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2-3

 そういうわけで翌日、私とサイラスは街までやって来た。


 サイラスはいつもの執事服ではなく、白いシャツにダークグレーのベスト、黒のズボンというシンプルな格好をしていた。


 私のほうも街に出るには邪魔だろうと思い、いつも着ているような煌びやかなドレスはやめにして、薄緑色のワンピースにショールを羽織るだけの恰好をしてきた。


「お嬢様、私のわがままに付き合っていただいてありがとうございます」


「いいえ、こんなのちっともわがままではないわ。どこか行きたい場所があるの?」


「特に行きたい場所はないのですが……お店を見て回りたいです」


「わかった。じゃあ、入りたいお店があったら言ってちょうだい。欲しいものがあったら何でも買ってあげるわ」


 そう言うと、サイラスは素直に「ありがとうございます」とお礼を言った。


 あまりに簡単なお願いに拍子抜けしてしまったが、考えてみれば街歩きもいいかもしれない。


 これならサイラスの好きそうなお店に入ってたくさんお土産を買ってあげることができる。私があげたいものを押しつけるよりもずっといいはずだ。


「あ、お嬢様! ここに入りたいです!」


 サイラスが早速一軒のお店の前で声をあげた。


「いいわよ。……って、え? ここに入りたいの?」


「はい! 行きましょう、お嬢様」


 サイラスは笑顔で手招きする。水色の屋根に白い壁のお伽話にでも出てきそうな建物。そこは明らかに女性向けのアクセサリーのお店だった。


 誰かにあげたい物でもあるのだろうか。姉妹……はいなかったはずだから、もしかすると恋人とか? 私としてはサイラス本人が使う物をプレゼントしたかったけれど、まぁそれでもいいかと自分を納得させる。


 店の中は若い女の子たちで混み合っていた。彼女たちは棚の上に並んだ色鮮やかな髪飾りやアクセサリーを見て、楽しげに話している。


 その光景をぼんやり見ていると、サイラスが白い花のいっぱいに並んだデザインのブレスレットを持ってきて言った。



「お嬢様、このブレスレットはどうですか? お嬢様に似合いそうです」


「まぁ、綺麗……って、私のじゃなくて! 自分の欲しい物を探したら?」


「あはは、ここには私が使えそうなものは売っていませんよ」


「え、じゃあどうして来たのよ」


 サイラスは私の質問に笑うだけで答えない。


 そしてどんどん新しいアクセサリーを持ってきて、「これはどうですか?」、「これも似合いそうですね」なんて言いながら、次々と私に試させた。


 そのお店に置いてあるアクセサリーはどれも結構お手頃な価格で、私が普段身に着けている物とは大分質が違うようだったけれど、だからこそその物珍しさに胸が躍った。


 色鮮やかでカラフルで、ちょっとチープで、とても可愛い。


 実を言うと、平民の女の子たちがこういう髪飾りやブレスレットをつけているのを見て憧れていたのだ。お父様に叱られるから絶対に口には出せなかったけれど、一度こんなお店に入って、自由に買い物してみたいと夢見ていた。


 お店に入ってしばらくする頃には、すっかりアクセサリーを見るのに夢中になっていた。



「あぁ、すっごく楽しかったわ!」


 可愛いアクセサリーをたくさん見て、すっかり満足して店を出る。つい興奮して呟くと、サイラスは隣で嬉しそうに笑っていた。


「お嬢様、以前からこのようなお店に入りたそうにしていましたもんね」


「え? 気づいていたの?」


「お嬢様はわかりやすいですから」


 サイラスはそう言って笑った。興味があるのは隠していたつもりだったのに、バレていたなんてちょっと恥ずかしくなる。


 もうちょっと表情に出さないように気をつけなくちゃ。いや、でももう王子の婚約者でもないし感情を隠す必要なんてないのかも? なんて考えていたら、サイラスが遠慮がちに小さな紙袋を差し出してきた。


「あの、お嬢様。よろしければこれを……」


「え? なぁにこれ?」


 受け取って中を見ると、そこには赤い薔薇に紫のリボンのついた髪飾りが入っていた。先ほどお店で見て一番気になっていたものだ。いつの間に買ったのだろう。


「これは……」


「お嬢様が身に着けるような物ではないかもしれませんが、熱心に見てらっしゃったので……! その、つけていただかなくても」


 サイラスは顔を赤くして慌てたように言う。なんだか気持ちがふわふわしてくる。


「とても嬉しいわ。ありがとう」


 私はなんだかうきうきした気分で髪飾りを取り出し、早速髪につける。


「似合うかしら?」


 そう尋ねたら、サイラスは驚いたように目を見開いた後、泣きそうな顔になった。そして柔らかな声で言ってくれる。


「はい、とても似合っています」


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