表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします  作者: 水谷繭
番外編4.趣味探し

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/29

7-①

軽めの番外編です!

 ある日の朝、私はいつも通りサイラスの元へ押しかけていた。


「サイラス、サイラス! あなたの趣味を教えて!」


「趣味ですか? どうして急に?」


「いいから教えて。知りたいの! 何をするのが好き? 何をしているときが一番楽しい? なんでもいいから教えてちょうだい!」


 私はぐいぐい詰め寄る。サイラスを幸せにするべく彼の好きなものを日々探っているのに、なかなか情報が集まらないのだ。


 そこで、サイラスの趣味を尋ねれば何かいいアイデアが思い浮かぶかもしれないと思いついた。しかし、サイラスは首を傾げて考え込んでしまう。


「何をするのが好き……あまり考えたことがありませんでした」


「何か一つくらいあるでしょう? していると幸せな気分になることとか」


「それでしたら、お嬢様にお仕えしている時間が一番幸せです」


 サイラスは、はっとしたように顔を上げると笑顔でそう言った。


「まぁ、私といるときが一番幸せなのね!」


「はい、お嬢様といるときが一番幸せです」


「嬉しい! ……って、そうじゃないわ! サイラス自身の趣味を知りたいの! 私に関係のないことで!」


「お嬢様に関係のないこと……」


 サイラスは再び考え込んでしまった。


「お嬢様の気に入っていた庭の花を育てたり……あ、お嬢様に関係ないことでしたよね。洋服店を回るとか? その中からお嬢様のお好きそうなドレスを売っている店を探して……、いや、これもお嬢様に関係することか。ほかには……」


 出てくるのは私に関係するものばかりで、なかなかサイラスの好きそうなものが出てこない。私は執事の延長としての趣味じゃなくて、サイラス自身の趣味を知りたいのだ。


 やきもきしながら考え込むサイラスを見ていた私は、ふと思い至る。


 もしかして、幼い頃から私がサイラスに面倒をかけ過ぎたせいで、サイラスは自分の趣味を見つける時間すらなかったのでは……?


 そうだ、私は子供の頃、サイラスが休みの日にも気にせず使用人寮の部屋に忍び込んだり、夜中にサイラスが仕事を終えた後も遊んで遊んでと駄々を捏ねたりしていた。私と一つしか年の違わないサイラスに甘えきっていたのだ。


 サイラスが好きなことや趣味を見つけられなかったのは、私のせいなんじゃ……。そう考えて、私はさっと青ざめた。


「サイラス、私が悪かったわ……! 今から趣味を見つけましょう!」


「今から?」


「そうよ、ちょっと待っていてね。今すぐサイラスの趣味になりそうなものを用意するわ!」


 私はすぐさま準備を始めた。音楽家を呼んでうちのお屋敷で即席コンサートを開いてもらったり、有名な絵画を集めてあるギャラリーに連絡をして貸し切りで作品を鑑賞させてもらったり、クリケット観戦をしに競技場を訪れたり。


 サイラスはずっと興味深そうな顔をしてそれらを観ていたけれど、夢中になっている様子とまではいかないように見えた。



「次は何がいいかしら。鑑賞するだけじゃなく、実際にやってみる趣味とか? ピアノやバイオリン……乗馬なんかもいいかしら」


 私は頭を悩ませる。サイラスはうんうん唸っている私に向かって、微笑みを浮かべて言った。


「お嬢様、ありがとうございました。どれも楽しかったです。けれど、もう時間も遅いので今日のところはやめにしませんか」


 言われて窓の外を見ると、確かに日が暮れかけていた。しかし、まだサイラスのぴんとくるものが見つかっていない。


「サイラスの趣味が見つかるまで探したいわ。だって、私のせいでサイラスは今まで好きなことを見つける時間すらなかったんだもの……!」


「そんなことを考えてらっしゃったんですか?」


 サイラスは私の言葉に驚いた顔をする。それから笑いだした。


「お嬢様のせいなんてことはありませんので、どうかお気になさらないでください」


「でも……」


「本当に違うんです。私はアメル邸に置いてもらう前から何事にも興味が薄い子供で……。何かを特別好きになるという感覚がなかったんです」


 サイラスは少しだけ寂しそうな口調で言う。


 私は目をぱちくりさせた。サイラスがうちに来たのは九歳のときだ。九歳の子供が何事にも興味が薄いなんてことあるだろうか。


 私が九歳の頃は、アクセサリー集めをしたり、馬に乗ったり、興味のある楽器を片っ端から試したりと、やりたいことだらけだったのに。おもしろそうなことを見つける度に、毎回サイラスをつき合わせていた。やっぱり私のせいな気がするんだけれど……。


「それ本当? 私に気を遣ってるんじゃなくて?」


「はい。むしろ、お嬢様のおかげでようやく色々なことに興味が持てたくらいです。世界が広がったことにとても感謝しております」


 サイラスは笑顔でそう言った。


「それならいいのかしら……。うーん、でも、やっぱり申し訳ないわ。だって、プライベートな時間まで執事の仕事のことを考えているわけでしょう?」


「私が好きでやっているだけですから、どうかお気になさらないでください」


 そう言われても、本当にいいのかなという気持ちが残る。けれど、そう言うサイラスの表情は明るかったので、ひとまずその言葉を受け入れとくことにした。


「わかったわ! それなら、これからも私が楽しいことをたくさん持ってきてあげることにする!」


「ありがとうございます、お嬢様」


 サイラスの手を掴みながらぶんぶん上下に振ると、サイラスは笑いながらお礼を言った。



 サイラスへの恩返しへの道のりはまだまだ長いそうだ。


 今後はさらにサイラスの好きなものを探って、絶対に幸せにしてあげるのだと、私は決意を新たにした。



終わり

閲覧ありがとうございました!


7/25から書籍発売中です。お見かけの際はぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ