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誘拐 4

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「あら可愛い」


 急遽、ケイフォード伯爵家からセアラのドレスを運び込ませて、ダーナとドロレスの手によって着飾らされたエルシーは、珍獣にでもなった気分を味わっていた。

 着飾ったエルシーを一目見ようと、シスターたちがわらわらと集まっては、面白そうな顔をしていくからだ。


「そうしているとお姫様みたいに見えるわね」

「そうそう、大人しくしていれば、エルシーは可愛らしいものね」

「行動がいろいろ残念だけど」

「その姿で走り回るのはやめなさいね」


 どうしてだろう、褒められている気がしない。

 シスターたちの容赦ない言葉を聞いて、ダーナとドロレスもくすくすと笑っている。

 クラリアーナはフランシスとともに騎士たちの持ち場を確認しに行ったのでこの場にいないが、今回はクラリアーナの指示で、とにかく「お姫様」に見えるように派手に着飾るように指示を受けていた。ゆえに、王宮のお茶会に参加したときよりもさらに盛られている。

 ダーナとドロレスは、思う存分エルシーを着飾れて満足のようだ。


(それにしても、クラリアーナ様って本当に頭がいい方ね!)


 エルシーが着飾っているのは、セアラを攫った誘拐犯を捕まえるために他ならない。

 クラリアーナの作戦で、エルシーは「セアラ・ケイフォード」として、フランシスとともに修道院の視察に来たことになっているのだ。


 国王陛下が妃候補を連れて視察に来たという情報は、騎士たちを使ってケイフォード伯爵領全体に広めてもらった。フランシスが即位してからケイフォード伯爵領に足を踏み入れた記録はなく、領民たちは大盛り上がりで、噂はあっという間に広まったらしい。

 野次馬が集まると困るので、修道院の前には騎士を見張りにつけ、集まった人々が修道院の敷地内に入らないように監視させている。


 そしてクラリアーナの計画では、視察を終えたあと、エルシーが修道院の裏手を散歩したいと言って一人になる。おそらく犯人たちは、そのタイミングでエルシーを攫おうと動くはずだとクラリアーナは言った。

 誘拐犯たちは、いつまでたってもケイフォード伯爵からの返答がなくやきもきしているはずである。そのタイミングで本物が現れたら、偽物を攫ったから連絡がないのだと、大慌てで本物を攫いに来るはずだと言うのがクラリアーナの見立てだった。みすみす大儲けできるチャンスを逃すはずがないという。


(人を誘拐して身代金をせしめようと考えるような輩は、頭がいいように見えて思考回路は単純だから、絶対に引っかかるってクラリアーナ様は言っていたけど、そういうものなのかしらね?)


 とにかく、準備は整った。あとはクラリアーナの計画通りに行動するだけだ。


「準備はできまして?」


 シスターたちが珍獣鑑賞にあきて部屋を出て行ったころになって、クラリアーナがやってきた。フランシスも一緒だ。

 子供たちには、エルシーがセアラのふりをすることは内緒にしてある。子供たちはうまく演技ができないだろうから、彼らには「エルシーとそっくりなお姫様が来る」としか伝えていないらしい。

 クラリアーナは愛用の扇をエルシーに差し出した。


「あとはこちらで口元を隠して、視察中は何も言わずに微笑んでおけばいいですわ」


 エルシーは手渡された扇を見て感動する。クラリアーナがいつも持っている扇で、ずっと羨ましく思っていたものだからだ。


(これがあれば暑いときにいつも扇げてとても便利!)


 もちろん借りものなので終われば返さなくてはいけないが、借りているうちに扇の構造を確認して、今度手作りできないか試してみよう。


「エルシー、関係ないことを考えていないか?」


 エルシーがにまにま笑っていると、フランシスが胡乱気な視線を向けて来る。


「余計なことを考えると失敗するぞ。集中しろよ」

「わかりました」


 扇の構造チェックは作戦が終わったあとにしよう。

 エルシーがきゅっと表情を引き締めると、フランシスが今度は「肩の力を抜け」と言ってくる。いろいろ注文が多い。


「とにかく、お前は何も言わずに俺の隣を歩けばいい。口を開くとボロが出そうだからな」

「はい」


 あんまりな言いようだが、ボロが出そうだとは自分でも思うので、ここは素直に頷いておく。

 セアラのためにも、ここは失敗するわけにはいかないのだ。


「見えないところに騎士は配置してある。だが、それでも用心してくれ」

「大丈夫です!」

「……お前の『大丈夫』ほど、不安を覚える言葉はないな」

(心外な!)


 エルシーはムッとしたが、きっとフランシスもエルシーの活躍を見れば考え方を変えるはずだ。


(ふふ、ちゃーんと用意してあるもの!)


 エルシーはドレスの上から左の太もものあたりに触れて、にんまりと笑った。


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