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【皇帝陛下の来し方と手の焼ける陛下の愛人?】 side ソロ·マケル宰相

 産まれる場所と時代を選べるのであれば、自分は学者として生きる道を望んだであろう。


 古今東西、人間の歴史を紐解けば、古代より近世まで愚かな過ちの繰り返し。


 幼少の頃より、真実が書いてあるはずもない歴史書を捲り、

 裏から歴史を垣間見ようと思索に浸るのが好きであった。


 生家が、代々この帝国の宰相職を賜る事を生業とする家の、

 三男として産まれた故の少しばかりの良いところは、

『真実に近い歴史』の記録を盗み見る機会を得たことにつきる。


 自分は、容姿も性質も他人の心を動かす様の何もない宰相家の末息子。


 この帝国では長子相続が固定ではない。


 優秀な息子が指命を受ける慣習とあっても、

 私への興味を向ける者はいない。


 長兄が癖の少ない美丈夫、次兄は人当たりの良い男、

 それに比べて上背もない猿顔の末弟の自分に、

 誰も過剰な期待を寄せる者もいない。


 お陰で成人をとうに過ぎるまで、

 ひとり歴史書の山に埋もれて過ごすとも、誰も気にも留めぬ。


 自分にとっては恵まれた時を過ごしていた。


******


 始めに次兄が不慮の事故、女に逆恨みをかい無理心中の刃で亡くなった。


 その(のち)に、母と長兄が3日と患わずに流行(はや)り病で亡くなった。


 父はそれを引きずったのであろうか、いきなり倒れて亡くなった。


 脳幹の梗塞を起こしたと言う。


 帝国の宰相として若い時分から権勢をふるって来た父にとっては、

 寝床に縛り付けられて目玉の他を動かせないという後世を送るよりも、

 静かに逝けた事はあるいは幸いだったかも知れぬ。


 気がついた時には、一族の生き残りが、自分と長兄の残した幼い娘だけとなっていた。


 自分の姪にあたる娘の母親は、父の喪も開けぬうちに、

 娘を残してさっさと実家に戻り、一年も経たぬうちに他家へ嫁ぎ直した。


 周りの要らぬ事を言うやからに、私との再婚をすすめる阿呆の口を()に受けたのか。


 それとも世間の噂が自分に降りかかる事を厭うてのことか、何にしろ素早い身のこなしには違いがはない。


 しばらくの間の、世間の雀どもの‘口さがなさ’には驚きもしたが。


 雀の(さえ)ずりによると

『私、もしくは長兄の連れ合いが、一族の抹消を試みて宰相家の簒奪を』画策したらしい。


 馬鹿馬鹿しくて、怒る気にもならん。


 姪の養育には、乳母が熱心に傍らに残る事を望んだ。


 素性に問題があるものでも無いことから、

 姪の生活は変化もなく我が家に残された。


 事の顛末の後に我にかえって、手の中の歴史蔵書を持て余した。


 ため息をつき自分の先行きに驚愕するのみであった。


 おのずと、先代の皇帝陛下の御前に膝をつき忠誠をお誓いする運びとなった。


 先の皇帝陛下は、悪帝とは決めつけられぬが、

 身中にあるはずの臓腑も魂も留守になっていると疑われるご様子のお方であった。


 歴史書にも見当たらぬ、暗愚と言うもなかなかに、

 掴みどころのない御方であらせられた。


 皇帝陛下を傀儡とする政権をふるうのならば、

 自分が用意された席に付くだけの容易な配役に嫌悪を催した。


 先行きを思案するばかりであった。


 子供の頃から夢想してきた帝国のあり方は、

 宰相による傀儡政治によって形作られる形態ではない。


 言葉にしては、軽重軽薄に落ちるのだろうか。


 であろうと愚を承知で唱えるならば、真実『仕えるべく君主に仕える』事を叶えたい。


 実に簡単な、実に難しく贅沢な思いの渇望であった。


 宰相としての執政業務など、苦もなく行う己の才には、自分自身が驚くばかり。


 マケル家で、宰相職の基礎は末子の自分にも最低限施されてはいたのだが、

 人を見て人を動かす術は、埋もれて来た蔵書の中に潜んであった。


 ほどなく先の皇帝陛下に妃を得て、次代の誕生に手腕をふるう己の巡り合わせを俯瞰(ふかん)して眺めるに至る。


 この次代の皇帝陛下が、仕えるに値する皇帝陛下で有られるのならば、

 歴史書に示される『三代の繁栄』という、

 国の栄華の礎を築く風景を目におさめたい。


 その《帝国の礎を築く》という、(おのれ)の欲に生を使い尽くす事が本望と強く渇望するに至った。



 *************************



 次代を担うメルキオーア皇太子の、産まれながらの高貴高潔な人品と美貌。


 目線ひとつで辣腕(らつわん)をふるう知性は、

 手垢のついた帝王学などの具現ではなかった。


 物事を捉えて見通し尽くす明晰な頭脳からに他ならない。


 あまりに見えすぎてしまう事から派生するのであろう、

 退屈と孤独感を飼い慣らされる御様子に、同情も禁じえないと思い始めた頃。


「遺伝上の父であろうと下げる価値もないものに、

 (こうべ)をたれるのも、飽いてきた。」


 とおっしゃられる。


「さもあらん!」と納得を覚えた。


 この御方は、単語文節ひとつとして意味のない事を口にされることはない。


 物心つかれてより一度として。


 時が来た事を、納得して行動に移せば、

ウサギ一匹刈をるほどの苦もなく皇帝位の移行は成った。


 次代皇帝メルキオーア帝の誕生とその後の行政の成り行きは、

 世界がそのようでなかった事が思い至らぬような、

 あるべき物事があるべきように収まっただけの事に思われた。


 皇帝として、何ひとつの取りこぼしのないメルキオーア皇帝の、

 ただひとつの厄介な特性。

 

 それは、陛下がこの世の半分、女性を強く嫌悪なさる事であった。


 御自身の目の届く範囲に、女性の匂いの片鱗さえもあることを厭われる。


 御自身の宮殿にはもちろん、要職にそば近く侍るもの全て、

 女性の匂いを纏うものさえことごとく嫌悪なさる。


 母上様の皇太后様を邪険になさるのではないが、

 直接お目にかかる事も(しばら)くない。


 先にお目にかかった時もかろうじてお顔が見えるところから、

 お声がけをされるばかり。


 皇帝位についた折りに、皇太后様よりお祝いの文をいただいた事に、

 お返事をお返しになった以外は交流をなさった覚えがない。


 我がマケル家の、皇帝位を支える影の力のうちの秘伝。


 生命科学の粋を集めた設備と、それを動かす人材の育成確保の大成。


『人を作る技』文字通り人間を、人工子宮で作る作業である。


 父の代には、

 先代陛下の性的欲求を御満足いただくために作られる女性体が主であった。


 人工子宮で作られる女性体には受胎能力がなく、

 都合の良いこともあったのだろうが、

 逆に受胎をさせようと苦心しようと決してそれが成される事はなかった。


 遺伝子を解析しても、

 町を歩く女性と何ひとつと変わるところはないのであるが。


 神の領域に踏み込む事を許されぬ、人間の限界ということか。


 今上メルキオーア皇帝陛下の回りには男性体の側仕えが配置されるばかりで、すっかり女性体の作成は滞って久しい。


 女性をお側に置くことがあらせられない陛下に、

 陛下の次代を望むべくもない。


 陛下にそのような忠言を唱えるものなど、

 この帝国にひとりとしておりはしない。


 この私とても、申し上げたところで陛下は怒りひとつも表さずに、

 片眉を動かして、陛下のご意向を理解せぬ私の無能を嘲笑される事が必定。


 女性を嫌悪なさる陛下は、では男色に強く(ふけ)られるかというと、

 そうでもない。


 用意の若い男性体を、人としての現象の解消程度にお使いになりはする。


 しかし、決して執着なさるわけではない。


 奥近くの側仕えの話では、

 陛下は相手の男性体に、決して御自身のお体には触れさせようとはなさらない。

 

 事が終わると寝台から蹴りだし、2度と同じものはお使いにならない。


 口に心配のない、普通に産まれた男、少年を送り込んでもみたが。


 どれに対しても先の男性体と同じ扱いをとられる。


 人工子宮で作ったものであろうと無かろうと、

 興味を持たれる様子は皆無である。


 せめて、陛下の“お種”さえ頂戴できる手段があれば、陛下の次代にこの帝国を繋ぐ先があるものを。


 この帝国の臣民の生活安定は、歴史的に稀にみるものと考察する。


 貧富の差こそあれ、帝国主義の政治体制での《市民幸福度合い》の高さを疑うべくもない。


 特にこの数年、

 陛下のお気に入りの“あの者”を仕事に使われるようになってからの、

 この帝国の市民生活の向上は著しい。


 その帝国の様子が、他国の興味と羨望を煽っているのか。

 

 他国からの帝国への逆亡命を希望する庶民の多さに、

 辟易(へきえき)する程になっている。


 対外的には現在帝国軍の総力が他国を圧倒できる力を持つとはいえ、

 内部の安定が崩れた時に隙が露見すれば、

 帝国ひとつの散会など決してないことではない。


 古代の武器を持つ戦いと、現代の戦闘は規模が違う。


 この銀河系どこでも、人と国があったことを過去の出来事と歴史書に記されるだけの終焉は起こり得る。


 その時、(ちり)と消える人間と都市の規模は、

 古い歴史書に乗るどの国の規模と比べるべくもない。


 永遠の帝国など、どこにもあり得ぬとはいえ、

 今少しの栄光と存続の礎を残して逝きたい。



 *********************************



 皇帝陛下が執着を持たれる人間が存在したことに、

 驚きと不思議さえも禁じえなかった。


 頭が悪そうには見えはしないが、何が陛下のお気に召したのか皆目わからない。


 ある程度容姿が整ってはいるが、血統書つきではない。


 野生の野良猫の様相である。


 野良猫は、一度陛下の手元から離れたが、

 陛下の長くの御執着に、結局連れ戻し飼うことに相成った。



 陛下の御不況を覚悟で、彼の何が気にいられたのか一度だけお尋ねをさせていただいた。


「あれは、気を祓う。」


 と、短くおっしゃった。


 サリュー·サブル、いわく付きのサブル家の脇腹の息子。


 彼は帝国を離れた後、サブル姓を捨てて、サリュー·ターランと名乗っているが。


 陛下の側近くで働かせるにおいては、サブル家と距離をあける事は好都合ではあったのだが。


 さて、あの野生の野良猫が陛下の何を祓うというものか。


 いずれにしても、今現在陛下の玉体に触れる事ができる者は、

 あれをおいては他にはおらん。


 何とか、次の世の足掛かりを作るために、あれを使いこなせねば。


 陛下の御気性を、己の思惑で動かせる等との不遜は思わぬ。


 しかし、あの野良猫もなかなかに思い通りには動いてはくれぬ。


 頭は切れる男であるから、事の理を()いたとしたとても、

 怯むどころか(ことわり)を屁理屈で覆そうと試みる様が目にうかぶ。


 あの青二才よりは、年の功だけこちらの策謀の巡りが深そうな。


 どのようにして、外堀を埋めて私の‘国造り’の駒にさせたものか。



目に入れて下さった方が、どう思って下さったのだろう?ドキドキ

今日の暇潰しや気分転換になってたりしたら嬉しいなあと思っております。


少しでも気になりましたら、ブックマーク、評価をお願いいたします。

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