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全てを恨んで死んだ悪役令嬢は、巻き戻ったようなので今度は助けてくれた執事を幸せにするために生きることにします  作者: 水谷繭
番外編.手が届かないはずの人

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***


 お嬢様は婚約破棄されて以降、常に私のそばにいて、色んな場所に誘ってくれた。その上私といるのが一番楽しいなんて言葉までくれた。


 もしかしたらお嬢様も私に何らかの感情を抱いてくれているのではないかと、期待しなかったと言えば嘘になる。


 しかし、そんな淡い期待はある日あっさりと打ち砕かれた。


 お嬢様は私を部屋に呼び出して、結婚相手を探してくれると言ったのだ。



 きっと私が喜ぶだろうと期待に満ちた目でこちらを眺める彼女は、自分がどれだけ残酷なことを言っているのか気付いていないのだろう。


 何とか心を落ち着かせて、そんなものはいらない、結婚は特に考えていないと告げる。


 しかしお嬢様は不満そうな顔のままだった。



 それでも何とかその日は納得して引き下がってくれたのに、翌日からお嬢様は頻繁に私に結婚を勧めてくるようになった。


 お嬢様にその話を切り出される度、泣きたくなった。


 お嬢様がずっと私を気にかけてくれていたのは、ただの親切心に過ぎなかったのだ。お嬢様も私を特別に想ってくれているのではないかなんて、思い上がりもいいところだ。


「サイラス? なんだか元気がないわね。大丈夫?」


 お嬢様は私が落ち込んでいるのに気づくと、心配そうに顔を覗き込む。幼い頃にもこんなことがあったな、と懐かしい思いで彼女を見る。


「いいえ、大丈夫です。ご心配をおかけしてすみません」


「そう? 無理してはだめよ」


 真剣な顔でそう言ってくれるお嬢様を見て、愚かな自分を戒める。手の届かないところにいる人なのは、最初からわかっていたではないか。


 お嬢様が私を何とも思っていなくても、気にかけてくれることに感謝しなくては。


 しかし、そう思い直した直後、お嬢様は私にまたも残酷な言葉を告げるのだ。



 再び私を部屋に呼び出したお嬢様は、眉根を寄せて困った顔をしていた。


「サイラス、私、ちょっと反省したの。今まで婚約者を探そうと強引過ぎたんじゃないかって」


 始め、その言葉に安心した。これでもうお嬢様に結婚相手を勧められなくて済むと。私は微笑んで言葉を返す。


「いえ、お嬢様のお心遣いには感謝しております。ただ、結婚は特に考えていないというだけで」


「そうよね。すぐに結婚なんて言われても困るわよね。だから、こうしましょう! 結婚相手とか大仰なものじゃなくて、会う機会だけ用意してあげる。理想の人を教えて。サイラスのためならどんな人でも見つけてくるから!」


 お嬢様は元気な声でそう言った。


 彼女はどこまで私の心を打ち砕けば気が済むのだろう。私はただ手が届かなくても、お嬢様の隣にいられればそれでいいのに。なぜそれをわかってくれないのか。


 抑えていた気持ちが溢れそうになる。


 気がつくと、お嬢様の細い腕をつかんでいた。お嬢様は驚いたように目を見開いた後、不安そうな顔になる。


 しかし、その顔を見ても手を離す気にはなれない。


「……どんな人でもいいと言うなら、お嬢様が私と結婚してくれますか?」


 感情が高ぶって、思わずそんなことを口走っていた。


 お嬢様は私を呆然と見つめている。それからお嬢様は、躊躇いがちに公爵家の婿になりたいのかと尋ねてきた。


 そんな風に受け取られたのかと悲しくなる。そうではなく私はお嬢様がいいのだと返すと、お嬢様は落ち着かなそうに視線を逸らした。


 しばらく会話を続けるうち、だんだん頭が冷えてきた。


 一体私は何をやっているのか。お嬢様はただ親切心で、私に結婚相手を見つけようとしてくれているだけなのに。それに苛立って、こんな八つ当たりみたいなことを言ってしまうなんて。


 お嬢様は言葉を失って困りきっている様子だった。


「お嬢様、すみません。執事の身で困らせるようなことを……。少し頭を冷やしてきます」


 自己嫌悪にかられながらそう言うと、お嬢様に手をつかんでひきとめられた。そうして私のことが好きなのか尋ねられる。


 ここまで言ってしまってはごまかすこともできず、観念してうなずいた。


 しかし、きっと困惑するだろうと思っていたお嬢様は、予想外の言葉をくれた。


「私と結婚しましょう! お父様にお願いしてみるわ! 却下される可能性が高いだろうけど、そうしたら私が平民になる! それなら問題ないでしょう?」


 呆気に取られて彼女を見る。


 お嬢様はさっきまでの戸惑い顔から一転して笑顔になり、楽しげに言葉を紡いでいた。


「私、あなたを幸せにしてあげたいの。それにあなたと一緒なら、私も幸せになれる気がするの。だめかしら?」


 お嬢様が澄んだ瞳でそう言ってくれるのが嬉しくて、気がつくと私は彼女を抱きしめていた。



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