですとも。」
「私に一撃入れる事が出来れば、合格です。」
学長は腰に携えた剣を、鞘ごと僕に手渡した。
「では、これを使ってください。私の愛用している剣ですので、不足はないはずですよ。」
「わかりました、使わせていただきますね。」
ベンチに座って話を聞いていたサラン先生。どうやら不満な点があったのか、顔を顰めながら学長に異議を申し立てた。
「ちょっと待ってください、学長。」
「どうされましたか?サラン先生。」
「学長は試験の際、魔法を使用するんですか?だとしたら…。」
「サラン先生。」
学長は、眼鏡を手に取り拭きながらサラン先生に近寄った。
「彼の事は、フォールからよく聞いています。そのうえでこの試験内容にさせていただきました。」
「そうでしたか、すみません、出過ぎた真似をしました。」
サラン先生はそうは言ったが、視線は心配そうにこちらを向いている。学長はこちらに戻ってきたようだ。
「では、グレイスくん。この試験において、いかなる手段を用いても構いません。体に一撃を入れれた時点で合格とします。いつでもどうぞ。」
「分かりました。では、いかせていただきますッ!。」
全力で身体強化に魔力を回しながら、学長に向かって走る。鞘から剣を抜き、魔法を剣が耐えられるギリギリまで纏わせた。左肩から右斜め下に沿って斬りかかる。だが、弾かれた。学長は動いていない。弾かれた反動でそのままもう一度切りかかったが、まるで岩に切りかかったかのようにまた弾かれる。
「硬い、なにかに覆われているのか?。」
「ええ、そうですよ。私が作ったオリジナルの魔法です。目を凝らして私の周りをよく見てください。」
学長の周りをよく見ると、まるで濁った水越しに人をみているかのようだった。
「まさか、魔法で体を覆っている……?」
「おお、よくわかりましたね。そうですね、そこまで分かったなら後は簡単かもしれません。」
この魔法を突破する方法は大きく二つに分けられる。1つ目は学長の体を覆う魔法より出力の高い魔法、または攻撃をぶつける。だが、これはあまり現実的じゃない。学長の魔法から感じられる魔力出力は、今まで見てきた人で一番強い。騎士シャルドネの魔法剣でさえここまでの出力は持ち合わせていなかった。
となると、必然的に2つ目の方法を取るしかない。魔法剣の固有魔法だ。固有魔法は魔法より存在の優先度が高く、ぶつかり合った場合固有魔法が優先される。
息を吐いて、深く吸った。
剣を高く上げ、詠唱を告げる。
「この一撃は、女神の威光と心得よ。」
学長は、ただ僕を見ていた。
剣に空気が収束し、風が吹いたような音が部屋に鳴り響く。そして、剣を振るった。不思議にも、弾かれることはないと理解できる。
「流石ですね、女神の愛し子。いや、フォールの息子ですか。」
とてつもない轟音を鳴り響かせた斬撃は魔法を突破し、学長の体には横まっすぐの鋭利な傷ができていた。だが、深くはない。訓練場に置かれている魔道具のおかげですぐに傷痕は消えていた。
「とゆうことは、もしかして!」
「ええ、誇りなさい。この結果をもって、貴方の決闘部入部を許可しますよ。」
どうにか、試験に合格できたようだ。ベンチの方からサラン先生が駆け寄ってきた。とても安心した顔をしている。
「よかった、でもまさか、学長に曲がりなりにも傷を付けるなんてね。」
「ええ、固有魔法を使えなければ無理だったと思います。」
すると、学長が少し咳払いをし、話を仕切り直した。
「とにかく、合格したからには入部の手続きを行いましょう。」
「ですね、グレイスくんを連れて職員室に戻らせていただきます。」
どうやら、職員室に戻るようだ。学長は用事があるそうで、僕はサラン先生と職員室に戻った。職員室に着くとちょうど鐘の音が鳴った。もう1時間目が終わったようだ。
サラン先生が入部に際しての契約書に署名して欲しいとのことだったので内容を確認する。
大まかな内容は、決闘部の部活活動で意図的に他人を虐げてはならない、顧問、副顧問のいない場での決闘演習を禁ずるなどだった。
署名してからサラン先生に契約書を渡すと、契約書はサラン先生の魔法で何処かへ飛んでいったようだ。
「これで晴れて、グレイスくんも決闘部の部員だ。このあとは休憩してから授業に戻るといい。」
「やった、あ、そういえばサラン先生。一つ聞きたいことがあるんですが。」
「そのですね、手紙を地上に送りたいんですが、どうすればいいですか?」
「ああ、それなら、僕に渡してくれれば送っておくよ。」
「本当ですか、ありがとうございます!」
「いいんだよ。それと、授業が終わった後に部室を案内するから教室に残っててね。」
サラン先生に感謝を述べた後は、教室に行く前に汗を流したかったため、先に寮の自室に戻ることにしたのだった。




