表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/39

4-2

 みんなが噂しているという話は本当だったようで、それから意識してみると、どこへ行っても私がサイラスといると微笑ましい視線を向けられていることに気づいた。


 つい最近までは、私のことを白い目で見てくる人も多かったというのに。


 悪意を向けられるよりいいはずだけれど、なんだか落ち着かない。特にご令嬢たちは私に興味津々のようで、しょっちゅう親しげに声をかけてくる。


 今日もとある侯爵家主催のお茶会に参加したら、ご令嬢たちに一斉に囲まれてしまった。


「ごきげんよう、エヴェリーナ様!」


「エヴェリーナ様、今日はサイラス様と一緒ではないんですの?」


「今日は、サイラスはお屋敷で仕事があるから」


 ご令嬢たちの勢いに押されながらそう告げると、彼女たちはいっせいに残念そうな顔になる。


「まぁ、残念ですわぁ。一緒にいるところを見たかったのに」


「ねぇ、エヴェリーナ様。サイラス様とは幼い頃から一緒だったんでしょう? いつから好きになったんですの?」


「いや、サイラスはとてもいい人だけど、好きなわけじゃ……」


「まぁ、素直になっていいんですのよ。もう王子の婚約者でもないんですし!」


「いや、その……」


 やんわり否定しようとするのに、ご令嬢たちは聞く耳を持たない。


「けれど、今思い返すとジャレッド王子のエヴェリーナ様がカミリア様に嫌がらせしたから婚約破棄って主張、あり得ませんわよね。嫉妬でカミリア様に嫌がらせしたなんておっしゃっていましたけれど、サイラス様のことが好きなエヴェリーナ様が王子のことで嫉妬するはずないじゃないですか」


「本当よね。私は最初から怪しいと思っていたのよ。カミリア様ってほら……世間では清廉な聖女って言うことになっているけれど……、エヴェリーナ様が婚約者だった頃からジャレッド王子にべたべたして、変だったわ」


「きっとエヴェリーナ様を排除したかったのよ。この前もリーシュの祭典で無理矢理エヴェリーナ様を舞台に引っぱりだそうとしたなんていうし! 大変でしたわね、エヴェリーナ様」


 令嬢たちはすっかり私に同情しているようだった。思わず呆然としてしまう。


 一回目の人生では、どんなにカミリアに嫌がらせなんてしていないと主張しても信じてもらえなかったのに。王子とカミリアの嘘を放置していた今回の方が無罪を信じてもらえるなんて、なんて皮肉な結果だろう。


「エヴェリーナ様、私たちは応援していますからね! サイラス様も絶対にエヴェリーナ様のことが好きなはずです!」


「がんばってくださいまし、エヴェリーナ様っ」


 ご令嬢たちはそう言うと、キャッキャと楽しげに話しながら嵐のように去って行った。


 私はただぽかんとして彼女たちの背中を見送ることしかできなかった。



***



 人々からの視線はすっかり温かくというか、生ぬるくなったけれど、私は少々焦っていた。


 私がサイラスを囲い込んでいるなんて噂が流れていると知ったときはつい笑ってしまったが、ここまで噂が広まっているのではちょっとまずいのではないかと思い始めたのだ。


 みんな私とサイラスが身分違いの恋をしていて、王子に婚約破棄されたおかげでやっと自由に振る舞えるようになったと思っている。


 私はもう良い縁談なんて望んでいないからどうでもいいが、問題はサイラスだ。


 公爵令嬢とこんな噂を流されては、サイラスが結婚相手を探すときに障害になってしまうのではないか。


 せっかくサイラスは美形で性格もいいのに、公爵令嬢に好かれているからと素敵なご令嬢に身を引かれては問題だ。


 私より一つ年上のサイラスは現在十九歳。結婚を急ぐ年ではないけれど、このまま噂が広まってしまえば影響が出かねない。


 しかし、私が噂を否定したところでみんな照れているとしか思わず信じてくれない。一体どうしたら……。



「……そうだ! サイラスに婚約者を探してあげればいいのよ!」


 名案だと思った。それが一番いいはずだ。


 サイラスに以前恋人がいるのか尋ねてみたことがある。もしも恋人がいるなら、あんまり色んな場所に連れ回すのは悪いと思ったからだ。


 そのときサイラスは、なぜだか顔を赤らめて「そんな相手はいません」と妙に力を込めて言っていた。


 けれど、サイラスに別に相手がいれば、サイラスが私を好きだという噂はひっくり返せる。


 私は婚約者に加え執事にも振られたと噂を流されるかもしれないが、それは別に構わない。今回の人生はサイラスを幸せにするためだけに使うと決めたのだから。


 決めたら早速行動に移さなければ。サイラスはどんな女の子が好きだろう?


 考えてみても思い浮かばず、本人に聞いてみることにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/25から書籍発売中です
ぜひぜひよろしくお願いします!
k5b2g5nkfi82c1216xsth83jkrtn_1tf_d8_jg_4qvh.jpg
こちらの可愛すぎる表紙が目印です!


ピッコマでも待てば無料で読めます
⭐️ピッコマ
8/24(日)までなら無料範囲増量&チャージ時間短縮で読めるのでぜひお早めに!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ