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全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします  作者: 水谷繭
番外編.手が届かないはずの人

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22/39

***


 その日は、熱に浮かされたような気持ちで眠りについた。


 しかし、翌日になり、自分がとんでもないことをしてしまったことに気づく。


 ただの平民の執事が、あろうことか公爵家のご令嬢であるお嬢様に結婚を申し込むなんて、おこがましいにも程がある。


 お嬢様も言っていた通りおそらく旦那様はそんなこと許してくれないだろう。お嬢様は断られたら平民になると言った。


 お嬢様は公爵家で大事に育てられ、これからも何不自由なく生きていけるはずの方だ。それを私のわがままで平民に落とすなんて、決して許されることではない。



 私は急いで昨日のことを謝罪するためにお嬢様の部屋に向かった。


 謝罪を聞いたお嬢様は、眉を吊り上げて怒っていた。しかし、お嬢様の未来のためにはお言葉に甘えるわけにはいかない。


 嬉しかったのにと悲しそうな顔をするお嬢様に心を揺さぶられながら、必死で自分を抑えつけて説得する。



 結論が出る前に予想外の出来事が起きた。侍女がカミリアが暗殺未遂に遭ったと報告してきたのだ。


 ジャレッド王子は実行犯の「エヴェリーナ様に頼まれた」という言葉を鵜呑みにし、お嬢様を城に呼びつけたらしい。


 理不尽に婚約破棄をつきつけておいて、今度は暗殺未遂の疑いまでかけるどこまでも横柄なジャレッド王子に苛立ちが募る。しかし、私にはどうすることもできない。


 お嬢様に同行を願い出て、一緒に城まで向かった。



 王宮でのジャレッド王子は、いつにもまして横暴だった。わざわざ大勢の人を集め、ろくに証拠もないのにお嬢様が暗殺事件の首謀者だと糾弾する。


 蔑んだ目でお嬢様を見つめる王子にも、その王子に甘えたように腕を絡ませるカミリアにも吐き気がした。


 王子のお嬢様に対する暴言に耐えられず、思わず口を挟むと、彼は馬鹿にしたような目でこちらを見て言った。


 「ああ、お前がエヴェリーナが囲い込んでいる執事か」、と。


 否定しようとする私など気にも留めず、ジャレッド王子はお嬢様のほうを見てさらに言葉を並べる。


「なぁ、エヴェリーナ。こんな平民上がりの男でも相手にしてもらって楽しいのか? 身分も金もないつまらない男だろう。罪を認めて這いつくばって謝罪するなら、俺の妾にくらいはしてやってもいいぞ」


 ひどく侮辱的な言葉だった。一方的に捨てておいて謝罪するなら妾にしてやるなど、普通の神経をしていたら言えるはずがない。


 しかし、私に対する言葉だけは反論しようがなかった。悔しさに唇を強く噛む。


 お嬢様のそばにいるのが私ではなくもっと力のある存在であったら、彼女がこんな風に踏みつけにされることはなかったのに……。



 そう考えている時、目の前に飛び込んで来た光景に私の思考は停止した。


 お嬢様がジャレッド王子の頬を思いきり叩いたのだ。


 会場はしんと静まり返る。驚いて言葉を失っている私の腕を取り、お嬢様は言った。


「サイラスは優しくて優秀でかっこよくて、ずっと私を見守っていてくれた大切な人ですわ! つまらない男ですって? 殿下の自己紹介かと笑いそうになったわ。身分くらいしか取り柄がないあなたと違って、サイラスは世界一素敵な人なんだから!」


 お嬢様の瞳はあまりにも真っ直ぐだった。お嬢様は迷いなく、私にはもったいない言葉の数々を並べてくれる。こんなときなのに胸がいっぱいになる。



 だが、今は静かに感動していられるような優しい状況ではない。


 王子はお嬢様が大人しく従わなかったことが許せなかったようで、兵士にお嬢様を捕らえるよう命令した。急いでお嬢様の前に立ち彼女を背に隠す。


 お嬢様を見逃してくれるなら土下座だってなんだってするが、謝罪したところで頭に血が上った王子が聞き入れるかどうか。


 なぜだか一向に動き出す気配のない兵士たちを見つめながら、必死に頭を働かせる。



 ……騒動は第二王子であるミリウス殿下がやって来てジャレッド王子に反論したことで、あっさりと収束した。


 彼の言葉がきっかけで会場の空気は変わり、王子もカミリアも状況を覆せないようだった。


 ミリウス殿下は、後は自分が何とかしておくと言って、お嬢様に帰るよう促してくれる。


 お嬢様と二人、騒がしい会場を後にした。


 横暴なミリウス殿下のことは、正直に言うと今まで嫌厭していた。彼はお嬢様に散々無礼を働いた人間だ。しかし、今日のことは深く彼に感謝せざるを得なかった。


 同時に、自分にはどうしようもできなかった騒動をあっさり解決した彼に対して、自分はなんて頼りないのだろうと無力感に苛まれる。


 私にもっと、お嬢様を守れる力があればよかったのに。


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