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「お嬢様、お呼びでしょうか」
ベルを鳴らすとすぐさまサイラスはやって来た。私は笑みを抑えきれずサイラスを見る。私の表情を見て、サイラスは目を細めた。
「どうなさったんですか? また何か思いつかれたのでしょうか」
「えぇ。私、あなたにしてあげられることを思いついたの。きっと喜ぶと思うわ」
「それは楽しみです。またどこかへ連れて行ってくださるんですか?」
私に連れ回されるのにすっかり慣れたサイラスは、くすくす笑いながら言った。私は得意になって言う。
「あのね、サイラス。あなたの婚約者を探そうと思うの。サイラスの理想はどんな人? どんな人でも連れてきてあげるわ!」
サイラスは目を見開いた。それから首をぶんぶん横に振る。
「婚約者……? いりません、そんなもの!」
「遠慮しないで。私ならどんな綺麗な女の子も、由緒正しい家柄のご令嬢も探してこれるわよ? サイラスはとってもかっこいいし、働きぶりも優秀だから、相手のほうもすぐに好きになると思うの」
「本当にいりませんから」
自信満々に提案したのに、サイラスにはきっぱりと跳ね除けられてしまった。
「どうして……? 結婚とかまだ考えていない?」
「はい。私は特に結婚したいと思っていませんので」
心なしか普段より冷たい声でサイラスは言う。私はすっかり困ってしまった。噂を消すにはサイラスに婚約者か恋人を作るのが一番いいのに。
私が顔を曇らせたのがわかったのか、サイラスは表情を和らげて言う。
「お気遣いありがとうございます。しかし、今は結婚よりもお嬢様に仕えることを優先したいんです」
「私のことなんて気にしなくていいのに。自分の幸せを優先してちょうだい」
「お嬢様の役に立つことが私の幸せです」
サイラスはきっぱりそう言ってのけた。あんまり迷いなく言うので、その日はそれ以上勧める気になれなかった。
***
しかし、一度断られただけで諦めるはずがない。サイラスの幸せがかかっているのだ。
私はその日から何度もタイミングを窺っては、サイラスに婚約者の候補を勧めてみることにした。
サイラスが理想を教えてくれないので、年齢と家柄と評判を考慮してよさそうな令嬢を探してみる。私の部屋は侍女にこっそり集めさせた令嬢たちの絵姿でいっぱいになった。
しかし、どの令嬢も美しく評判のいい人ばかりだというのに、サイラスは一向に興味を示さない。
それどころか結婚相手の話を出すだけで顔を曇らせるようになった。最近は街に連れ出してもどこか元気がないので、こっちまで悲しくなってしまう。
ちょっと強引過ぎただろうか。そう反省していたら、一つ思い浮かんだ。
結婚相手だとか大げさなことを言うからサイラスが引いてしまうのだ。もっと気軽な友人程度から始められるよう、場をセッティングすればいいのではないか。
私は早速サイラスを部屋に呼び出すことにした。





