6-④
「どうぞ。でも、期待しないでね……」
サイラスは私のあげた箱を開ける。
すると、中から先ほど私が作ったコンポートが出てきた。
さっきはあれほど綺麗に見えたというのに、サイラスの作ったコンポートを見た後だと、随分粗末に見える。
私は恥ずかしくなって俯いた。
「これは……」
「私も同じものを作ってたの。サイラスのとは随分違うけれど……」
「お嬢様が作ってくださったんですか?」
顔を上げると、サイラスは驚いた顔でこちらを見ていた。
私は躊躇いながら答える。
「ええ。知っての通り私料理なんてしたことないから、そんな出来だけど……」
「すごく上手にできていますよ。毎晩これを作っていらしたんですか?」
「そうなの、一週間前から夜に厨房を借りて」
「そこまでして……」
サイラスは瓶をじっと見つめて、感動した顔になる。
私は少々気まずくなりながら言った。
「サイラス、無理に全部食べなくてもいいからね。残していいわよ。私の作ったコンポート、サイラスのに比べたらきっと全然おいしくないもの……」
私がそう言うと、サイラスは驚いた顔をした。
「お嬢様に作っていただいたものを残すわけがないではありませんか」
「でも、私のは下手だし……」
「お嬢様が作ってくださったのなら、きっとなんでもおいしいです」
サイラスはそう言って微笑む。
その顔を見ていたら、沈んでいた気持ちが少しだけ立ち直ってきた。
「あ、あの……! スプーンも用意しておいたんだけど、今食べてくれる?」
「いいのですか? ぜひ」
サイラスはそう言って笑う。
それから私たちは、私の部屋のテーブルでお互いが作ったコンポートを食べることにした。
サイラスの作ってくれたコンポートは、シロップの甘さが絶妙で、リンゴの感触もちょうどよくて、先ほど味見した私の作った物よりずっとおいしかった。
これ、サイラスが自分で作ったものを自分で食べたほうがよかったんじゃないかしら。
私は再びいたたまれない気持ちになる。
すると、向かいに座っていたサイラスが言った。
「とてもおいしいです。一週間でこんなに上手に作れるようになるなんて、お嬢様はすごいですね」
サイラスは歪つなリンゴを口に運びながら楽しそうに言う。
「無理しなくていいのよ?」
「無理などしておりません。お嬢様が私のために作ってくださったコンポートですから、世界一おいしいです」
サイラスは真面目な顔でそんなことを言った。
なんだか大袈裟な気がするけれど、その言葉に思わず頬が緩んでしまう。
「ねぇ、サイラス」
「なんでしょう」
「私、次はもっとうまく作るわね。いつかサイラスより上手な料理作ってみせるから!」
そう宣言したら、サイラスはくすくす笑った。
「楽しみにしております」
「次はもっと難しい料理に挑戦してみるわ。サイラスのことびっくりさせるから待っててね!」
「えっ? そんな難しいものでなくても……。けがをするようなことはなさらないでくださいね。刃物や火を使わず、素材をそのまま使う料理などがいいのではないでしょうか」
「それじゃあ料理になってないじゃない!」
私は真面目な顔でそう提案してくるサイラスに文句を言う。
サイラスはその後も至極真剣な顔で、切らない果物の盛り合わせやら、野菜をちぎるだけのサラダなんかを勧めてきた。
さすがに私でももう少し難しいものが作れるはずだ。
私は心配性なサイラスの言葉を聞きながら、いつか絶対びっくりさせるような料理を作ってあげるんだからと、胸の内で意気込んだ。
終わり
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