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1-3

***


 死に際にそう願ったからなのだろうか。


 私は再び目を覚ました。


 そこは、王宮の控え室のようだった。私は鏡の前に座り、侍女のマリエッタに髪を整えられている。


 毛先の緩くウェーブしたピンクベージュの髪に、淡い紫色の目の見慣れた顔。鏡に映っているのは確かに私だけれど、やつれきっていた最近の私よりいくらか健康そうに見える。


 マリエッタは鏡の中の私を見ながら、目を輝かせて言った。


「お嬢様、とてもお綺麗ですよ! ジャレッド様も見惚れてしまうんじゃないかしら。カミリアなんて女、目じゃありません!」


「え……?」


 以前も聞いたことのあるセリフだった。ジャレッド王子に婚約破棄された日、全く同じシチュエーションでマリエッタに同じ言葉をかけられた。


 言葉だけではない。着ているドレスも、控え室の様子も、目に映る光景全てに見覚えがある。


 私はおそるおそる口を開く。


「ねぇ、マリエッタ。今日はもしかして……ジャレッド様の十九歳のお誕生日……?」


「えっ? お嬢様、何をおっしゃってるんですか? もちろんそうですよ。今日はジャレッド様の誕生記念パーティーに参加するために王宮にやって来たんじゃないですか」


 マリエッタは不思議そうな顔でそう言った後、体調が悪いのではないかと心配そうに尋ねてきた。私は戸惑いながらも大丈夫だと笑ってみせる。


 どういうこと? まさか、時が戻って数ヶ月前に戻ってきたとでも言うのだろうか。


 髪と衣装を整え終わると、まだ状況を理解しきれないまま、王宮の使用人に促されてパーティー会場まで向かう。そこで起こることも全て既視感があった。


 じわじわと、自分が本当に過去に戻って来たのだと理解する。


 ということは、ここに……サイラスもいるのだろうか。


 心臓の音が早くなる。サイラスはあの日一緒に王宮に来ていたはずだ。パーティー会場には入らず、別の部屋でほかの使用人たちと待機していた。


 早く確認したくて気持ちが焦るのに、会場に入ってしまったせいでなかなか抜け出せない。


 いっそ入り口を見張っている兵士に追いかけられてもいいから会場から出てしまおうかと考えているうちに、あの婚約破棄騒動が始まってしまった。


 前回はあんなにショックを受けたジャレッド王子の言葉が、全く心に響かなかった。そんな話はどうでもいいから、早くサイラスを探しに行かせてという思いしか出てこない。


 それでようやく抜け出すタイミングを見つけると、私は一目散に会場から駆け出したのだ。



 やっと見つけたサイラスは、心配そうに私の顔を覗き込んでいる。


「お嬢様、本当にどうなさったんですか? やっぱりショックで気が変になったんじゃ」


「違うわ。本当にいいのよ。王子とカミリアは幸せになればいいわ」


「私は許せません。お嬢様をあんな目に遭わせておいて、のうのうと聖女と婚約し直すなど……」


「あなたはいつもそう言ってくれたわよね。それを聞き流して、私はなんて愚かだったのかしら」


 私がしみじみ言うとサイラスは首を傾げた。いいかげん、本当に頭がおかしくなってしまったと思われているかもしれない。


「サイラス。早く家に帰りましょう。あなたにしてあげたいことがたくさんあるの」


「…? お嬢様、一体どうしたんで……」


「いいから、ほら!」


 私はぽかんとしているサイラスの手を取って走りだす。心が浮き立って、何でもできそうな気がした。



 私は、この不思議な巻き戻り現象を、神様が「サイラスを幸せにしたいなら、自分の手でやり遂げなさい」と言っているのだと解釈した。


 奇跡みたいなチャンスをもらってしまった。


 私は神様に感謝して、強く決意する。この人生では恨みに振り回されないで生きよう。ただ、サイラスを幸せにするために生きるのだと。

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