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3-1


「お嬢様、ここは……」


「サイラスについて来てもらったことはなかったかしら? 以前お兄様に連れてきてもらった私おすすめのレストランよ。王族もよく利用しているところなの」


「こんな高そうなところ……」


 サイラスは門の前で固まっているが、構わず手を引いて店の中へ連れて行く。


 店員に案内されテーブルへ向かう間、周りの視線がこちらに集中しているのがわかった。特に若い女の子たちは、気になって仕方ないというようにちらちらと横目でこちらを見ている。


 はじめは王子に婚約破棄された私がいるので注目されているのかと思ったが、耳をすましてみると、どうもそうではないらしい。


 女の子たちが小声で、「あの黒いジャケットの方は誰かしら?」、「すごい美形ね」なんて話しているのが聞こえてくる。思わず口元が緩んでしまう。そうでしょう? 私の執事はかっこいいでしょう? なんて、女の子たちのところに話しかけに行ってしまいたい気分だった。


「お嬢様、どうかされましたか?」


「いいえ、なんでもないわ」


 サイラスに心配そうに声をかけられても、私はずっとにやにやしていた。



 店員に促され、窓際の席に着く。サイラスは席についてからも、「ここまでしていただくわけにはいきません」と焦り顔で言っていた。けれど笑顔で黙殺する。


 私に引く気がないのを悟ったのか、サイラスも諦めたように口を噤んで、運ばれてきた料理に手をつけ始める。


「おいしい? サイラス」


「はい。とても」


 緊張しているようでサイラスの表情は硬かったけれど、時間が経つにつれしだいに表情が解れていくのがわかった。特に魚介のスープが気に入ったようで、口に入れた瞬間驚いたように目を瞬かせていた。


 やっとこちらから何かを渡せたわ、と満足してその顔を眺める。



「おや。エヴェリーナ嬢じゃないか。兄上に婚約破棄されてさぞ気落ちしているだろうと思ったら……もう新しい男を見つけたのか?」


 いい気分で食事をしていたというのに、突然頭上から不快な声が降ってきた。見上げると、そこには従者を二人引きつれた第二王子ミリウスの姿があった。


「ミリウス様……。いらっしゃってたんですね。何かご用でしょうか?」


 顔が引きつらないように気を付けながら尋ねる。私はこいつがとても苦手だ。苦手というか、はっきり言って嫌いだ。


 なんせ一度目の人生で私が牢に入れられたとき、懲役刑や国外追放ではなく死刑にするべきだと強く主張したのがこのミリウス王子なのだ。


 ジャレッド王子と同じく聖女カミリアに好意を寄せているミリウスは、彼女に危害を加えようとした私が許せなかったらしい。


 処刑が決まって数日経った頃、ご丁寧に牢屋の前までやってきて、カミリアに嫌がらせをして暗殺未遂まで企てた私がいかに醜いか、生きている価値のない存在なのか説いてくれたこともある。


 思い出しただけでむかむかしてくるが、第二王子に不敬な態度を取るわけにはいかない。


 私は向かいの席でミリウスを睨みつけているサイラスにふるふると首を振り、笑顔でミリウスの言葉を待った。



「どこかで見たことのある下品なピンクベージュの髪を見つけたものでな」


「まぁ、それは私のことでしょうか? ミリウス様に見つけていただくなんて光栄ですわ」


「誰といるのかと思ったら男と一緒で驚いたよ。新しい男は随分とまぁ……庶民的なようだな? つい最近婚約破棄されたばかりとはいえ、公爵令嬢に取り入れば得だとでも思ったのか」


 ミリウスはサイラスをちらりと見遣ると、顔をにやつかせながら言った。瞬間、頭に血が上る。なんて無礼な奴なんだろう。


 私のことは多少失礼なことを言われても許してやるつもりだったが、サイラスを侮辱するなら話は別だ。


 拳を握りしめてミリウスを見遣ると、今度はサイラスの方が私を止めるように必死で首を横に振っているのが見えた。


 大きく息を吸い込んで気持ちを落ち着かせる。


 今日は喧嘩をしにきたのではない。サイラスに喜んでもらうために来たのだ。


「うちの執事なんですのよ。とってもかっこいいでしょう?」


 笑顔でそう言ったら、ミリウスは面食らったような顔をした。いつもならとっくに怒っているだろう私が笑顔を崩さないので、調子が狂ったのだろう。

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