第五話 作田の違和感
「変じゃない?」
部屋につくと作田が私に言った。
確かに、主人の言動は変だ。どう考えても何かを私たちに隠そうとする態度だった。
何よりも少女のことだ。不慮の事故によるやけどかも、とも一度思ったが主人の様子からしてそうではないのだろう。
やはり何かあるはずだ。
明日、他の集落の人にも少女のことを聞くのがいいかもしれない。そう作田に言うと、「それもそうなんだけど、」と眉を下げ困ったような顔をしながら
「なんだか視線を感じるから。」
と告げた。
ここを散策しているとき、すれ違いざまにちらちらと我々を見てくる住人は何人もいたが、普段はあまり来ない集落の外の人間を単に物珍しさから見ているだけだろう。
気になると言えば気になるが、致し方ないことだし、あまり神経質にならない方が良い。
しかし、そういうことではないらしい。
「単に見られるだけならこういう場所だし私だってしょうがないって諦めるよ。
でも外を歩いている時だけじゃなくて、ずっとそうだからどうしても気になっちゃって。この宿に戻ってきたときも、さっきご主人と話していた時も、」
そこまで言うと、少し迷ったような様子で作田はうつむきながら
「今もだし。」
と小さな声で続けた。
「今もって・・・。」
思わず口からこぼれた。私は写真の家に夢中になっていたり、傷だらけの少女と出会い気が動転していたためか、全然気にしていなかった。だから作田のこの言葉はあまりにも予想外で、頭が真っ白になった。
誰かが今も、私たちを見ている?そんな考えが頭をかすめて、一気に背筋が凍った。
「気のせいだよ!」
恐怖から思わず声を荒げてしまった。作田は私の大声にびくりと肩をはねさせたが、そうだよね、と返す。それは納得したからではなく、むしろそう自分に言い聞かせているようだった。
本当は分かっている。少女のこと、主人のこと、更に視線のこと。明らかに何かおかしい。
気のせいなんかじゃない。それはきっと作田も気付いていただろう。何かしないといけないのかもしれない。けれど、それ以上に考えるのが怖かった。
私たちはこのうす気味悪さを振り払うように、無理やり眠りについた。